【事例20社】企業のIR説明会における人的資本Q&A

はじめに:企業と投資家の認識のギャップ

人材を中長期的な企業価値向上の源泉として位置付ける「人的資本経営」の国際的な普及に伴い、日本でも人的資本は官民問わず重要なトピックの一つです。「人材版伊藤レポート2.0」(2022年5月)や「人的資本可視化指針」(2022年8月)をはじめとして、人的資本経営の実践・人的資本情報の開示を目指した取り組みが続けられています。

ここで論点となるのが、「企業が重視する情報」と「投資家が重視する情報」の認識ギャップです。一般社団法人生命保険協会の調査によると、人的資本経営実現のために重視するテーマについて、企業と投資家の認識ギャップの存在が示唆されています。「経営戦略と人材戦略の連動させる取組」については双方が重視している一方で、「人材に関するKPIを用いた「As is-to beギャップ」についての定量把握」は大きな認識ギャップが示されています。

出典:一般社団法人生命保険協会「企業価値向上に向けた取り組みに関するアンケート」(p.27)

人的資本開示を中長期的な企業価値向上につなげるためには、投資家の関心に向き合い、事業の持続的な成長を投資家に納得してもらうことが不可欠です。

本記事では、投資家が企業の人的資本経営にどのような関心を持っているのか、企業のIR説明会等における具体的な質問をもとに考察します。
※Q&A掲載企業:三井化学株式会社、富士通株式会社、伊藤忠商事株式会社、住友商事株式会社、株式会社コンコルディア・フィナンシャルグループ、MS&ADインシュアランスグループホールディングス株式会社

投資家からの質問事例

考察にあたり、収集した質問を「人材版伊藤レポート」の枠組みに基づき、「3つの視点」と「5つの共通要素」に分類しました。

出典:経済産業省「人材版伊藤レポート」(p.32)

全体的な傾向として、「経営戦略と人材戦略の連動」「知・経験のダイバーシティ&インクルージョン」「動的な人材ポートフォリオ」「社員エンゲージメントを高めるための工夫」に関する質問が多く観察されました。

出所:コトラ作成(質問数:82問、企業数:20社)

