ISO30414認証に関する正しい認識を広めるため、本連載では全10回にわたり、その本質と実践的な情報を徹底解説。ISO規格の分類や認証制度のプロセス、ISO30414の具体的な58指標、「認証」と「保証」の違い、さらには認証取得支援実績を通じた認証取得のプロセスやメリットまで、専門家がその複雑な制度を紐解きます。<連載一覧はこちら>
第8回:認証取得事例、開示事例
前回のコラムでは、ISO認証制度の信頼性を担保する「認定機関」と「認証機関」という二層構造を解き明かし、ISO30414がその中でどのような位置づけにあるのかを解説しました。
これまでの7回の連載を通じて、規格の構造や指標の中身、認証と保証の違いなど、ISO30414を正しく理解するための「理論的な土台」はすべて整いました。今回からは、いよいよ【実践編】として、ISO30414への各社の具体的な取り組みについて紹介していきます。
ISO30414への取り組みは、企業によって多岐にわたります。既に認証を取得し、その成果を積極的に開示している企業もあれば、ISO30414の指標を参考にしつつ、企業独自の人的資本報告を行っている企業、あるいは現時点では対応を見送っている企業もあります。この多様性は、ISO30414がガイドライン規格であり、企業に柔軟な対応を許容していることの表れでもあります。
今回は、日本初、業界初、あるいは中小企業初といった具体的な先行企業の認証取得事例を紹介します。具体的な先行事例を紐解きながら、認証取得がもたらす「採用・投資・企業価値」へのリアルな効果を明らかにしていきます。
国内の主要な認証取得事例
日本国内では、ISO30414の認証取得企業はまだ少数ですが、人的資本経営への関心の高まりとともに、その数は増加傾向にあります。
多くの企業が日本で早期にISO30414認証を取得したことは、単なるコンプライアンス対策だけではなく、人的資本の活用による積極的な効果を追求していることを示唆しています。これらの事例は、他の企業にとってのベンチマークとなり、人的資本経営への関心を高め、業界全体にISO30414の導入を促す波及効果を生み出していると考えられます。
リンクアンドモチベーション
同社は、2022年3月に日本で初めてISO30414の認証を取得しました。2021年には「Human Capital Report 2021」を発行し、従業員エンゲージメントの向上を人的資本開示を通じて推進しています。従業員エンゲージメントスコアと営業利益率、労働生産性の相関関係を示している点も特徴です。
大阪市高速電気軌道(Osaka Metro)
事業の根幹である「人」への投資を強化する取組みの一環として、2024年3月に認証を取得(運輸業世界初)。「人」への投資を加速させ、社員一人ひとりとともに成長し、大阪を起点として社会に貢献し続ける企業を目指しています。
コンクリートコーリング(西日本)
建設業の中小企業では初、国内で19社目として、2025年2月に認証を取得。求職者が「こんな会社なら働いてみたい」と思ってもらえる良い会社であり続けるために、努力しながら改善する過程も含めたありのままを公開しています。
※弊社コトラは、コンクリートコーリング(西日本)様のISO30414認証取得をご支援しました。詳細は以下をご覧ください。
その他の企業
上記以外にも、レクストホールディングス、シスメックス、日立建機、フォーバル、アフラック生命保険、ウイングアーク1st、ペイロール、日清食品ホールディングス、新東工業、豊田通商株式会社、コンフォートジャパン、三井物産、ノースサンド、北海道共創パートナーズ、電通総研、ジェイ エイ シー リクルートメントなど、多数の企業がHCプロデュースから認証を取得しています。
ISO30414認証取得企業事例(国内)
| 企業名 | 認証バウンダリー | 業種 | 従業員数(名) | 人的資本レポート 発行年 |
|---|---|---|---|---|
| 株式会社リンクアンドモチベーション | 連結子会社含む | サービス | 1,505(2022/12/31付) | 2022, 2023, 2024, 2025 |
| 豊田通商株式会社 | 単体 | 卸売 | 2,626(2023/3/31付) | 2022, 2023, 2024 |
| レクストホールディングス株式会社 | 一部連結子会社含む | サービス | 545(2023/3/31付) | 2022, 2023, 2024 |
| シスメックス株式会社 | 単体 | 電気機器 | 2,550(2023/3/31付) | 2023, 2024 |
| 日立建機株式会社 | 単体 | 機械 | 5,621(2023/3/31付) | 2023, 2024 |
| 株式会社フォーバル | 単体 | 卸売 | 817(2023/3/31付) | 2023, 2024 |
| アフラック生命保険株式会社 | 単体 | 金融 | 4,963(2023/3/31付) | 2023, 2024 |
| ウイングアーク1st株式会社 | 単体 | 情報・通信 | 705(2023/2/29付) | 2024, 2025 |
| 株式会社ペイロール | 単体 | 情報・通信 | 547(2023/3/31付) | 2024, 2025 |
| 日清食品ホールディングス株式会社 | 一部連結子会社含む | 食品 | 4,147(2023/3/31付) | 2024, 2025 |
| 新東工業株式会社 | 単体 | 機械製造 | 1,735(2023/3/31付) | 2024, 2025 |
| 大阪市高速電気軌道株式会社 | 単体 | 運輸業 | 5,098(2023/3/31付) | 2024, 2025 |
| 株式会社コンフォートジャパン | 単体 | 卸売 | 136(2024/6/14付) | 2024, 2025 |
| 三井物産株式会社 | 単体 | 卸売 | 5,419(2024/3/31付) | 2023, 2024 |
| 株式会社電通総研 | 単体 | 情報・通信 | 4,349(2024/6/30付) | 2024 |
