1. ISO30414とは?
1-1. 概要
ISO30414は、2018年に国際標準化機構(ISO)が発行した「人的資本に関する社内外への情報開示のためのガイドライン」です。企業の人的資本(人材)に関する情報を、体系的かつ定量的に開示するための国際規格となっています。
ISO 30414:2018
Human resource management
Guidelines for internal and external human capital reporting
https://www.iso.org/standard/69338.html
ISO30414は、会社の人材情報を効率的に整理し、効果的に伝えるため活用することが可能です。
1-2. 背景と目的
人的資本の重要性の高まり
近年、投資家の要望、人材不足や労働環境の変化、ITテクノロジーの発達などさまざまな要因により、企業の競争力を左右する最重要資源が「人材」であると認識されるようになりました。日本だけでなく、欧州・アメリカをはじめとして全世界で優秀な人材の確保と育成が企業の持続的成長に不可欠となっています。
非財務情報、持続的成長の重要性
ESG(環境・社会・ガバナンス)投資が世界的に拡大する中、企業の非財務情報開示へのニーズが高まっています。人的資本情報は、非財務情報の中でも環境と並んで重要な位置を占め、投資家が企業を評価する上で大きな要素となっています。
情報開示の国際標準化の必要性
世界的に見ても、これまで人的資本情報の開示方法について統一的な基準はなく、企業ごとにバラバラでした。ISO30414は、人的資本情報の開示基準を国際的に統一化し、可視化の基準を定めるとともに、地域間や企業間の比較可能性を高め、自社の取組を改善していくことを目的としています。
2. ISO30414の開示指標について
ISO30414では、人的資本に関する取組を以下の11領域(項目)に分類し、58の測定指標(メトリクス)と測定手順を定めています。
2-1. ISO30414の測定指標(11項目58指標)
項目(領域) | No. | 測定指標(KPI) |
---|---|---|
コンプライアンスと倫理 | 1 | 提起された苦情の種類と件数 |
2 | 懲戒処分の種類と件数 | |
3 | 倫理・コンプライアンス研修を受けた従業員の割合 | |
4 | 第三者に委ねられた係争 | |
5 | 外部監査で指摘された事項の数、種類および発生源と、それらへの対応 | |
コスト | 6 | 総労働力コスト |
7 | 外部労働力コスト | |
8 | 総給与に対する特定職の報酬割合 | |
9 | 総雇用コスト | |
10 | 1人当たり採用コスト | |
11 | 採用コスト | |
12 | 離職に伴うコスト | |
多様性 | 13 | 労働者の多様性(年齢) |
14 | 労働者の多様性(性別) | |
15 | 労働者の多様性(障碍者) | |
16 | 労働者の多様性(その他) | |
17 | 経営陣のダイバーシティ | |
リーダーシップ | 18 | リーダーシップに対する信頼 |
19 | 管理職1人当りの部下数 | |
20 | リーダーシップ開発 | |
組織文化 | 21 | エンゲージメント/満足度/コミットメント |
22 | 従業員の定着率 | |
健康経営 | 23 | 労災により失われた時間 |
24 | 労災の件数<発生率> | |
25 | 労災による死亡者数<死亡率> | |
26 | 健康安全研修の受講割合 | |
生産性 | 27 | 従業員一人当りEBIT/売上/利益 |
28 | 人的資本RoI | |
採用・異動・離職 | 29 | 募集ポスト当りの書類選考通過者数 |
30 | 採用社員の質 | |
31 | 採用にかかる平均日数 | |
32 | 重要ポストが埋まる迄の日数 | |
33 | 将来必要となる人材の能力 | |
34 | 内部登用率 | |
35 | 重要ポストの内部登用率 | |
36 | 重要ポストの割合 | |
37 | 全空席中の重要ポストの空席率 | |
38 | 内部異動数 | |
39 | 幹部候補生の準備度 | |
40 | 離職率 | |
41 | 自発的離職率 | |
42 | 痛手となる自発的離職率 | |
43 | 退職の理由 | |
スキルと能力 | 44 | 人材開発・研修の総費用 |
45 | 研修への参加率 | |
46 | 従業員当りの平均研修受講時間 | |
47 | カテゴリー別の研修受講率 | |
48 | 従業員のコンピテンシーレート | |
後継者育成計画 | 49 | 内部継承率 |
50 | 後継者候補準備率 | |
51 | 後継者準備度(即時) | |
52 | 後継者準備度(1-3年) | |
53 | 後継者準備度(4-5年) | |
労働力の確保 | 54 | 総従業員数 |
55 | フルタイム当量<FTE> | |
56 | 臨時の労働力(業務委託) | |
57 | 臨時の労働力(派遣労働者) | |
58 | 欠勤 |
ISO30414は全ての規模の企業(政府機関、民間企業を問わず)で利用できるように作られています。
また、推奨する開示指標については企業規模に応じて分けられています。
中小企業:社外開示:10指標、社内開示:32指標
大企業 :社外開示:23指標、社内開示:58指標
ISO30414の各測定指標詳細や定義、測定方法など詳細が知りたい場合は、ISO30414の規格書をご購入ください。
日本語翻訳版を日本規格協会のホームページから購入することが可能です。
https://webdesk.jsa.or.jp/books/W11M0090/index/?bunsyo_id=ISO+30414%3A2018
2-2. ISO30414の網羅性
測定指標は世界中の有識者により厳選されたもので、汎用性と網羅性の高い指標が58選定されています。
3. ISO30414の特徴とメリット
(1) 人的資本を可視化・定量化
従来は定性的だった人材情報を、定量的な指標で数値化・可視化できるようになります。客観的な人的資本の評価と、他社との比較が容易になります。