以下は、具体的な質問と回答の内容です。
※一部の質問・回答は紙幅の都合上、原文の内容を損なわない範囲で編集しています。

視点1:経営戦略と人材戦略の連動

質問回答出典
非財務KPIの従業員エンゲージメントスコアを役員報酬に紐づけるとの事だが、いつから反映し、どう影響があったのか、そして役員の意識の変化はあったのか説明して欲しい。昨年度に役員報酬制度を改定し、報酬への反映は今年度からである。役員賞与に非財務指標を取り入れており、その指標の1つにエンゲージメントスコアがある。今年度はエンゲージメントスコアによる大きな変動は無かったが、今年度のエンゲージメント調査結果次第で、来年度の役員賞与が変動する可能性はある。
従業員エンゲージメントスコアは、役員のみでなく、ライン管理者も業績評価の対象になっており、意識が高まっている。従来は上司評価を意識する事が多かったと思うが、360°評価を行っているわけではないものの、こうした新しい視点が取り込まれることで、360°の視点で自分がどうあらねばならないかという意識に変わってきていると思っている。
三井化学株式会社「2023年7月 ESG説明会 質疑応答要旨」
非財務KPIの従業員エンゲージメントスコアを役員報酬に紐づけた結果、事業方針や事業戦略に変化は起こっているのか説明して欲しい。事業方針や事業戦略に直接影響が出るというよりは、事業計画実行の成功率、達成度向上に効果が出てくると期待している。ライン管理者のリーダーシップのあり方に影響が出てくると思っており、例えば先頭を走っていくタイプのリーダーが、部下の背中を後押しするような考え方になるといった変化に繋がることが重要と考えている。
その結果として、事業計画の達成度が変わってくることに意味がある。非財務KPIの取り組みはまだ始めたばかりなので、モニタリングしながら臨機応変に変えていく姿勢も必要ではないかと考えている。
三井化学株式会社「2023年7月 ESG説明会 質疑応答要旨」
三井化学は合併を重ねてきた中で、どの様な考え方で人材を融合させてきたのか。また、業績が苦しい時と業績が改善しポートフォリオを変革していく中で人的資本がどの様に変化しているのか説明して欲しい。三井化学グループは、アライアンスを繰り返しながら構成され、現在は、三井化学が発足する1997年以前に入社した社員は2割を切っており、三井化学になってから入社した社員が大多数となってきている。さらに、アライアンスや中途採用等により様々なバックグランドをもった多様な人材で構成されている。
会社の理念やVISION2030等、目指すべき方向でグリップを効かせながら、社員が最大限能力を発揮できるようにマネジメントを行うようにしている。社員をある形に当てはめて縛るのではなく、それぞれの個性を発揮しアウトプットを最大化できるようにするのが経営者の役割だと考えている。
効率性、生産性を追求するような社会や時代においては、しっかりと型にはめたマネジメントの仕方が良かったのかもしれないが、今後当社が目指していくビジネスモデルを展開していくうえでは、新しいアイデアや、いかにビジネスに付加価値をつけていくかということが大事になってくる。最低限のグリップの中で、社員がのびのび働けるような環境を作っていきたい。
リーマンショック後は経営環境が厳しく採用を制限していた時期もあるが、そんな時でも必要なM&Aは実施してきたので、国内外問わずグローバルに新しいバックグラウンドを持った人材を獲得できている。即戦力採用においても、様々な幅広い領域から入社頂いており、高い定着率となっている。
三井化学株式会社「2023年7月 ESG説明会 質疑応答要旨」
グループ企業に対する働き方改革のこれまでの導入事例や今後の展開方針があれば、教えてほしい。当社のグループ企業は多数あり、各企業が独立性を持って人事施策を検討しているが、当社の働き方改革の各施策は全て開示し、出来ることから取組んで頂くようにお願いしている。
当社が先行して実施した「朝型勤務」や「がんと仕事の両立支援策」は、既に多数のグループ企業が導入・実行済み。当社における成果を確認した上で、グループ企業がその施策を導入する形をとっている。
また、人事制度全体のプラットフォームとなる施策や労務関連等については、常にグループ企業との検討会や勉強会を開催しており、その場を通じて敷衍している。更にご要望があれば、制度の構築等についてのご相談もお受けしている。
伊藤忠商事株式会社「2022年5月 サステナビリティ説明会 質疑応答議事録」
⾶躍的な利益成⻑を担保する仕組みとして、従業員へのインセンティブや4象限における⼈材再配置等の変化があれば教えてほしい。戦略軸での組織体制と経営会議体制の⾒直し、各営業グループへの権限委譲による⾃律経営が組織体制としての変化。加えて、⼈材のエンパワーメントとして、タレントマネジメントを強化していく。例えばWill採⽤によって若⼿の⼒を引き出す採⽤⽅針への変更や、年次の撤廃、⼈材要件の明確化、経営⼈材の育成等、グローバルでタレントマネジメントの強化を進めることで、組織の成⻑をリードしていきたい。住友商事株式会社「2024年5月 通期決算説明会・新中期経営計画説明会 質疑応答」
貴社執行役員が⼈事担当として来られて以降、過去1年間で実施した⼈事施策とその効果について、また今後やるべきことについて、教えてほしい。同⽒の外資系企業でのご経験を踏まえた考え⽅が随所で表れており、会社全体として、⼈事制度改⾰を実⾏している。例えば、新⼊社員のWill採⽤の導⼊や、⼊社式の形式変更、理事の在り⽅の⾒直しや、年次の撤廃に伴う⼈材要件の明確化等の施策を実⾏し、社内の⼈材の流動性を⾼める仕組みを導⼊することで、今後の成⻑の原動⼒としていく。また、経営⼈材の育成についても課題はあるが、新たな⼿法で⼈材を開発していく仕組みも作っており、⼈事制度の刷新に向けて様々な⾯で貢献している。住友商事株式会社「2024年5月 通期決算説明会・新中期経営計画説明会 質疑応答」
投資家が期待していることは、総合商社としてのコングロマリットプレミアムを創出できるような⼈事制度を整備すること。同業他社に対して強みを有するために、総合商社としての総合⼒の発揮が重要と思う。例えば、業務プロセスにおける⼈件費よりも、⾃動化導⼊の投資コストが下回る様な事例を、事業領域を横断して展開する等、事業・機能の横展開によって付加価値を出すことにドライブがかかるような⼈事制度の仕組みがあるか、現制度と今後の⾒通しについて伺いたい。⼈事制度は、現場の運営が⾮常に⼤事だと考えている。当社では1970年代に部⾨制を導⼊して以来、部⾨のサイロ化が課題となっていた。サイロ化から脱却し、連携を図り、総合⼒を発揮することに⻑年取り組んできた。現在、事業を⽣むSBUの現場において、総合⼒を価値に転換できるような、組織の活性化に着⼿している。基本的な考え⽅としては、三強経営。世界各拠点における⼈材を含む七千数百名で構成された当社⾃⾝により総合商社機能をドライブし、900社弱のグループ会社の「個」の稼ぐ⼒を最⼤限⾼めていく。その上で、グループ全体が協⼒し、グループ⼒を最⼤、最適化していく。この三つの観点での組織⼒強化を、54のSBUがそれぞれ戦略の中に織り込み、コーポレートがグローバルベースで⽀えていくということを徹底してやっていきたい。この考え⽅に基づいて、現場がDE&Iを推進していくことにより、総合⼒を発揮し、ひいてはコングロマリットプレミアムにつながっていくと考えている。
当社はセクショナリズムの壁が⽐較的低く、横連携のハードルは低い⼀⽅で、当社の成⻑のためには、横連携だけでなく、各 SBU が結果を数字として出さなければならない。予算策定においては、稼ぐ⼒を如何に伸ばし、当社の成⻑につなげていくかを前提としており、責任者クラスの⼈については定量評価することとしている。横連携ができていない、あるいは意図的にしない⼈は定性評価においてマイナスとなるため、横連携は担保されている。ただ、現時点では、横連携以上に各SBUが稼ぐ⼒を伸ばすことを優先すべきと私⾃⾝は考えている。
住友商事株式会社「2023年9月 IR Day 2023 第2部 質疑応答」
MSとADの雇用条件格差について、今後調整する必要性があるのか、もしくは人的資本経営の観点で、ある程度の格差は正当化されるものなのか、現状の取り組みや今後の方向性について教えてください。雇用条件の格差については、経営統合以来の課題だと思っています。人事制度や処遇水準は歴史や経緯があるので、個社での対応だけでもかなりのエネルギーが必要であり、その観点で個社でより良くしていくためにこの十数年やってきました。雇用環境が大きく変わり、特に若年層の就業感が大きく変わってくるこの節目で将来に向かってどうしていくかについては、改めて議論を詰めているところであります。
給与水準については、激変緩和等の観点で直ちに統合は難しいと思います。一方で、何を軸に従業員に働いてもらうのか、何を軸に会社として評価をしていくのかの観点で、例えば、若年層は、特に自律的なキャリアプラン形成に非常に関心があると思っていますので、そこを後押しするための前提スキルを軸に評価をしていく等の形に人事制度を合わせていく議論をしています。
過去の経緯や、メンバーシップ型の良さみたいなことも活かしながら、どのように人事制度面の統合に向かっていくという事については現在検討中であります。また、人事システムを統合してグループ全体の人財ポートフォリオをしっかり見ていくことや、特に専門性の高い人財の相互活用、グループ内出向で兼務してもらう等、様々な形でグループ全体の人財戦略、人財ポートフォリオの最適化というようなことに取り組んでおります。
MS&ADインシュアランスグループホールディングス株式会社「2024年1月 ESG説明会 質疑応答要旨」
MS&ADグループには国内保険事業会社が5社ありますが、人事制度に関しては激変緩和措置を入れつつ統合していくという理解で良いでしょうか。また新卒採用に関しても一括採用のようなことを検討されていますでしょうか。現在、MSとADの人事制度の統合の可能性について具体的に検討しております。それを実現できれば、例えばMSA生命にも広げていくことも検討していくと思います。ただこれも激変緩和措置を要し、直ちにということはできません。生保と損保の違いもありますので、考え方や哲学を統一するような方向になるかと思います。
一方で、MSP生命は80%以上の社員が経験者採用・キャリア採用で、すでにジョブ型雇用に近いので、これを統合していくことが馴染むかについては、今後検証していくことになります。まずはMSとADでしっかり詰めていく必要があると思っています。
新卒採用についてもかねてより議論しています。現実問題としてMSとADで別々に採用活動をした方が効率が良いとか、採用できる人財の質が高い等もあり、具体化にまだ動いておりません。ただし、一括採用は将来的な課題と引き続き認識していますので、検討は続けたいと思っています。
MS&ADインシュアランスグループホールディングス株式会社「2024年1月 ESG説明会 質疑応答要旨」
役員報酬制度については、例えば、外国人の登用・報酬の十分性の観点や、ROR等のリスクに対する指標の導入等の観点があると思っていますが、現在の制度の評価と課題について教えてください。経営者、マネジメントの報酬については様々な意見がありますが、報酬を高くしなければ有能な人財が確保できないというのはひとつのバイアスではないかと思っています。何をもって人財と言うのかといったことも含めトータルとして報酬を考えねばなりません。経営者がどういう改革や社会貢献をしたいか、人間としても品格を持っている方の価値を認めることを含め、報酬委員会において様々な価値観がある中で議論をしているところです。
評価体系には、各種指標があることは承知しています。今は中計の途中で、会計基準が変わる時に経営管理指標も変わるので、どのタイミングで見直すべきなのかを含め、検討はしていますが、現時点で直ちに具体化しているものはないです。様々な研究を続けている段階であり、報酬体系を変えることに株主の皆様に納得頂けるようなタイミングで、見直しをしていく可能性はあります。
また、外国人経営者の報酬体系は国やマーケットにより異なっており、持ち株の人事担当として個別に見ていますが、持株の報酬委員会の検討議題にはしていません。海外子会社の親会社である、主にMSの中の経営管理の一環として見ている状況です。
MS&ADインシュアランスグループホールディングス株式会社「2024年1月 ESG説明会 質疑応答要旨」
人的投資における課題を教えてください。社員の「このように成長したい」「成長のための制度を活用したい」という意識は高まってきていると感じています。特に、若い社員を中心に高い成長意欲を持ってくれていると感じております。一方で、スリム化を進め、日々の業務の効率化を図っている中で、教育に充てるだけの時間をどのように捻出するかという点が課題と感じています。生産性を上げるためにさまざまなことを割切ってやめていくなど、いかに生産性を上げてその時間を捻出するかという点がポイントだと考えています。株式会社コンコルディア・フィナンシャルグループ「2024年5月 インフォメーションミーティング 質疑応答」
サクセッションプランにおける面談者が具体的にどのような点を課題と捉えているかについて、教えてください。また、面談者が「企業価値向上に向けた取り組み」についてどのようなご意見を持っているのかについても教えてください。サクセッションプランにおける面談者は、それぞれが、いま自分がやっている業務に対する問題意識をしっかりと持っていて、今後どのようにしていきたいかという意見を持っています。これは非常に重要なことだと思います。
コンコルディア・フィナンシャルグループ全体をどうしたいかという点については、われわれが面談している太宗が今後の役員候補の方々であるため、社長のレベルに立って考えるというところまで面談で話ができていないというのは事実です。ただ、彼・彼女らが責任を持っている業務において、「ここをどう変えていくべきか」、「ここを変えていきたい」という意識を常に持っており、それぞれが意見をきちんと我々に伝えているので、その点は重要だと考えています。
「ある一定の役職に就いたなら、常に1歩上を考えろ」と私自身は常に思っています。課長であれば部長以上の目線で、部長であれば執行役員なり本部長なりの目線で考える。その上で、いまの自分が何をすべきなのかということを考えるのだということを、前職においても部下には言っていました。そのような意味では、面談者の皆さまは非常に高い意識を持ちながらやっている方が多いと感じています。
株式会社コンコルディア・フィナンシャルグループ「2024年2月 IR Day 質疑応答」
これまで一人あたりソリューション収益を伸張させてきたが、そのドライバーは何か。また、今後も伸ばしていくためには、これまでとは異なる取り組みが必要となるのか。ストラクチャードファイナンスなどの高付加価値ファイナンスがドライバーとなっており、アセットの積み上げとともに、収益を増加させてきた。前中計期間では、本部直接営業を強化し、ニーズのあるマーケットへ集中的に取り組んだことで大きく収益を伸ばすことができたと認識している。
ただ、そのやり方では持続可能性が低いと考え、現中計ではリソースの再配置も含め、本部直接営業・支店が一体となった取り組みを進め、培ってきたノウハウを営業店へ広げている。例えば、本部直接営業等で経験を積んだ人財を神奈川県内営業店の管理役職者として配置し、担当者の指導をおこなっている。しっかりとローテーションを組み、人財を循環させることで、徐々に営業店へもノウハウが浸透していくと考えている。
また、CRMの刷新など生産性向上の取り組みも進めている。前中計とはフェーズが異なるので、伸び率は鈍化していくと思うが、高付加価値ファイナンスの担い手の広がりとともに、着実に一人あたり収益を伸ばしていけると考えている。
株式会社コンコルディア・フィナンシャルグループ「2023年4月 IR Day 質疑応答」

