なぜ、あの会社は採用を間違えないのか? 「構造化面接」という必然

なぜ、あの会社の採用は成功し続けるのか?

「役員会議の議題に、またしても早期離職者の問題が上がってしまった…」
「現場のマネージャーから『今回採用した人は、期待していたスキルと少し違う』と報告を受けた…」

企業の経営者や人事責任者の皆様にとって、このような採用に関する悩みは尽きないのではないでしょうか。採用の成否は、事業の成長速度、ひいては企業の未来そのものを左右する極めて重要な経営課題です。にもかかわらず、その選考プロセスの中核をなす「面接」が、いまだに面接官個人の「勘」や「経験」、あるいはその時の「印象」といった、属人的で再現性のない要素に大きく依存しているケースが後を絶ちません。

もし、貴社が採用におけるミスマッチや、入社後のパフォーマンス不足といった課題に継続的に直面しているのであれば、その根本原因は、個々の面接官のスキル不足ではなく、面接という「仕組み」そのものにある可能性が高いと考えられます。

本質的な解決策は、採用プロセスから意図せぬ主観性を可能な限り排除し、客観的で公平な評価を実現する仕組み、すなわち「構造化面接」を導入することにあります。本コラムでは、その本質と成功への道筋を深く掘り下げていきます。

構造化面接の本質:「未来の価値」を測る再現性ある仕組み

構造化面接とは、一言で言えば「採用面接を科学する」アプローチです。あらかじめ職務分析に基づいた評価基準と質問項目を設計し、全ての候補者に対して同じ手順・同じ基準で面接を実施します。これにより、面接官の主観や無意識のバイアスによる評価のブレを最小限に抑え、候補者が持つ本来の能力やスキルを、客観的かつ公平に評価することを目指します。

なぜ「勘と経験」による面接は失敗するのか?

そもそも、なぜ従来の自由な形式の面接(非構造化面接)では、評価がばらつき、ミスマッチが起きてしまうのでしょうか。それは、人間が意思決定を行う際に、様々な心理的なバイアスの影響を避けられないためです。

  • 確証バイアス
    面接官が候補者に対して抱いた第一印象(例:出身大学が良い、ハキハキと話す)を肯定するような情報ばかりを無意識に集めてしまい、それに反する情報を見過ごしてしまう傾向。
  • ハロー効果
    候補者の一つの優れた / 劣った特徴(例:プレゼンテーションが上手い)に引きずられ、他の評価項目まで高く / 低く評価してしまう現象。
  • 類似性バイアス
    自分と似た経歴や価値観を持つ候補者に対して、無意識に好意的な評価を下してしまう傾向。

これらのバイアスは、どんなに経験豊富な面接官であっても完全には排除できません。だからこそ、個人の能力に依存するのではなく、「構造化面接」という仕組みによって、誰が面接官であっても一定の評価品質を担保することが不可欠なのです。

採用を「投資」に変える戦略的ツール

私たちコトラは、構造化面接を単なる「評価のブレをなくす」という守りのツールとしてだけではなく、「企業の未来像から逆算した、人材ポートフォリオ構築の起点となる、攻めの戦略ツール」と捉えています。

人的資本経営の文脈において、採用はもはや単なる欠員補充のための「コスト」ではありません。未来の企業価値を創造するための、最も重要な「投資」活動です。

重要なのは、自社の経営戦略や事業計画を達成するために、3年後、5年後にどのようなスキル、どのようなコンピテンシー(高い成果を出す人材に共通する行動特性)を持つ人材が必要になるかを解像度高く定義し、その要件に合致する人材を戦略的に獲得していくことです。

構造化面接の評価基準を設計するプロセスは、まさにこの「未来からの逆算」を実践するプロセスそのものです。経営陣や現場のキーパーソンを巻き込み、「自社が長期的に成長するために、本当に必要な人材とは何か?」を徹底的に議論し、言語化していく。このプロセスを通じて、採用活動は初めて経営戦略と直結した、極めて重要な投資活動へと昇華されるのです。

構造化面接の導入は、採用手法の変更に留まらず、組織全体の目線を未来へと向ける経営改革のきっかけとなり得ると考えられます。

「勘」から「科学」へ:構造化面接、実践への3ステップ

構造化面接の導入は、決して一部の大企業だけが可能な取り組みではありません。むしろ、企業の成長ステージに合わせて段階的に取り組むことで、着実に採用の質を高めていくことが可能です。ここでは、読者の皆様が具体的な一歩を踏み出すための、実践的な3つのステップを詳細にご紹介します。

ステップ1:評価基準の明確化 ― 「求める人物像」を具体的な行動レベルに分解する

構造化面接の成否は、この評価基準の設計で決まると言っても過言ではありません。「コミュニケーション能力が高い人」といった曖昧な人物像では、評価のしようがありません。誰が読んでも同じ解釈ができる、具体的な行動レベルまで落とし込むことが重要です。

  • ハイパフォーマー分析の実施
    まず、現在社内で高い成果を上げている社員(ハイパフォーマー)に複数名インタビューを行います。「これまでの仕事で最も困難だったことは何か」「その時、具体的にどう考え、どう行動したか」を深掘りし、成果に繋がる共通の行動特性(コンピテンシー)を抽出します。
  • 経営戦略との接続
    次に、中期経営計画や事業戦略を確認します。「新規事業の立ち上げ」「海外市場への展開」といった戦略目標を達成するために、現状の組織にはない、どのような能力やスキルが新たに必要になるかを定義します。
  • 評価項目の設定と定義
    上記を基に、「課題解決能力」「計画実行力」「リーダーシップ」「チームワーク」といった評価項目を5〜7個ほど設定します。
    それぞれの項目について、「レベル5:常に主体的に課題を発見し、周囲を巻き込みながら解決策を実行できる」から「レベル1:指示された課題に対して、限定的な解決策しか提示できない」といったように、評価レベルごとの具体的な行動を定義した評価尺度を作成します。

