【完全解説】ISO 30414認証:プロセスからメリットまで、全てを学ぶ 第10回「認証取得のポイント」

ISO30414認証に関する正しい認識を広めるため、本連載では全10回にわたり、その本質と実践的な情報を徹底解説。ISO規格の分類や認証制度のプロセス、ISO30414の具体的な58指標、「認証」と「保証」の違い、さらには認証取得支援実績を通じた認証取得のプロセスやメリットまで、専門家がその複雑な制度を紐解きます。<連載一覧はこちら

第10回:認証取得のポイント

前回のコラムでは、当社の支援プロセスをもとに、ISO30414認証取得までの具体的なロードマップを解説しました。準備から審査まで、半年から1年を要する道のりをどのように歩むべきか、その全体像はイメージできたかと思います。

さて、この連載もいよいよ今回が最終回となります。認証取得までのプロセスが分かったところで、最後におさえておくべきなのは、「認証取得の審査を通過するために何を重視すべきか」というポイントです。単にマニュアル通りに指標を計算し、数字を並べるだけでは、審査員を納得させることはできませんし、何より自社の経営に資するものにはなりません。

今回は、審査を確実に突破し、さらにその取り組みを企業価値向上につなげるための6つの重要ポイントを解説します。指標の選び方から、審査員が最も重視する「ストーリー」の描き方まで、実務の核心に触れる内容で本連載を締めくくりたいと思います。

指標の選定

ISO30414は11領域69指標という包括的なリストを提供していますが、これら全てを盲目的に採用する必要はありません。

最も重要なのは、企業の事業特性や経営戦略を反映した指標を選定することです。選定された指標は、企業の業績や価値創造プロセスとの関連性が明確であるべきです。例えば、製造業であれば生産性関連指標、サービス業であればエンゲージメントやスキル関連指標の重要性が高まります。

単にデータを集めるだけでなく、そのデータが経営判断にどう活かされるのか、どのようなストーリーを語るのかという戦略的視点から指標を設定することが求められます。

目標の設定

選択した指標それぞれに対して、組織としての目標値を設定することが重要です。目標がなく、ただ現状の数値を記録するだけでは何も改善しません。目標に対してどの程度ギャップがあり、それに対してどのような打ち手を実施したか。そのうえで、これからどのような手を打つのか。ここが肝になります。

この分析作業は、ISO30414の審査においては「As-is To-beギャップ分析」と呼ばれます。審査の中心はここだと言っても過言ではありません。その際の「To-be」にあたるのが「目標」になります。合理的な目標設定にあたっては、会社の経営戦略や人事戦略などとの整合性も十分に考慮したうえで行う必要があるため容易ではありませんが、将来の企業の姿を決める重要なプロセスですので、十分に検討して設定することが求められます。

測定プロセスの標準化

人的資本報告の信頼性を高めるためには、選定した指標の測定プロセスを明確に標準化することが不可欠です。指標ごとに、測定対象の範囲、算出ロジック、データの収集方法などを詳細に文書化し、社内で一貫した運用ができるようにする必要があります。

これにより、恣意的な解釈や部門間の算出方法の違いを排除し、データの客観性と比較可能性を確保できます。標準化された測定方法は、将来的な監査や第三者保証の際にも、報告情報の信頼性を担保する基盤となります。

システム整備

指標の測定には、人事データ、会計データ、従業員サーベイ結果など、様々な情報源からのデータが必要とされます。そのため、これらの情報を効率的かつ正確に収集・管理できる情報収集体制の整備が欠かせません。

タレントマネジメントシステムやHRテクノロジーの導入、データ管理システムの構築、そして人事部門だけでなく財務部門やIT部門など関連部門との連携体制の確立が重要なポイントとなります。データに迅速かつ正確にアクセスできる体制は、継続的な情報開示と経営判断への活用を可能にします。

人的資本レポートのストーリー性

認証審査において、人的資本レポートは重要な審査書類になります。現状を可視化し(As-is)、目標を設定し(To-be)、打ち手を考え(As-is To-beギャップ分析)、それらを全て詰め込んだうえで、読み手が納得する内容(ストーリー)で公開することが望まれます。