視点2:As is-To beギャップの定量把握

質問回答出典
財務/非財務指標との関連性を調べているということですが、今後どのような分析をし、財務/非財務指標の達成にどのように活かしていく予定でしょうか。様々な人事データと業績との関係分析については、業績の伸び率データを今後蓄積して中期的な観点から分析の確度をあげていこうと思っています。また、業績との関係性だけでなくエンゲージメントや学習時間など、人的企業価値向上モデルの関係性の中でどの施策がどう影響していくのか、KPIとして何を特定していくのかについて試行錯誤しながら多面的にデータ活用していきたいと思っています。富士通株式会社「2023年10月 ESG説明会 質疑応答議事録」
2023年度の採用計画数でキャリア採用は800名以上を掲げていたかと思いますが、現在の進捗はいかがでしょうか?特にコンサルティングや研究開発など様々な職種があると思いますが、順調に採用できている分野と、まだまだこれから採用しないといけないと感じている分野がありましたら、それぞれお伺いしたいです。キャリア採用の全体的な傾向は順調です。特にこれは報酬水準見直しの影響があるのかもしれませんが、内定のオファーをした人の受諾率は、前年に比べても上がってきています。800名以上としていますが、人材リソースマネジメントの権限を現場部門に権限委譲しましたので全社で800名必ず採用するということではなく、目安として公表しています。これから強化していかなくてはいけないのは、25年度までに1万人にすると公表しているコンサルティングの要員で、どのように増やしていくのかについて、現在検討しています。これから教育もしくは外部からの採用を具体的に進めていくという段階です。富士通株式会社「2023年10月 ESG説明会 質疑応答議事録」
2022年度の実績と2025年度までの目標数値から達成率を推計すると、項目によってかなり差がありますが、一気に目標を達成することもあるので、現時点では、達成率の低い項目でも全部青(目標達成に向けた計画を超過達成)でいいという考えでしょうか。例えば、男性育児休業取得日数は、営業日ベースで考えると40%程度の達成率となりますし、女性管理職比率と女性ライン⾧比率の目指す目標に対する達成率にも違いがあります。どういう基準で超過達成と評価しているのか、その考え方を教えてください。全体的な評価は難しいのですが、多くの項目が50%を超えていると思います。ご指摘のあった男性育児休業取得日数の目標は、カレンダーベースで4週間ですので、達成率は低めだと思います。この数値は取得する人の中で⾧期に取得する人がいると平均日数が大きく増える一方、その人が職場復帰すると大きく減少しますので、必ずしも直線的に増えていくものではありません。よって、全体的な底上げを着実にやっていく必要があり、達成は大変だと思います。同じように達成が大変と思う項目もありますし、逆に難易度が低過ぎと思う項目については上方修正を考えています。ご指摘の通り、男性育児休業取得日数8.1日は目標の4週間に比べて、かなり低いですが、他の一般の企業で実際に取得されている日数と比べると頑張っている水準と言えます。女性のライン⾧比率は少し引き上げられたような気がしますが、一般的な管理職の比率ではなく、ライン⾧の比率を出している点は評価できると思います。逆に、エンゲージメント向上は、意識の問題なのですが、こうしたアンケート調査以外の他の手法もありえるでしょうし、デジタル人財については、これからはほとんど全ての人がデジタル人財にならねばならないので、この数字も検討が必要です。KPIは現実に当てはめて変えていく必要があります。MS&ADインシュアランスグループホールディングス株式会社「2024年1月 ESG説明会 質疑応答要旨」
人財戦略のAs is-To beギャップについて、詳しく教えていただきたい。ソリューション・カンパニーの実現には、さまざまな経営課題の解決手段を実装する必要があるが、現状ではまだスキルにギャップがあると認識している。例えば、個人のお客さまに対するソリューションであれば、資産運用、ローン、コンサルティングなど幅が広く、全員がすべてのニーズに対して単独で解決できるわけではないのが現状である。お客さまニーズにワンストップで応えるにはまだ道半ばであり、しっかりと取り組みを進めていく。株式会社コンコルディア・フィナンシャルグループ「2023年4月 IR Day 質疑応答」

