【事例あり】「動的な人材ポートフォリオ」の課題と実践のポイント

はじめに

コトラは、2025年1月15日に「動的な人材ポートフォリオ」セミナー&交流会を開催いたしました。

本記事では「動的な人材ポートフォリオ」について、3社の取り組み事例を紹介します。
また、導入における課題と必要性についても説明します。

動的な人材ポートフォリオの特徴と導入における課題

「動的な人材ポートフォリオ」は、人材版伊藤レポートの3つの視点と5つの共通要素(3P5F)において提示されました。
従来の(静的な)人材ポートフォリオとの大きな違いは、ポートフォリオ作成の「時間軸」と「即応性」です。

従来の(静的な)人材ポートフォリオ動的な人材ポートフォリオ
時間軸ある一時点における分析に基づいて作成。
作成時点における人材のスキルと組織に必要なジョブ(スキル)の最適な配置を検討。
将来の目標から逆算して(バックキャストで)作成。
将来の様々な要因変化を考慮しつつ、最適な配置を検討。
即応性急激なビジネス環境の変化への対応が困難。計画的かつ柔軟な人材マネジメントが可能。
動的な人材ポートフォリオとは
コトラ作成

変化の激しい今日のビジネス環境において注目される動的な人材ポートフォリオですが、その取り組みは未だ多くの企業で試行錯誤の段階です。
人的資本経営コンソーシアム「人的資本経営に関する調査結果」(2024年6月)によると、回答企業の動的な人材ポートフォリオに関する取り組みは「具体的に対応策を検討」の状態であり、前回(2021年)と同調査と比較しても進展が芳しくありません。

人的資本経営コンソーシアム事務局「人的資本経営に関する調査結果(概要)」
出所:人的資本経営コンソーシアム事務局「人的資本経営に関する調査結果(概要)」p12

先進事例

ここまで、動的な人材ポートフォリオの特徴と導入における課題について整理してきました。
これらを踏まえた参考事例として、動的な人材ポートフォリオに関する3社の取り組み事例を紹介します。ポイントは次の3点です。

  1. 中長期の経営目標から逆算して人材ポートフォリオを考えている
  2. 人材ポートフォリオに基づいて具体的な施策を実施している
  3. 実績を具体的な人数で開示している

日揮ホールディングス株式会社

長期経営ビジョンである「2040年ビジョン」から逆算し、必要な人材を4種類(経営・マネジメント人財、イノベーション人財、遂行人財、高度専門人財)に整理しています。
必要な人材を整理したうえで、現在の人材ポートフォリオと将来の人材ポートフォリオを比較し、そのギャップを埋めるような人事施策を実施しています。具体的な人事施策の例としては、OJTやOff-JT等による人材育成制度が挙げられます。

日揮HD 動的な人材ポートフォリオ
出所:日揮HD「JGCレポート 2024」p54

日清食品ホールディングス株式会社

ビジョンから逆算して人事戦略を検討しており、2024年度にはビジョン実現の第一歩として管理職に対する「日清流Job型」を導入しています。
他にも各ポストにおけるジョブディスクリプション(職務記述書)の活用やISO30414認証取得による現状の開示などの様々な施策を実施しており、総合的に動的な人材ポートフォリオを実践しています。

日清食品HD 動的な人材ポートフォリオ
日清食品HD「Human Capital Report 2023」p79
日清食品HD 動的な人材ポートフォリオ
日清食品HD「Human Capital Report 2024」p29

富士通株式会社

パーパスの実現のために様々な施策を実施しており、その一環として人材ポートフォリオの策定や人材要件の定義が挙げられています。
同社の人材ポートフォリオは事業・Role(職務)・Region(地域)の3軸で構成されている点が特徴的です。
2023年度時点では現在の人材ポートフォリオと将来必要な人材ポートフォリオとのギャップ分析を実施しており、今後は人材ポートフォリオの可視化の実施が予定されています。

富士通 動的な人材ポートフォリオ
出所:富士通「厚生労働省:2023年度第6回雇用政策研究会資料」p6
富士通 動的な人材ポートフォリオ
出所:富士通「富士通の人的資本経営について」p24

終わりに

本記事では、動的な人材ポートフォリオの必要性を次の2つの観点から整理しました。

  1. 経営環境の変化に柔軟に対応するため
  2. 人材を最大限活用することで、事業成長を加速し、企業価値を向上させるため

1点目は、「経営環境の変化に柔軟に対応するため」です。人材の採用や育成はすぐに対応できるものではないため、計画的な打ち手が要求されます。一方、地政学リスク、技術革新、パンデミック等の予測不可能な変化が加速する近年のビジネス環境では、様々な要因変化への対応も必要になります。計画的かつ柔軟な人材マネジメントの実現は、動的な人材ポートフォリオがまさに強みとする部分です。

2点目は、「人材を最大限活用し、企業価値向上につなげるため」です。近年、恒常的な人手不足により、人材が事業の制約要件になっています。そのため、必要なスキルを持つ人材を適切に配置し、リソースを最大限活用することが重要です。動的な人材ポートフォリオの導入は人材に関する制約を取り払い、事業成長を加速させ、企業価値の向上をもたらすと考えられます。

コトラは、動的な人材ポートフォリオ構築にかかるステップについて、戦略策定から実践、人材のご紹介まで一気通貫でご支援しております。まずは一度、お気軽にご相談ください。

コンサルタント紹介

杉江 幸一郎
ディレクター ISO30414リードコンサルタント

東京大学経済学部経営学科卒。大手メーカー、通信事業者、IT企業など上場事業会社にて経営企画、事業戦略、新規事業立ち上げ等の責任者を歴任。上場企業取締役、CISO および ISO事務局等も担当。

コトラでは、ISO30414を始めとした人的資本経営のコンサルティングに従事。ISO30414リードコンサルタント。ESG情報開示研究会、人的資本経営コンソーシアム、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会員。
X(旧Twitter):@Kotora_cnsl


蘇木 亮太
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

同志社大学法学部卒。大手教育系企業でのコンサルタント経験を経て、金融系スタートアップに入社。 組織・人事企画チームに所属し、エンゲージメント向上施策やDE&I推進、研修開発、人事制度運用等を担当。

コトラでは、有価証券報告書・統合報告書における人的資本開示、ISO30414、人事組織コンサル等に従事。ISO30414リードコンサルタント資格/日本ディープラーニング協会G検定保有者。


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