認証審査ではこの「ストーリー」まで審査対象になります。なぜなら、そこにはその企業の「人的資本経営に対する思い」が凝縮されており、それは前述の通り、ISOの審査として最も重要な「継続して改善していくことができるか」と密接に関連しているからです。

トップのコミットメント

人的資本報告の推進には、経営トップの強力なリーダーシップとコミットメントが不可欠です。トップ自らが人的資本の重要性を発信し、人的資本経営を経営戦略の中核に位置づけることで、社内への理解浸透と全社的な取り組みを促すことができます。

トップの関与は、必要なリソースの確保、部門間の連携促進、そして従業員の意識改革に繋がり、ISO30414への取り組みを単なるコンプライアンス活動ではなく、企業価値創造の原動力へと昇華させます。

おわりに

筆者が本連載を始めるきっかけとなったのは、ISO30414を表面的に「指標の開示」と捉え、指標名と計算式の説明が中心となっている現状に課題を感じたためです。単に計算式通りに計算し、結果の数値が羅列されたとしても、何の意味も持ちません。

また、第1回で述べた通り、認証取得について触れられている記事などでも表面的なものが多く、ISOの認証制度について見当違いの解説をするものが散見されたことも理由に挙げられます。

本連載で述べてきたように、ISO30414自体はマネジメントシステムではなくガイドライン規格です。しかしながら、規格自体はマネジメント認証を意識して作られており、現実として認証機関がISOのマネジメントシステム審査を踏襲して認証を与えています。そのような状況において、人材に対して真摯に積極的に取り組んでいる企業が、その証明としてISO30414認証を取得しようと考えた際の参考となるよう、実務を通して得られた正しいISO30414の知識をコラムとして皆様にお伝えしたかったのです。

本コラムでは、意図的に「ISO30414の認証制度(認証取得)」という範囲に絞ったテクニカルなお話をしました。ただ、ISO30414自体は人的資本経営という大きな範囲の中のひとつのツールです。認証取得もゴールではなく、データドリブンな人材戦略を継続的に行っていく際の強力なツールを獲得したということにすぎません。まさしくISO30414は人的資本経営の「指針」(Guideline)となるものです。

本連載が、皆さまの組織全体の価値が持続的に成長するために少しでも有益なものとなることを願っています。

↓↓ ISO30414についてもっと知りたい方、疑問がある方はこちらのQ&Aをぜひご参照ください! ↓↓

この記事を書いた人

杉江幸一郎

杉江幸一郎

Koichiro SUGIE

ディレクター ISO30414リードコンサルタント

東京大学経済学部経営学科卒。大手メーカー、通信事業者、IT企業など上場事業会社にて経営企画、事業戦略、新規事業立ち上げ等の責任者を歴任。上場企業取締役、CISO および ISO事務局等も担当。

コトラでは、ISO30414を始めとした人的資本経営のコンサルティングに従事。ISO30414リードコンサルタント。ESG情報開示研究会、人的資本経営コンソーシアム、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会員。

コンサルタント紹介

杉江 幸一郎
ディレクター ISO30414リードコンサルタント

東京大学経済学部経営学科卒。大手メーカー、通信事業者、IT企業など上場事業会社にて経営企画、事業戦略、新規事業立ち上げ等の責任者を歴任。上場企業取締役、CISO および ISO事務局等も担当。

コトラでは、ISO30414を始めとした人的資本経営のコンサルティングに従事。ISO30414リードコンサルタント。ESG情報開示研究会、人的資本経営コンソーシアム、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会員。

X(旧Twitter):@Kotora_cnsl


蘇木 亮太
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

同志社大学法学部卒。大手教育系企業でのコンサルタント経験を経て、金融系スタートアップに入社。 組織・人事企画チームに所属し、エンゲージメント向上施策やDE&I推進、研修開発、人事制度運用等を担当。

コトラでは、有価証券報告書・統合報告書における人的資本開示、ISO30414、人事組織コンサル等に従事。ISO30414リードコンサルタント資格/日本ディープラーニング協会G検定保有者。


大西 裕也
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

神戸大学大学院経済学研究科卒。教育経済学を専攻。

コトラでは、ISO30414認証取得支援及び人的資本開示動向のリサーチ、人事データ分析・レポート作成等に従事。

DX推進パスポート(G検定、データサイエンティスト検定、ITパスポート)、一種外務員資格取得者。


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