(2) 国際標準に基づく開示
人的資本情報の開示基準が国際的に統一化されたことで、グローバル企業の人材情報を比較しやすくなりました。
(3) 経営戦略との連携が明確に
数値化し、目標設定をすることが可能となり、人材戦略と経営戦略を連動させ、人的資本を適切に活用することが可能となります。
(4) ステークホルダーへの情報提供
従業員、求職者、投資家、取引先など、様々なステークホルダーに対して、透明性の高い人的資本情報を提供できます。
ISO30414では経営層もステークホルダーの一部です。社内レポートにより経営層に客観的なデータを提供することにより、経営戦略と連動した人材戦略やKGI・KPI設定に対する適切な経営判断が可能となります。
4. 認証取得について
ISO30414は、第三者から認証や保証を取得することが可能です。
日本国内では、認証については株式会社HCプロデュースが、保証についてはBSIジャパン株式会社がサービスを提供しています。
認証取得には概ね半年から1年程度の準備期間と2-3ヶ月程度の審査期間がかかります。また、審査にあたっては別途審査費用や更新費用がかかります。
認証取得に関する手順や基準は各審査機関により異なりますので、詳細については各審査機関にお問い合わせいただくのが良いですが、コトラでは審査対応についてのコンサルティングを提供しており、円滑な認証取得のご支援をしております。
認証取得詳細についてはこちらのFAQもご参照ください。
5. 開示事例・認証取得事例
日本ではリンクアンドモチベーション社が2022年3月に第1号となる認証を取得したのを皮切りに、現在まで14社が認証取得、2社が第三者保証の取得を行っています。(2024年6月現在)
詳細についてはこちらの記事をご参照ください。
6. ISO30414 コトラの強みと実績
6-1. ISO30414 コトラの強み
(1) 豊富な経験と取組み実績
大手上場企業の有価証券報告書(人的資本経営)の開示高度化支援実績の他、ISO30414については、国内でいち早く2021年1月よりサービスを開始しています。
ISO30414認証取得の支援実績やISO30414準拠のHRレポート「People Fact Book」の制作支援実績に基づき、大企業から中小企業まで、ISO30414規格を熟知した高品質かつ実務的な伴走支援を得意としております。
(2) 人的資本開示の専門知識を持つ有資格者
人的資本開示に関する国際規格である「ISO30414」の専門性を証明する「ISO30414 Lead Consultant」の資格を持つ専門家3名が在籍し、専門コンサルタントとして企業様のお取り組みをサポートしております。
(3) 認証機関との連携
ISO30414の認証取得を実現するには、ISO30414規格の解釈について認証機関と同一の理解をしていることが最も重要です。当社は認証機関と提携し、ISO30414についての共通の理解のもと、コンサルティングを実施しております。
(4) ISO30414レポートの開示
2022年9月、23年2月、24年2月にISO30414に準拠したHRレポート「KOTORA People Fact Book」を発行しました。ISO30414をベースとした開示としては、国内3例目と認識しており、先進的で実践的なノウハウを所有しております。
KOTORA_People-Fact-book-2023KOTORA_People Fact book 2023.pdf
6-2. 実務で使用した豊富なツール類
当社は国内でも早期にISO30414コンサルティングを開始しており、これまでの支援実績・経験・ノウハウをもとに、質の高いご支援の提供が可能です。フィット&ギャップ分析をはじめ、ISO30414への適合性を高めるためのツール類も豊富にご用意しております。(当社オリジナル監査ツール)。
認証審査においては適切なアドバイスを行い、事前対応を含めて安心して審査に臨むことができます。
6-3. ISO30414認証取得実績
2024年5月24日に株式会社コンフォートジャパン様が美容業界で世界初、日本で14番目になるISO30414認証を取得いたしました。
コトラはコンフォートジャパン様の認証取得をコンサルティング支援させていただきました。
審査への準備、審査対応、審査のポイントなどの実績を保有しております。
ISO 30414に準拠したPeople Fact Book作成・開示のご支援も複数行っております。
※その他、非公開のプロジェクトも多数ございます。
6-4. ISO30414認証取得の流れ
専門性と経験に基づき、開示の目的やストーリーに沿った指標選定、レポート作成を支援いたします。
7. ISO 30414に関するFAQ
ISO 30414について、よくいただく質問と回答を以下のコラムで解説しています。
まとめ
ISO30414は、企業の人的資本情報を体系的に開示するための国際ガイドラインです。人材を重要な経営資源と捉え、その状況を定量的に把握・評価することを推奨しています。
日本でも人材版伊藤レポートや非財務情報可視化指針など、企業経営と人材戦略を融合させ、人材を中心とした企業価値向上に向けての取組が進められています。
また、投資家をはじめ、様々なステークホルダーに対する情報開示の透明性を高めることの必要性も高まっています。
ISO30414は単に数値化することが目的ではなく、データによる可視化を通じて、人材への取組、人的資本経営をよりよく進めることを目的としています。
今後ますます重要となる人的資本経営の基礎となるデータ整備と人材戦略の立案に対してISO30414の活用を検討されてみてはいかがでしょうか?
ISO30414解説記事
人的資本開示をめぐる動向とISO30414の活用ポイント【前編】~数値による可視化で企業価値を高める~
人的資本開示をめぐる動向とISO30414の活用ポイント【中編】~数値による可視化で企業価値を高める~
人的資本開示をめぐる動向とISO30414の活用ポイント【後編】~数値による可視化で企業価値を高める~
【ISO30414】 よくある質問と回答 【FAQ】 ※2024年5月更新