視点3:企業文化への定着

質問回答出典
一連の働き方改革が成功してきたポイントや秘訣を教えてほしい。ポイントは幾つかあるが、トップの強力なイニシアチブが最も重要なポイントになる。働き方改革は、社員のいわば「心の改革」を伴うものであることから、トップの強い拘りや一段強いイニシアチブといったものが必須。次に、ストーリーで社員の心を動かすことが必要であり、誰もが分かる平易な言葉・キーワードを用いて推進することが重要。例えば、「がんと仕事の両立支援策」では、「あなたの居場所はここだ」というメッセージを発信している。「自分の居場所がここだ」と思った時に人は大きな力を発揮する。更に、業績との関係も重要なポイント。業績が悪いと「改革のせいで業績が悪化した」と言われ、改革の内容が良くても頓挫するのが常。従い、改革を行う場合には、経営者の業績に対する確たる自信が必要になる。業績が悪い時の改革は、リストラ等がメインになるのではないか。最後のポイントになるが、当社の働き方改革は、「三方よし」の精神に基づいており、この「三方よし」が社員の心に根付いていること。当社は20年に企業理念を「三方よし」に改訂したが、通常であれば、企業理念の社員周知には多大な労力を要するが、当社は企業理念改訂に関する説明会等は、一切行っていない。「三方よし」の精神が、既に社員に根付いていた証になるが、これほど企業理念が浸透している会社は稀であり、当社の強みにもなっている。以上が、当社の働き方改革を後押ししたポイントである。伊藤忠商事株式会社「2022年5月 サステナビリティ説明会 質疑応答議事録」
挑戦して失敗した社員に、再チャレンジできる仕組みはあるか。社員の挑戦する意欲が減らないよう、チャレンジ・再チャレンジができる仕組みの有無は重要なポイントと考えている。⼤事なことは、失敗してもまたチャレンジし、成功するまで継続する⼤切さと、失敗したが、そこで学んだことを次の新たな業務に⽣かしてもらうという⼤切さを、会社として強く、⼀⼈⼀⼈の社員に伝えることだと思う。私⾃⾝も社⻑としてダイレクトに社員に伝えるという機会をできるだけ多く設けるようにしている。例えば、「0→1チャレンジ」というプログラムでは失敗する数のほうが多いが、再度チャレンジし、実際に起業まで進むという事案もでてきている。そうした経験者が、思いや、経験から学んだことをパネルディスカッション等における意⾒交換を通じて社内で共有する。こうした地道な努⼒を、継続的に実践していくことが⾮常に重要だと考えている。住友商事株式会社「2023年9月 IR Day 2023 第2部 質疑応答」
財育成の観点で、御社がミッションとして掲げる「バリュー」の一つである、「お客さま第一」について伺いたいと思います。他社グループが開示したビッグモーターの問題に関わる調査委員会の報告の中で、顧客利益を重視せず代理店優先ではないかとの指摘があったかと思います。これは、その会社だけでなく、損保業界全体に対して、顧客の方を向いて仕事をしているのか、代理店だけを見ているのではないかとの厳しい目が向けられているということではないかと思います。社員が「お客さま第一」に向け仕事を行うための、他社とは異なる取組みや、人財育成の中での意識付けについて説明いただきたい。これまでお客さま第一を掲げてきたものの、今年度発生した2つの問題を踏まえ、十分でなかった点について反省をしています。価格調整問題に関しては、お客さまと代理店のそれぞれの関係性が曖昧になっていたことが否めないと考えています。改めて、日々の業務において、保険のご契約者であるお客さま、ご契約者になる可能性のある将来のお客さまにフォーカスすることに徹底した教育への取組みをスタートしています。例えば、社会課題解決に資する取組みにおいては、代理店を介さずとも、地域社会の中で様々な取引先や教育機関などと連携することで、社会的な評価に繋がり、地域での営業活動にプラスに働くということを社員は実感しつつあります。お客さまとは、一人ひとりの保険契約者に限らず、地域社会全体でもある、というような視点でマーケットに向き合うことを、日々の仕事の中で実感することも社員教育の一つであると考えています。当社グループでは、高い価値観を持ち、かなり時間をかけて「ミッション」「ビジョン」「バリュー」を社内に浸透させてきたと考えています。例えば、毎年実施している社員の意識調査では、5つある「バリュー」の中で今回の事案と関連が高いと思われる「お客さま第一」という行動指針(バリュー)をしっかり意識して仕事している、という点についての肯定的な回答が95%となっています。しかし、今回の問題から振り返れば、足りてない部分があったと思っています。社員意識調査の結果から、社員ひとりひとりは、高いレベルで「お客さま第一」を意識し仕事をしていると思いますが、それとは違うと思うことがあった時に、なかなか表に出てこなかったことについては、反省材料だと思っています。今回の反省を踏まえて、他の企業や業種において問題が発生した際に、当社グループに置き換えて、不十分な部分を見つける仕組みを取り入れることに加え、自ら気づくことが出来ない部分は、社外の第三者の視点を入れるなどの取組みを進めていきたいと考えています。MS&ADインシュアランスグループホールディングス株式会社「2024年1月 ESG説明会 質疑応答要旨」