| 株式会社ノースサンド | 単体 | サービス | 1,159(2024/11/1付) | 2024 |
| 株式会社北海道共創パートナーズ | 単体 | サービス | 129(2024/11/1付) | 2024 |
| コンクリートコーリング株式会社(西日本) | 単体 | 建設 | 96(2025/2/28付) | 2025 |
| 株式会社ジェイ エイ シー リクルートメント | 一部連結子会社含む | サービス | 2,210(2025/2/25付) | 2025 |
海外の主要な認証取得・開示事例
人的資本開示は、グローバルな潮流として加速しており、海外企業もISO30414認証の取得やそれに準拠した情報開示を進めています。
- ドイツ銀行(Deutsche Bank)
ISO30414認証を取得し、「Human Resources Report 2020」で人事管理や人材開発に関する情報を詳細に開示しています。 - アリアンツ(Allianz)
ドイツ銀行に続いてISO30414認証を取得した保険会社です。「People Fact Book」を公開し、人的資本に関する基本情報を適切に開示しています。 - KBフィナンシャル・グループ(KB Financial Group)
韓国最大の金融機関で、2024年11月にISO30414認証を取得しました。サステナビリティレポート「ESG VALUE & IMPACT」を公開しています。
ドイツ銀行やアリアンツといったグローバル企業がISO30414認証を取得している事実は、人的資本開示が国際的な潮流であることを明確に示しています。日本企業がグローバル市場で競争力を維持するためには、この国際標準への対応が不可欠であり、認証取得は単なる国内のトレンドではなく、グローバル企業としての責務となりつつあるという文脈で捉えるべきです。
認証取得のメリットと企業価値向上への貢献
ISO30414認証の取得は、企業に多岐にわたるメリットをもたらし、結果として企業価値の向上に貢献します。
- 投資家からの積極的な投資
近年、ESG投資が拡大しており、投資家は企業の財務情報だけでなく、環境・社会・ガバナンス(ESG)への取り組みを重視しています。人的資本は「社会(S)」の重要な要素であり、ISO30414認証を通じて人的資本を重視する姿勢を明確に示すことで、投資家からの評価が高まり、積極的な投資を呼び込むことができます。 - 企業価値の向上
ISO30414の導入は、従業員のスキルや生産性向上への投資を促し、結果的に企業全体の生産性向上やイノベーション創出につながり、企業価値を高めます。人的資本RoIの算出を通じて、人的資本への投資が具体的な利益にどう結びついているかを可視化できるため、経営層はよりデータに基づいた意思決定が可能になります。 - 採用活動の促進
人的資本を大切にする姿勢を明確に示すことは、企業のブランドイメージを高め、採用市場における魅力を向上させます。これにより、優秀な人材の獲得に繋がり、採用競争力を強化することができます。 - 戦略人事の実行
ISO30414は、人的資本の状況を定量化することを要求するため、人的資本を可視化し、経営戦略と連動した効果的な人材戦略を策定することが可能になります。これは、単なる人事管理を超えた「戦略人事」の実行を促し、企業の持続的成長を支援します。 - ステークホルダーへの透明性向上
ISO30414に基づく情報開示は、人的資本情報の透明性を高め、投資家や他の利害関係者(従業員、顧客、取引先など)が企業の人的資本状況や価値をより定量的かつ定性的に正しく理解できるようになります。
ISO30414認証取得企業事例が示すのは、単に「開示項目を満たした」という形式的な側面だけでなく、人的資本ROIの算出や戦略人事の実行といった無形資産である人的資本を定量化し、経営戦略に統合することで企業価値を実質的に向上させている点です。これは、ISO30414が「経営の質」を高めるツールとして機能していることを示しており、ISO30414が任意開示のガイダンスであることを考えると、単なる情報開示の義務化とは一線を画します。
こうした「自律的な開示」によって企業価値を高めようとする動きは、認証取得企業だけにとどまりません。近年では、認証の有無に関わらず、人的資本レポートを発行してステークホルダーとの対話を深める企業が急増しています。
以下は人的資本レポートを発行している企業数の推移です。
2025年までに66社が発行しており、企業にとっての重要性が増していることが伺えます。

以下はそのうちISO30414の認証・準拠・参照をしている企業の割合です。
日本において発行されている人的資本レポートの1/3以上がISO30414の認証・保証を取得しており、準拠・参照まで加えると約半数がISO30414への適合性に言及していることになります。

コトラでは国内で発行されている人的資本レポートの発行状況を常に更新しています。
最新のレポート発行事例については、以下にて一覧紹介しておりますので、ぜひご覧ください。
次回予告
今回は、ISO30414認証を取得した先行企業の事例を紹介するとともに、認証取得のメリットについて解説しました。では、実際に自社で認証取得を目指す場合、どのような道のりを歩むことになるのでしょうか。
「難しそう」「時間がかかりそう」といったイメージがあるかもしれませんが、プロセス全体を分解すれば、着実に進められるステップが見えてきます。
次回は、認証取得に向けた具体的なロードマップを公開します。準備から指標の測定、審査、そして認証取得後の取り組みまで、ISO30414認証取得プロジェクトの全貌を徹底解説します。また、多くの担当者が不安を感じる「審査の実態」や「審査員が本当に見ているポイント」についても、コンサルタントの視点からお伝えします。
認証取得を現実的な目標として捉えるための、実践的な手引きとなっておりますので、ぜひ次回のコラムもご期待ください。
↓↓ ISO30414についてもっと知りたい方、疑問がある方はこちらのQ&Aをぜひご参照ください! ↓↓








