コンプライアンス研修を「企業価値向上」へ 人的資本開示で投資家を惹きつける戦略的ストーリー

そのコンプライアンス研修、コストとして処理していませんか?

「コンプライアンス研修に、これだけの費用と時間をかけている」

この事実を、貴社はどのように捉え、ステークホルダーに説明しているでしょうか。多くの企業では、コンプライアンス研修は依然として「万一の際に備えるための必要コスト」や「守りのための経費」として認識されている傾向があります。しかし、人的資本経営が企業価値の源泉として注目される今、その認識は大きな機会損失に繋がっているかもしれません。

投資家は今、財務情報だけでは測れない企業の持続的な成長可能性、すなわち「非財務情報」に強い関心を寄せています。そして、コンプライアンスやガバナンスへの取り組みは、その中核をなす重要な評価項目です。

本コラムでは、コンプライアンス研修を戦略的な「投資」と位置づけ、その価値を最大化し、人的資本開示を通じて投資家に力強く訴求するための考え方と具体的な手法について解説します。

なぜ今、コンプライアンス研修が「投資」なのか

コンプライアンス研修への投資が、なぜ直接的に企業価値向上に繋がるのか。その論理を人的資本経営の視点から紐解きます。

リスク低減による企業価値の維持・向上

まず基本として、実効性のあるコンプライアンス研修は、不正やハラスメント、情報漏洩といった重大なリスクを未然に防ぎます。これらのインシデントが発生した場合、罰金や訴訟費用といった直接的な経済的損失だけでなく、ブランドイメージの毀損、顧客離れ、優秀な人材の流出など、目に見えない企業価値の低下は計り知れません。

コンプライアンス研修は、これらのリスクを低減し、企業価値の毀損を防ぐための極めて効果的な「保険」としての役割を果たします。これは投資家にとって、企業の安定性やリスク管理能力を測る重要な指標となります。

「ISO30414」が示すコンプライアンスの重要性

人的資本開示のグローバル標準である「ISO30414」では11の領域における指標が示されていますが、その一つに「コンプライアンスと倫理」という領域があります。ここでは、倫理・コンプライアンス研修を受けた従業員の割合や、提起された苦情の種類と件数等、5つの指標が開示項目として挙げられています。これは、コンプライアンスへの取り組みが、国際的にも人的資本の質を測る上での普遍的な指標であることを意味します。

したがって、コンプライアンス研修の実施とその成果を開示することは、グローバルな投資基準に則った経営を行っていることの証明となるのです。

*ISO30414について、さらに知りたい方はこちらのコラムをご参照ください。

健全な組織文化がイノベーションを生む

私たちコトラは、コンプライアンス研修の究極的な目的は、従業員が安心して挑戦できる「健全な組織文化」の醸成にあると考えています。公正なルールのもと、誰もが尊重され、自由に意見を言える環境は、新しいアイデアやイノベーションが生まれる土壌となります。

投資家は、短期的な利益だけでなく、企業が将来にわたって成長し続ける能力、すなわちイノベーション創出能力を見ています。コンプライアンス研修への投資は、この無形資産である組織文化への投資であり、持続的な企業価値創造の源泉として、戦略的に語ることができるのです。

コンプライアンス研修の価値を開示する戦略的ステップ

コンプライアンス研修の価値を、統合報告書や人的資本レポートで効果的に伝えるためには、戦略的なストーリーテリングが不可欠です。

ステップ1:研修の目的とKPIを経営戦略に紐づける

まず、「なぜ当社はコンプライアンス研修に投資するのか」という目的(パーパス)を、自社の経営戦略やマテリアリティ(重要課題)と明確に紐づけて定義します。 例えば、「グローバル市場での成長」を戦略に掲げる企業であれば、「多様な文化・価値観を尊重し、円滑な協業を促進するためのグローバルコンプライアンス研修」と位置づけることができます。 その上で、投資の効果を測るためのKPI(重要業績評価指標)を設定します。

  • 研修受講率、理解度テストのスコア(量・質)
  • 研修後の従業員エンゲージメントサーベイにおける関連スコアの変化
  • 内部通報制度の相談件数(適切な利用が増えているか)
  • ハラスメント関連のインシデント発生率の低下

ステップ2:具体的な取り組みを記述する

次に、設定したKPIを達成するために、どのような具体的なコンプライアンス研修を実施しているのかを記述します。単に「eラーニングを実施」と書くだけでなく、「経営層がコミットする対話型研修」や「現場のリアルな課題に基づいたケーススタディ」、「管理職向けのコーチング研修」など、自社ならではの工夫や特徴を具体的に示すことが、ストーリーに深みを与えます。

ステップ3:成果をデータで示し、将来に繋げる

最後に、KPIの推移などのデータを用いて、コンプライアンス研修への投資がもたらした成果を客観的に示します。そして、その成果が、どのようにしてリスク低減や組織文化の醸成に繋がり、最終的に企業の持続的な成長という未来に貢献するのかを、一貫したストーリーとして語ります。この「目的→活動→成果→将来への貢献」という論理的な流れが、投資家の納得感を高める鍵となります。

攻めの開示で、企業価値を最大化する

コンプライアンス研修は、もはやバックオフィスの管理業務ではありません。それは、人的資本の質を高め、リスクを管理し、健全な組織文化を育む、企業経営そのものと言える戦略的活動です。

その価値を正しく認識し、戦略的なストーリーとして社外に発信していくこと。この「攻めの開示」こそが、数多ある企業の中から投資家に選ばれ、持続的な成長を実現するための重要な鍵となるでしょう。

株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。人的資本開示の高度化や、コンプライアンス研修の成果を戦略的に可視化するご相談は、お気軽にお問い合わせください。

コンサルタント紹介

杉江 幸一郎
ディレクター ISO30414リードコンサルタント

東京大学経済学部経営学科卒。大手メーカー、通信事業者、IT企業など上場事業会社にて経営企画、事業戦略、新規事業立ち上げ等の責任者を歴任。上場企業取締役、CISO および ISO事務局等も担当。

コトラでは、ISO30414を始めとした人的資本経営のコンサルティングに従事。ISO30414リードコンサルタント。ESG情報開示研究会、人的資本経営コンソーシアム、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会員。
X(旧Twitter):@Kotora_cnsl


蘇木 亮太
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

同志社大学法学部卒。大手教育系企業でのコンサルタント経験を経て、金融系スタートアップに入社。 組織・人事企画チームに所属し、エンゲージメント向上施策やDE&I推進、研修開発、人事制度運用等を担当。

コトラでは、有価証券報告書・統合報告書における人的資本開示、ISO30414、人事組織コンサル等に従事。ISO30414リードコンサルタント資格/日本ディープラーニング協会G検定保有者。


大西裕也
リサーチャー兼コンサルタント

神戸大学大学院経済学研究科卒。教育経済学を専攻。

コトラでは、ISO30414認証取得支援及び人的資本開示動向のリサーチ、人事データ分析・レポート作成等に従事。
DX推進パスポート(G検定、データサイエンティスト検定、ITパスポート)、一種外務員資格取得者。


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