要素1:動的な人材ポートフォリオ

質問回答出典
昨年の即戦力・キャリア採用比率は61%と高い水準であるが、一方で新卒採用の社員もいる中での社員の育成について説明してほしい。各職場をローテーションしながら育成するという方法もあるが、最近の若手は職業意識が強いこともあり、専門性を磨かせるのも一つの育成であると考えている。それに加え、リーダーシップ開発研修にも力を入れている。これまで1,000名近い社員に対して、同じ講師の下でリーダーシップ開発研修を行っている。本研修と職場でのOJTの両輪で、次世代リーダーの育成を図っている。三井化学株式会社「2023年7月 ESG説明会 質疑応答要旨」
退社した社員の復帰に関して力を入れている取り組みは何か説明してほしい。従来から、即戦力採用の一つの選択肢に退社した社員も含めており、10数名ほど復帰した実例もある。現在は、退社した社員の他、内定辞退者も含めて、アルムナイを形成し、リファラル採用に取り組んでいる。先入観を持たず、ネットワークを広げて、採用活動を進めている。三井化学株式会社「2023年7月 ESG説明会 質疑応答要旨」
各部署でバランスを見ながら採用数も決められていくとは思いますが、来年度以降、新卒の割合と比べてキャリア採用数を増やしていくとかそういった議論は今、されていますか?キャリア採用数と新卒採用数を比べてバランスがどうなのかというような大括りの議論はあまりしていません。ただ、先ほどの新中計の説明の中でもありましたように、コンサルティング要員1万人を実現するために、キャリア採用は年々増加をしていくと思っております。現場部門に権限委譲してリソース計画を考えてもらっていますが、コンサルティング要員については、それぞれの職場で考えるというよりは全社的なテーマとして、事業部門と人事部門と経営が一緒になって計画を作っていきます。具体的なことはこれからですが、会社としてしっかり計画を立てて育成と採用とを実行していくことを考えています。富士通株式会社「2023年10月 ESG説明会 質疑応答議事録」
優秀な⼈材を確保するために採⽤段階でこだわっていることはあるか。意欲があるかどうかは⾮常に重要なポイント。実際にコミュニケーションを深く取る機会を多く設けることで、⼈となりや個⼈の持っている資質を⾒抜き、また、お互いに理解し合うことが、プロセスとしては⼤事だと思う。新卒採⽤においては、OB訪問あるいはインターンシップ等、就職とは⼀切紐付けない形で、学⽣さんにも当社の仕事の仕⽅や考え⽅を広くご理解いただく機会を可能な限り多く設けている。新卒採⽤・キャリア採⽤いずれの場合にも、相互に理解を深めるというプロセスを⼤事にしており、こうした努⼒を積み重ねることに⾮常にこだわって⼈事採⽤を推進している。住友商事株式会社「2023年9月 IR Day 2023 第2部 質疑応答」
本当に優秀な学⽣に住友商事を選んでもらうために、どのように他社との差別化を図っているのか、伺いたい。就職活動という形でのPRだけでなく、広報戦略の中で、できるだけ飾ることなく、当社の事業内容を表現することに努めている。それが、ひいては就職活動で、当社に応募いただく⽅の当社に対する理解を深めていただくことにつながり、⾮常に価値あることだと思う。また、広報活動を充実させていくことはブランディングの観点でも⾮常に⼤事なポイントだと考えている。住友商事株式会社「2023年9月 IR Day 2023 第2部 質疑応答」
人財育成について、特にグループの経営幹部人財の育成について教えてください。現状は、各社の人事部あるいは人事ラインで育成プランも含めて検討しています。資料に記載したスポット的なプログラムだけではなく、人事ローテーションも含めて人財育成としていますので、現状は各社の中で行っています。人事制度の統合を目指していくなかで人事システムも合わせていきますので、その中で全体のデータベース化が出来ますと、グループ共通の人財育成や人財ポートフォリオの組み換え、グループ内での人財の相互交流のようなこともできると思います。現状はまだ計画段階ですが、2025年度~2026年度ぐらいに形にしたいと、具体的な検討を進めているところです。MS&ADインシュアランスグループホールディングス株式会社「2024年1月 ESG説明会 質疑応答要旨」
運用業務に従事する人財の育成について、外部から採用するだけでなく、プロパーの社員を育てていく必要もありますが、時間とお金が掛かるものと理解しています。育成の困難さをどのように解決していくのかについて、教えてください。人財育成については大変難しい部分もありますが、諦めずに取り組んでいきたいと考えています。幸いなことに、社内で市場部門のトレーニーを募集すると、安定的に応募があります。実際に面接をすると、例えば「営業店で営業ばかりだったから」というような方ではなく、「市場部門に携わりたいと考えて、証券アナリストの試験を受けています」という方などがおり、そのような人財がコンスタントにここ数年は出てきています。そのようなやる気のある人財に、一定のプログラムを組んで経験を積ませて、地道に育てています。ただ、一方で、市場部門は人財の流動性が非常に高いので、若手社員が退職するというケースも出てきています。例えば、トレーニーを5名募集して4名が合格した場合は、そのうちの1-2名は退職してしまうこともありうるという前提で人繰りを組んでいます。プロパー人財で足りない部分については、経験者を中途採用することで埋めるようにしています。人財育成には5年、10年という時間がかかりますが、継続していきたいと考えています。株式会社コンコルディア・フィナンシャルグループ「2024年2月 IR Day 質疑応答」
この人財戦略はグループ子会社も対象としているか。また、グループでの一括採用は検討されているか。銀行2社を中心とした人財戦略となっているが、関連会社にも同じ考え方をこれから反映させていく方針である。採用は、それぞれブランドがあることや、地域性等も異なるので、それぞれでの採用活動を継続している。ただ、横浜銀行から浜銀総合研究所への出向など、入社後の人財交流は活発におこなっており、今後も取り組んでいく。株式会社コンコルディア・フィナンシャルグループ「2023年4月 IR Day 質疑応答」

