ISO30414認証に関する正しい認識を広めるため、本連載では全10回にわたり、その本質と実践的な情報を徹底解説。ISO規格の分類や認証制度のプロセス、ISO30414の具体的な58指標、「認証」と「保証」の違い、さらには認証取得支援実績を通じた認証取得のプロセスやメリットまで、専門家がその複雑な制度を紐解きます。<連載一覧はこちら>
第9回:認証取得の流れ
前回のコラムでは、ISO30414認証取得企業の事例を紹介するとともに、認証取得のメリットについて解説しました。
認証取得のメリットを理解した上で、次に気になるのは「では、実際に自社でISO30414認証を取得するには、どのような手順と期間が必要なのか?」という具体的なプロセスでしょう。ISO30414認証の取得プロセスは、単なる書類作成や一度の審査で完結するものではなく、組織全体の意識改革と継続的な改善を定着させるための「変革のプロジェクト」でもあります。
今回は、ISO30414認証取得に向けた具体的なロードマップを、当社がISO30414認証取得をご支援する際の実際のプロセスをもとに徹底的に解説します。
ステップ0:事前準備・方針決定
ISO30414の認証取得には、一般的には準備に半年から1年程度、審査に3ヶ月程度の期間を要します。決して短くはない期間だからこそ、着実な進捗管理と、関係者間の合意形成を図るための綿密な事前準備が成功の鍵となります。
このフェーズでは、プロジェクトの土台を築き、認証取得に向けた初期準備を進めます。
まず、社内にプロジェクトチームを組成し、その上で、プロジェクトの目的やスコープ、体制などを明確にするためのキックオフを行います。並行して、プロジェクト全体のスケジュール案を策定し、関係者間で協議した上で合意形成を図ります。また、自社の人事戦略や人事制度、既存のKPIレポートなどを詳細に整理するとともに、経営層やプロジェクト推進責任者との対話や討議を通じて、人的資本に関する自社の現状と課題、そして目指す方向性を明確化し、プロジェクトチーム全体で深く共有します。
ここで整理した自社の現状や課題、そして目指すべき姿は、後のフェーズで作成する「人的資本レポート」のストーリーの骨格となる極めて重要な要素です。そのため、単なる現状把握に留めることなく、これらの情報を基にどのようなHRレポート(人的資本レポート)を作成していくか、その基本方針についても具体的に検討し決定します。
【当社が支援する場合】
キックオフのファシリテーションやスケジュール策定を主導します。また、第三者の視点から経営層へのインタビューを行い、客観的な現状分析と方針策定をサポートします。
ステップ1:ISO30414の理解
ここでは、ISO30414の規格内容を深く理解することに焦点を当てます。
はじめに、ISO30414の概要、構成、基本的な考え方について学習し、社内で共通認識を醸成します。次に、ISO30414で求められる開示69指標の定義や計測方法について、具体的な算出ロジックを含めた詳細な確認を行います。これにより、社内で正確な指標計測が可能となるよう準備します。
【当社が支援する場合】
専門コンサルタントが69指標の定義や算出ロジックに関する詳細な講習を実施します。また、過去の事例に基づいた審査ポイントのレクチャーを行い、効率的な理解促進を支援します。
ステップ2:ISO30414指標測定
このフェーズでは、ISO30414の各指標の測定と、それに向けた具体的な準備を行います。現在取得されているデータから、人的資本開示指標(69指標)の計測が可能かどうかを一つずつ確認します。もし不足しているデータや計測が難しい指標がある場合は、その対応策を検討します。
その後、社内データを用いて、実際に69の人的資本開示指標を計測します。そして、各指標の計測方法と手順を明確にし、そのプロセスを文書化することで、継続的な指標計測を可能にするための記録体制を整備します。
この「プロセスの可視化」が認証審査においては重要になります。KPIがどのようなプロセスを経て算出されたのか?計算は正確なのか?再現性はあるのか?誤りを検証する仕組みはあるか?責任者は誰(どの部署)か?など、いわゆるPDCAが機能しているかどうかの確認になります。
【当社が支援する場合】
データの不足や計測困難な指標に対する代替案や対応策を提示します。また、審査で重視されるプロセスの文書化や記録体制の整備をサポートします。
ステップ3:フィット&ギャップ分析
計測された指標に基づき、現状とISO30414の要求事項とのAs-is To-beギャップを詳細に分析します。測定された指標を視覚的に分かりやすいヒートマップとして整理し、ISO30414の要求事項との適合状況を分析します。この分析を「フィット&ギャップ分析」と言い、分析結果はレポートとしてまとめ、自社の強みと課題を明確にします。分析結果に基づき、人的資本に関するKPIの改善や向上に向けた具体的な施策を検討していきます。
【当社が支援する場合】
専門的な知見に基づきヒートマップを作成し、客観的なギャップ分析を行います。その結果を踏まえ、改善に向けた具体的な施策案を提示します。
ステップ4:指標選定・レポート作成
このフェーズでは、人的資本レポートの作成に取り組みます。まず、自社の状況と目的に合わせ、どのような構成で人的資本レポートを作成するかを協議します。次に、69指標の中から、自社のビジネスモデルや戦略に合致し、かつステークホルダーにとって特に重要な指標を選定します。
これらの選定された指標を用いて、ISO30414に準拠した独自の人的資本レポートの作成について検討を進めます。作成されたレポート案については、継続的な改善を図るための検討を重ね、最終的に経営層による確認・承認を得ます。