ステップ2:質問の設計 ― 「過去の行動」から「未来の活躍」を予測する

次に、ステップ1で設定した評価基準を客観的に測定するための質問を作成します。ここで中心的な役割を果たすのが、BEI(Behavioral Event Interview:行動面接)と呼ばれる過去の行動を深掘りするための代表的な質問手法です。

  • 行動面接の活用
    BEIで質問を設計する際のポイントは、評価したいコンピテンシー(例:課題解決能力)が発揮されたであろう「特定の経験」について語ってもらうことです。
    • 悪い質問例(意見・抽象論を問う)
      • 「あなたの課題解決能力について自己PRしてください」
      • 「課題を解決する上で、最も重要なことは何だと思いますか?」
    • 良い質問例(具体的な行動事実を問う)
      以下のような質問を入り口として、候補者に具体的なエピソードを語ってもらいます。
      • 【課題解決能力を問う】
        「これまでの業務で、あなたが『これは非常に困難な課題だ』と感じた経験について教えてください。なぜそれを課題だと感じ、どのように解決へと導きましたか?」
      • 【計画実行力を問う】
        「あなたが設定した高い目標を、計画通り、あるいは計画以上に達成した経験について、具体的な目標、計画、そして実行プロセスを教えてください」
      • 【主体性を問う】
        「あなたが誰かに指示されるのではなく、自らの意思で問題を発見し、周囲を巻き込んで改善に取り組んだ経験はありますか?」
  • STARメソッドによる深掘り
    候補者の回答が曖昧な場合は、「STARメソッド」というフレームワークを用いて具体化を促します。
    • S (Situation)
      それは、いつ頃、どのような状況でしたか?
    • T (Task)
      あなたには、どのような役割や目標が課されていましたか?
    • A (Action)
      その状況で、あなたは具体的にどのような行動を取りましたか?
    • R (Result)
      あなたの行動の結果、最終的にどうなりましたか? 

ステップ3:面接官のトレーニングと継続的な改善

どんなに優れた評価基準や質問集を用意しても、それを使う面接官のスキルや認識がバラバラでは意味がありません。

  • 面接官トレーニングの徹底
    全ての面接官を対象に、評価基準や質問の意図、評価の付け方について詳細なトレーニングを実施します。特に、評価のブレをなくすためには、複数の面接官が同じ候補者の模擬面接を行い、評価結果をすり合わせることが極めて有効です。
  • データに基づいた改善サイクルの確立
    構造化面接は、導入して終わりではありません。面接の評価データと、入社後のパフォーマンス評価や定着率といったデータを定期的に分析し、「面接時の評価は、入社後の活躍と相関しているか」「評価基準や質問に改善の余地はないか」を検証します。
    このデータに基づいた改善サイクルを回し続けることで、採用の精度は継続的に向上していくと考えられます。

構造化面接が拓く、持続的成長への道

採用における「勘」や「経験」といった不確実な要素への依存から脱却し、構造化面接という科学的アプローチを導入することは、単に採用ミスマッチという「痛み」をなくす対症療法に留まりません。それは、自社の経営戦略と人材戦略を強固に結びつけ、企業の持続的な成長を支える人的資本の基盤を、戦略的に、そして着実に構築していくための、不可欠な第一歩と言えるでしょう。

客観的な基準で採用され、自社の価値観や戦略に合致した人材は、組織への適合性が高く、早期に能力を最大限に発揮する傾向があります。その結果として、従業員エンゲージメントの向上や離職率の低下、ひいては組織全体の生産性向上という、経営に対する直接的でポジティブなインパクトをもたらす原動力となるのです。

株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。構造化面接の導入支援をはじめ、貴社の経営戦略に連動した採用体系の構築について、より具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

kotora

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コトラ(人的資本チーム)

経営戦略に連動した「動的な人材ポートフォリオ」の構築から、「採用」「育成」といった人材マネジメントの実践まで、人的資本経営を一気通貫で支援しています。

コンサルタント紹介

杉江 幸一郎
ディレクター ISO30414リードコンサルタント

東京大学経済学部経営学科卒。大手メーカー、通信事業者、IT企業など上場事業会社にて経営企画、事業戦略、新規事業立ち上げ等の責任者を歴任。上場企業取締役、CISO および ISO事務局等も担当。

コトラでは、ISO30414を始めとした人的資本経営のコンサルティングに従事。ISO30414リードコンサルタント。ESG情報開示研究会、人的資本経営コンソーシアム、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会員。

X(旧Twitter):@Kotora_cnsl


蘇木 亮太
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

同志社大学法学部卒。大手教育系企業でのコンサルタント経験を経て、金融系スタートアップに入社。 組織・人事企画チームに所属し、エンゲージメント向上施策やDE&I推進、研修開発、人事制度運用等を担当。

コトラでは、有価証券報告書・統合報告書における人的資本開示、ISO30414、人事組織コンサル等に従事。ISO30414リードコンサルタント資格/日本ディープラーニング協会G検定保有者。


大西裕也
リサーチャー兼コンサルタント

コトラでは、ISO30414認証取得支援及び人的資本開示動向のリサーチ、人事データ分析・レポート作成等に従事。

DX推進パスポート(G検定、データサイエンティスト検定、ITパスポート)、一種外務員資格取得者。


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