要素2:知・経験のダイバーシティ&インクルージョン

質問回答出典
トランスジェンダーの方のトイレ使用に関して最高裁の判断がでたが、三井化学ではどのような取り組みを行っているか説明して欲しい。LGBTQに関する教育は、2017年度から人事担当者を皮切りに開始しており、現在は各事業所に相談窓口も設置している。また福利厚生施策では、例えば、同性婚の方でも社宅に入居可能な仕組みとしている。トイレ使用に関しては、社会状況を捉えつつ、有識者の声も参考にしながら今後検討していきたい。三井化学株式会社「2023年7月 ESG説明会 質疑応答要旨」
男女の賃金格差が同業に比べ少ない理由について説明して欲しい。まず、同一ランクで比べると差はないので、男女の賃金格差は人員構成差によるものである。当社の傾向として、女性は離職率が低く勤続年数が長く、男性は製造現場で若年層のオペレーターを多く採用しているので、これを平均化して見ると、賃金格差が少ない構図となっていると思われる。三井化学株式会社「2023年7月 ESG説明会 質疑応答要旨」
女性社員の出生率の公表について、世間から多様な声が上がっているが、村木社外取締役のお考えを教えてほしい。子どもを持つか持たないか、何人持つかといった考えは、個人に任されたものであり、外部が介入してはならず、丁寧な説明が必要になる。政府では、希望する子どもの数(出生率)と実際に持てた子どもの数(出生率)のギャップを把握し、その出生率のギャップを埋めるための政策を立案してきた。企業と社員の関係においても同様で、仮に企業が目標出生率を設定しているのであれば見当違いだが、企業における実際の出生率のデータを把握することは、非常に重要。企業が出生率を公表することで、世間がどう感じるかは勿論重要であるが、伊藤忠とその社員との関係に限れば、出産せず会社に申し訳ないと感じている女性社員がいるとはあまり想定できない。一方、妊娠・出産時に「会社に迷惑をかけてしまうのでは」と悩んだり、「上司にどう報告しよう」とプレッシャーを感じたりする女性社員が一般的にも多い中、企業が高い出生率を公表することで、そういった悩みを払拭できるプラスの効果もあると考えている。私は社外取締役に就任以降、一貫して、社員の意見を踏まえた制度の策定を伊藤忠にお願いしており、今後もそれを続けていく考え。伊藤忠商事株式会社「2022年5月 サステナビリティ説明会 質疑応答議事録」
「女性活躍推進委員会」での議論内容、開催頻度等について教えてほしい。「女性活躍推進委員会」は21年10月の発足以降、これまで2-3ヵ月に1回の頻度で計3回開催して、働き方改革・第2ステージの施策を取り纏めた。今後は、実際に高いポジションに就く女性が出てくるか、その候補人材の育成が順調に進んでいるか、そして最も重要な点になるが、マネジメントが本気で取組んでいるか、をポイントとして注視していく所存。働き方改革や女性活躍に関する取組みの本気度が、マネジメントの評価に直接反映される仕組みを作っていきたい。取組みの実績が確りとウォッチされる仕組づくりこそ、「監視」機能を持つ取締役会の諮問委員会である「女性活躍推進委員会」の意味合い、使命であると考えている。伊藤忠商事株式会社「2022年5月 サステナビリティ説明会 質疑応答議事録」
今後、女性の役職登用を推進するにあたり、候補人材の育成に関する状況把握が正確に出来ないと、新たな男女間不平を生むことに繋がりかねない。各委員が現場の状況を直接確認する機会はあるのか。また、女性の取締役数や幹部社員数等に目標値は設定しているか。これまでも社外役員が女性社員の声を聴くための、インフォーマルな会を開催していたが、「女性活躍推進委員会」の設置により、フォーマルな形で意見交換の場を持てるようになった。従来の女性活躍の推進が不十分な状況下でも、順調に育ち活躍している女性社員に対して、これまで何が良くて、何が大変であったか、的場人事・総務部長等から丁寧にヒアリング頂いた。現場の意見が反映された実際に役立つ施策を作っていく心構えでいるので、今後もPDCAサイクルを回しながら、確りと取組んでいけば、実績に繋がるのではないかと期待している。目標値の設定については、勿論、議論しているが、旧来の制度は数値先行であったが故に、上手くいかなかった部分もある。従い、数値ありきではないが、伸び率等は確りと注視していく。伊藤忠商事株式会社「2022年5月 サステナビリティ説明会 質疑応答議事録」
グループ企業と共にグローバルな事業展開を図っていく中で、外国人社員の役職者への登用についてどのように考えているか教えてほしい。単体、グループ企業共に外国人社員の役職者登用にルール的な障壁はないと認識している。当社単体における外国人社員は37名と人数的に決して多くはないが、実力があれば、積極的に抜擢・登用していきたい。既に海外事務所長を務めている外国人現地社員も複数名いる。一時的にストップしているが、コロナ前は外国人社員の幹部候補を集め、将来の役職者登用に向けたプログラムを長きに亘り実施しており、今後も同様のプログラム等を通じ、計画的に外国人社員の役職者への登用を進めていく。伊藤忠商事株式会社「2022年5月 サステナビリティ説明会 質疑応答議事録」
DE&I、⼥性活躍推進について、2030年度⽬標を出しているが、⼥性活躍推進の⽬的・意義についてどのように社内での理解促進を図っているか。単に、数値⽬標を達成することが⽬的化するといった負の側⾯を回避するために、社内における共感を⽣むための仕組みづくりをどうしているか、伺いたい。⼤事なことは、掲げる理想、実際の現場の状況やアンケート調査を組織全員で共有し、⽬指すべき理想と現実とのギャップを埋めていくために、いつまでに何をするのかを具体的に⽴案して実⾏していくこと。現場でのコミュニケーションを通して、新⼈事制度やその背景にある考え⽅、⼈材育成の考え⽅を、皆で育てていくことも⾮常に重要であり、まさに今、当社のグローバルベースで実践している最中である。数値⽬標を導⼊する際、⼈事組織、経営会議、取締役会のそれぞれのステージで議論があった。何を⽬指すのかを共有し、各組織で浸透させていってもらうことが重要である。同時に、対象になる⼥性に対するケアも⾏っている。部⻑候補者クラスには、役員メンター制度があり、役員が何⼈かメンターとなり候補者の⼥性と定期的に⾯談し、いろいろな意⾒交換をしている。各組織においては、より若いクラスの⼥性候補者と⽇頃からよく会話をもつようにしている。今、⼥性や若⼿の登⽤を進めている中で、当然ながら「未熟で早すぎるのではないか」という声があがることもあるが、私⾃⾝はそれで結構だと考えている。ミスをすることで学ぶ機会が⽣まれる。例えば、部⻑になるにはまだ少し早い⼈を、あえて、成⻑してもらうために部⻑に登⽤し、⼤いに失敗してもらう。⾃らが努⼒することを⼤前提に、失敗を正す機会を与え、努⼒することを全⾯的に会社が⽀えるという考え⽅が⾮常に⼤事だと思う。それが年功序列を排した、活気に満ち、できるだけ多くの機会を提供できる組織になっていくということだと私は思っている。男性の皆さんは、おそらく飲み会や、昔であればたばこ部屋等で多くのことを伝承されていたものと思う。⼥性がそのようなナレッジを学ぶ機会がまだ多くない中、今私が準備していることとして、⼥性の中で次の候補になっていく⽅の⼀⼈⼀⼈のデベロップメントニーズを把握し、その⽅々の育成を加速させるための取り組みがある。私に限らず、リーダーシップロールに就いている⼥性の⽅は皆さんご苦労されているが、社外のそうした⽅々の知⾒や引き出しを皆さんにお渡しすることで、選択肢を拡げ、チャレンジを促し、より安⼼して仕事ができる様フォローしている。例えば、男性がこういうことを⾔っても許されるけど、⼥性が同じようなことを⾔うと残念ながら良しとされないこともある、といったことも含め、⼥性ならではのコミュニケーションスタイル等、皆でナレッジを共有し、サポートし合えるような環境をつくっていきたいと思って準備をしている。住友商事株式会社「2023年9月 IR Day 2023 第2部 質疑応答」
⼥性管理職⽐率の実績について伺いたい。昨年度の有報から⼥性活躍推進法に基づき、各商社が⼥性管理職⽐率を開⽰しており、三菱商事が12%、三井物産が8.5〜8.6%、伊藤忠が8.5〜8.6%、丸紅が8.3%、住友商事は8.4%。住友商事の定性的な取り組みは評価しており、また、本説明会の様に積極的に⼥性活躍推進をうたっているものの、定量⾯では⾼いわけではない。このギャップをどう分析しているか教えてほしい。各社、⼥性の活躍や管理職への登⽤に関してはいろいろな歴史があると思う。数字はファクトとして、他社との差異も⾒ていくが、それに対して当社が何かジャンプする秘策はおそらくない。当社として設定している⽬標に向けて、毎年着実に⼿を打ち、取り組みを続けていくことが肝要。住友商事株式会社「2023年9月 IR Day 2023 第2部 質疑応答」
銀行業界における女性活躍について、何がネックになっているか、またそれは今後どれほどのスピードで変わっていくものなのかという点について、お考えを教えてください。当社には女性の執行役員が横浜銀行と東日本銀行にそれぞれ1名おりますが、まだまだ数としては少ないという課題があります。しかし、コンコルディア・フィナンシャルグループ全体としては役職者に占める女性比率は36%(2022年度通期)、管理役職者に占める女性比率は16%(2022年度通期)となっており、この管理役職者における女性比率を27年度には25%にまで引き上げるという目標を開示しています。では、そのために何ができるかという点ですが、まずは女性の若手リーダー層、いわゆる30歳前後の方ですが、そのようなメンバーを集めて「TSUBAKIプロジェクト」という女性リーダー育成プロジェクトを昨年度からスタートし、今年度も実施しています。参加者は公募および推薦によるもので、今年からは公募で手挙げ方式で参加できるメンバーも加わることとなっています。具体的な内容ですが、半年ほどの期間を設けたうえで、7日間にわたってさまざまな社内および社外の女性管理職経験者の皆さまからお話を聞き、自身のキャリアを考え直すということをおこなっています。したがって、回答としましては、1つは女性自身が自身のキャリアを考え直すことです。また、なかなか女性からは積極的に手を挙げにくいということがさまざまなリサーチから明らかになっていますので、そのようなアンコンシャスバイアスを排除すること、そのことに自身で意識的になることができるようにするということを進めています。もう1つ、私が個人的に非常に重要だと感じていることとして、環境を整えることです。金融機関において女性の、特に営業店における女性の管理職が少ないことの1つに、勤務時間の長さがあり、この部分については働き方改革の中で、男性も含めた皆さまがより働きやすい職場を作っていくことで改善していけるのではないかと考えています。また、サクセッションプランにおいて、特に女性に関しては管理役職者に就いている人数が少ないこともあり、前広に、副部長クラスのメンバーも含めて将来の上層部の候補メンバーとして面談をおこない、意見交換をおこなっています。社外取締役の男性陣のメンバーも女性活躍について非常に積極的で、そういった場でわれわれから彼女たちに抱えている悩みなどを尋ねるなどをするようにしています。株式会社コンコルディア・フィナンシャルグループ「2024年2月 IR Day 質疑応答」