【当社が支援する場合】
他社事例なども踏まえ、貴社の戦略に最適な指標選定をアドバイスします。また、レポート構成案の作成からドラフト作成まで、実制作を支援します。
ステップ5・6:認証申請と認証審査の受審
フィット&ギャップ分析を踏まえ、人的資本報告のプロセスが十分に成熟し、規格要求事項を満たしていると判断できれば、ISO認証の取得申請に進みます。
まず、ISO30414の審査を提供する認証機関を選定します。ISO30414の認証機関はHCプロデュース社とBSIジャパンの2社であり、選定の際には、2社の特徴、提示される費用、対応のスピードなどを比較検討することが重要です。特に、自社の業種や人的資本経営の特性を理解している認証機関を選ぶことが、スムーズかつ実質的な審査を受ける上で有効です。
認証機関を選定したら、正式に審査を申請します。経営層に対しては、認証審査の重要性や審査の流れ、期待される役割などについて、事前に詳細な情報共有を行います。また、認証機関への申請書作成や、審査官からの質問への対応方法、提示すべき資料など、事前対策を徹底的に行います。認証審査で指摘事項があった場合には、その内容を正確に把握し、適切な対応策を検討・実行します。
ISO30414の審査は、主に以下の3つの要素で構成されます。
- データの確認
ISO30414の11領域69指標に従って、内部データが適正なルールに基づいて収集・整備されているか、データを取得する仕組みが機能しているか、そして必要なデータが経年(原則3年分)で取得できているかなどが厳しく審査されます。 - インタビュー
経営者、人事担当者、各データの管理責任者など、人的資本報告に関わる主要な関係者へのインタビューが行われます。ISO30414を取得する理由や目的、人的資本に関する考え方、事業戦略との関連性など、多岐にわたる質問がなされます。 - 実地審査
インタビューで確認された内容が実態と伴っているかどうかを検証するため、実地審査が行われます。これは抜き打ち検査のような形式で実施されることもあり、従業員へのヒアリングを通じて、提出されたデータやインタビュー内容と現場の実態との相違がないか、厳しくチェックされます。
審査の結果は、準拠、部分準拠、非準拠の3種類で通知されます。非準拠が指摘された場合は、是正措置を講じ、その内容が適切であると認められる必要があります。
この認証審査は、構築した人的資本報告のプロセスがISO30414の要求事項を満たし、適切に運用されているかを外部の専門家が客観的に検証する重要なプロセスです。審査の厳格さは、取得する認証の信頼性を担保し、外部ステークホルダーからの評価を高める上で不可欠です。
【当社が支援する場合】
認証機関の選定アドバイスから審査対策まで全面的に支援します。また、想定問答集を用いた模擬インタビューや、指摘事項に対する是正措置の検討など、審査合格に向けた伴走支援を行います。
ステップ7:継続的改善
審査に合格し、書類の不備がなく要求事項を満たしていると認められると、審査機関より認定証明書が発行され、ISO30414認証の取得となります。完成したHRレポートはこのタイミングでホームページなどで公開をします。
認証取得はゴールではなく、むしろ新たなスタート地点です。ISO認証登録の有効期限は通常3年間であり、その有効期限内においては、認定機関より定期的なサーベイランス審査(簡易監査)が行われます。また、3年ごとには本格的な更新審査を受ける必要があります。これらの継続的な審査を通じて、マネジメントシステムの継続的な改善に努めることが求められます。
認証取得は、その後の継続的な改善活動を促すための重要な契機となります。3年間の有効期限と定期的な審査は、ISO30414への取り組みが一時的なものではなく、組織の持続的な成長のためのプロセスであることが求められます。
【当社が支援する場合】
認証取得後も、サーベイランス審査や更新審査に向けた継続的な改善活動をサポートします。また、毎年のレポート更新や指標の見直しについても助言を行います。
ISOの審査において審査員が最も重視する点は「今後も継続して現状を維持・改善していくことができるかどうか」だと筆者は感じています。そのために経営者や担当者の「思い」や「目的・目標」も確認しますし、組織に「仕組み」として整っているか、根付いているかも確認します。
ISO30414コンサルティング支援のお問い合わせでよくあるのが、「指標の値が悪いのだが、これで審査に通るだろうか?」というものです。審査において値の優劣は関係ありません。ポイントは、正確にその値を把握し、どのレベルまでどうやって持っていこうとしているか、その改善サイクルが確立されているかどうかなのです。
次回予告
今回は、認証取得に向けた具体的なロードマップを解説しました。決して短くない道のりではありますが、ゴールへの道筋は明確になったはずです。
しかし、手順を知っていることと、実際に「審査に合格する」ことは別問題です。「全ての指標を網羅しなければならないのか?」「数値が悪くても認証は取れるのか?」といった疑問や不安は必ず生まれます。
次回は、いよいよ本連載の最終回です。最後は、審査を確実に突破し、ISO30414を真に経営に活かすための重要ポイントを伝授します。なぜ審査員は「数値の優劣」ではなく「ストーリー」や「目標設定(To-be)」を重視するのか。コンサルタントとして多くの現場を見てきた経験をもとに、実務の勘所を凝縮してお届けします。ぜひ次回のコラムもご期待ください。
↓↓ ISO30414についてもっと知りたい方、疑問がある方はこちらのQ&Aをぜひご参照ください! ↓↓