要素3:リスキル・学び直し

質問回答出典
適所適材のために社内外から適した人材を探してくる取り組みを強化されているというお話がありましたので、人材の流動性についてお伺いしたいです。御社の中に適した場所がないと思われた方がこれから増えてくるかと思いますが、そういった方々のために2021年に実施したような早期退職を検討されていますでしょうか。今のところその計画はありません。富士通の中でやりたい仕事がないといったことはこれからもありますが、その人と人事がしっかり向き合ってリスキルやシフトを一緒にやっていくのが基本的なスタンスです。富士通株式会社「2023年10月 ESG説明会 質疑応答議事録」

要素4:社員エンゲージメントを高めるための工夫

質問回答設問
従業員エンゲージメント施策として、オンラインセッションで社長はどのようなメッセージを発信し、それに対して社員側からどんなメッセージがあったか説明してほしい。社長就任後にすぐコロナ禍となり、現地で直接話をすることができなかったので、その代替としてオンラインセッションを活用してきた。社長からVISION 2030の内容や自分の考え方を伝えるだけでなく、社員がVISION 2030をどのように考えているか、例えば、それを自分事として捉えてくれているかという感度を得たいと思い、対話を行ってきた。会社からの発信と社員の受け取り方には、必ずギャップがあるので、まずはそのギャップを認識し、そこから導き出される課題を探る作業を、社長に就任した2020年度から現在まで行ってきた。VISION2030は社内に浸透してきたと思うので、今は、その計画が上手く進捗しているかをモニタリングするという狙いを持って、対話をしている。社員からの意見の一例として、海外の現地社員から、自分達のビジネスアイデアが本社に届きにくい、どの様なプロセスで意見を届けたらよいのか分からないという声が複数出た。その後、社長から直ぐに関連部署へ指示が出て、アイデアを汲み上げる仕組みを作った。昨年は、実際にあがってきた複数件のアイデアについて審査を行っている。今後もこの取り組みは継続していく。三井化学株式会社「2023年7月 ESG説明会 質疑応答要旨」
エンゲージメントスコアが低いように見受けられるがその要因について説明して欲しい。当社の目標としているエンゲージメントスコアは、Highly Engagedの従業員の占める割合としており、厳し目に設定しているからである。また、海外ではもともと人材の流動性が高く、個人のエンゲージメントが下がれば、その会社には残らないといった傾向にあるので、海外の関係会社におけるエンゲージメントスコアは高い傾向になる。一方、国内は海外に比べ、キャリア機会が限られており、人材の流動性が低いので、特に国内の関係会社のエンゲージメントスコアは十分でない状況にある。今回導入したグローバル人材プラットフォームなども活用して、エンゲージメントスコア向上に向けて、様々な施策を導入していく予定である。また、エンゲージメントスコアは、今年度より役員報酬の指標にも組み込んでおり、経営陣のコミットメントの下、改善していく仕組みを構築している。三井化学株式会社「2023年7月 ESG説明会 質疑応答要旨」
ジョブ型マネジメントに移行して1年くらい経ちましたが、キャリアに対する不安などの課題をどう認識していますでしょうか。大きな制度の変更でしたので、例えば、突然ポスティングが活性化し、自身の周囲の人がポスティングで異動したり、入ってきたりということが日常的になってきていると思います。ポスティングによる異動者が8万人のうち7千人なので、そうなると自分はこのままでいいのかと、最初は不安に思うかと思います。その不安を不安で終わらせないように、キャリアをどう考えるかということになります。キャリア診断の実施や上司以外の相談者20人をアサインしており、勇気を出して学んだりチャレンジしたりすることで成長できるというメッセージを繰り返し発信し、施策でフォローするということに粘り強く取り組んでいます。自ら選択していくことに対しては、エンゲージメントサーベイではポジティブに受け止めている社員が多いようです。富士通株式会社「2023年10月 ESG説明会 質疑応答議事録」
遠心力と求心力のバランスというか、実力主義となると会社への帰属意識が低くなる懸念もあるかと思いますが、この辺のバランスをどうお考えでしょうか。人事制度改革の度に、社員へは自律と信頼ということを繰り返し言っています。従来の家族的な関係から、会社と社員が対等であることをわかりやすく伝えたかったので、会社は社員を信頼して制度設計し、ケアやサポートをし、行動を促していくことで社員は安心し、その信頼関係のもと自律的にチャレンジするというメッセージを繰り返し発信しています。働き方についても、皆さんを信頼しているのでWork Life Shiftというコンセプトの下、自ら働く場所を選んでよいのだということを伝えています。自分で選択するということはある面では厳しいのかもしれませんが信頼されているからこそ、従来と比較して会社に対するエンゲージメントが改善してきていると考えています。富士通株式会社「2023年10月 ESG説明会 質疑応答議事録」
社員エンゲージメントが低下した要因やそれに関する課題等があれば、教えてほしい。お示ししたエンゲージメントサーベイの結果は、内容の要約のみであるが、前回の結果から低下したポイントについては、詳細な分析を実施した。分析の結果、若い世代や女性の多様な価値観に対する木目細かい対応が必要と判断しており、特に「若い世代の育て方」と「時間の使い方」の2点がポイント。「若い世代の育て方」について言えば、多様な価値観を持つ若い世代は、配属された部署で経験を積み上げ、その部署の上司になるといった単線的なキャリアパスを望んでいないことが分かった。若い世代の多様なキャリア形成に対応するため、従来の他カンパニーへの異動ルールをより明確化して、2年連続で異動希望があった場合は、異動希望を極力叶える新たな仕組みを導入した。加えて、組織を跨る仕事をより柔軟に可能とする仕組みを検証しており、若い世代の複線的なキャリアパスの形成に取組んでいく。「時間の使い方」について言えば、当社は、現場主義を重視する観点より、コロナ禍においても一定の出社率を維持してきたが、エンゲージメントサーベイの結果を踏まえ、より柔軟な勤務体制に変更した。伊藤忠商事株式会社「2022年5月 サステナビリティ説明会 質疑応答議事録」
新型コロナウイルスの拡大に伴い、在宅勤務を採用する企業が増えたが、その企業の多くが社員の育成やチームビルディング等に苦慮していると感じる。伊藤忠が社員のモチベーション向上のために取組んでいる施策があれば、教えてほしい。勤務体制の変更に際しては、社員へのアンケートや労働組合との協議も丁寧に実施したが、在宅勤務を毎日希望する社員は殆どおらず、選択可能な制度として拡充を求める声や、柔軟な時間の使い方を求める声が多かった。その結果、在宅勤務や、朝早く出社して早く帰宅できる朝型フレックスタイム制度等を導入することで、若い世代の多様な価値観への対応を図った。伊藤忠商事株式会社「2022年5月 サステナビリティ説明会 質疑応答議事録」
戦力を十分に活かすには、行員のロイヤリティやカルチャーの強度など、ソフト面の充実も重要であると考えている。そのようなソフト面も計測をする計画はあるか。キャリアオーナーシップの浸透が重要だと考えている。複線型キャリアパスの実現など、一人ひとりが描くビジョンに対する支援をしっかりとおこなうことが、従業員の満足度ややりがいに繋がるものと認識している。また、求める人財像に掲げた「常に変革マインドを持ち挑戦し続ける人財」について、経営陣自身が「変革」に対する熱意、メッセージを発信していくことも重要だと認識している。挑戦を続け、若手に成功体験を積ませることで、組織風土が段階的に変わっていくのだと考えている。株式会社コンコルディア・フィナンシャルグループ「2023年4月 IR Day 質疑応答」

要素5:時間や場所にとらわれない働き方

質問回答出典
来年後半の本社移転に向けて人事施策として取り組むべきことはありますか?また今回の施策との関連で言及できることはありますでしょうか。2020年7月に時間や場所を自ら選択する働き方であるWork Life Shiftを導入しました。テレワークを最大限活用し、またメンバーとリアルなコミュニケーションが必要な場合は時間と場所を決めて集まるといったハイブリッドワークもかなり定着してきました。会社でコントロールしていませんが出社率は20%で安定推移している状況です。柔軟性、機動力をあげていくことを考えて、川崎工場とFujitsu Uvance Kawasaki Towerに移転し、首都圏は契約している約1500カ所のシェアードオフィスを使うことを発表しました。出社率が20%であることについては、適切なタイミングでリアルなコミュニケーションをやるということに課題感をもっていましたので、今回の移転でFujitsu Uvance Kawasaki Tower には営業とSEの事業部門が集結し、これまで以上にリアルなコミュニケーションができるようになるとよいと考えています。シェアードオフィスは現在、活用にばらつきがありますが、生産性が高く、効率的で社員の満足度が高い活用の仕方についてのガイドラインや、新たなサテライトオフィスをつくるのかなどを考えていきたいと思います。富士通株式会社「2023年10月 ESG説明会 質疑応答議事録」

頻度分析

最後に、人的資本に関する質問を対象に、頻度分析を行います。頻度分析とは、文章を単語ごとに分割し、文章中に各単語が出現した回数を集計するテキストマイニングの手法の一種です。ここでは、上記で収集した投資家からの質問に含まれる名詞について頻度分析を行いました。

以下の表は、出現回数の多かった上位10語を示しています。「採用」「人材(財)」といった単語は「人材採用・育成」以外にも人材戦略全般の文脈で出現するため、出現回数が多くなっています。また、「達成」や「施策」等は課題の具体的な解決方法や見通しに関する質問が多かったことに起因すると考えられます。

順位頻出後出現回数
1採用25
2人材21
3社員18
4女性14
5経営12
5達成12
5事業12
8育成11
9人財10
10施策9
10キャリア9
出所:コトラ作成
注:名詞を分析対象とし、「今後」「グループ」等の内容と関連性の薄い単語は除外した。

終わりに

弊社コトラは、組織課題を解決するプロフェッショナルとして、人的資本経営に係る戦略設計から実務まで、一気通貫してご支援させていただいております。
人的資本経営の推進にあたってお悩みがあれば、まずは一度、お気軽にご相談ください。

弊社コトラは、業種や企業規模を問わず、人材戦略の策定、運用、ISO 30414認証取得や人的資本開示のご支援を行っております。人的資本経営の実践・開示のお悩みがあれば、ぜひお問い合わせください。

コンサルタント紹介

杉江 幸一郎
ディレクター ISO30414リードコンサルタント

東京大学経済学部経営学科卒。大手メーカー、通信事業者、IT企業など上場事業会社にて経営企画、事業戦略、新規事業立ち上げ等の責任者を歴任。上場企業取締役、CISO および ISO事務局等も担当。

コトラでは、ISO30414を始めとした人的資本経営のコンサルティングに従事。ISO30414リードコンサルタント。ESG情報開示研究会、人的資本経営コンソーシアム、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会員。
X(旧Twitter):@Kotora_cnsl


村上 慶
エグゼクティブコンサルタント ISO30414リードコンサルタント

東北大学法学部卒。東海銀行(現三菱UFJ銀行)にて有価証券運用を担当。地方銀行及びトヨタファイナンシャルサービスにて市場リスク管理に従事後、年金コンサルティング会社で資産運用アドバイザーを担当。CFA協会認定証券アナリスト。

コトラでは、ESG/SDGs、ISO30414、人事施策、情報開示、企業年金に関するコンサルティング業務に従事。ISO30414 Lead Auditor/Consultant Certification資格所持者。


蘇木 亮太
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

同志社大学法学部卒。大手教育系企業でのコンサルタント経験を経て、金融系スタートアップに入社。 組織・人事企画チームに所属し、エンゲージメント向上施策やDE&I推進、研修開発、人事制度運用等を担当。

コトラでは、有価証券報告書・統合報告書における人的資本開示、ISO30414、人事組織コンサル等に従事。ISO30414リードコンサルタント資格/日本ディープラーニング協会G検定保有者。


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