【完全解説】ISO 30414認証:プロセスからメリットまで、全てを学ぶ 第7回「認証機関の仕組みと『ISOの枠組み』」

ISO30414認証に関する正しい認識を広めるため、本連載では全10回にわたり、その本質と実践的な情報を徹底解説。ISO規格の分類や認証制度のプロセス、ISO30414の具体的な58指標、「認証」と「保証」の違い、さらには認証取得支援実績を通じた認証取得のプロセスやメリットまで、専門家がその複雑な制度を紐解きます。<連載一覧はこちら

第7回:認証機関の仕組みと「ISOの枠組み」

前回のコラムでは、ISO30414における「認証」と「保証」の違いや、信頼性のレベルについて解説しました。

では、そもそもその「認証」や「保証」を与えている組織は、一体何者なのでしょうか?

これまでの連載で触れてきた通り、ISO認証は「お上(政府)」が与える許可証ではなく、民間組織であるISO(国際標準化機構)が定めた基準に基づく評価の仕組みです。それなのに、なぜISO認証は世界中でこれほど強い効力と信頼を持っているのでしょうか?

今回は、このISO制度の根幹をなす「信頼の仕組み」を解き明かします。この構造を知ることで、「なぜ日本の審査で取得した認証が海外でも通用するのか」、そして「なぜ認証取得がステークホルダーへの信頼の証となるのか」という、もっとも本質的な疑問が氷解するはずです。

ISO認証制度を支える「二層構造」と共通言語化

ISO認証が世界中で信頼される理由は、厳格なルールの下で運用されているからです。この運用を支えているのが「認定機関」と「認証機関」による二層構造です。

  • 認定機関(Accreditation Body)
    認証機関を監督する役割を持ちます。日本ではJAB(日本適合性認定協会)やISMS-AC(情報マネジメントシステム認定センター)などが存在します。彼らの役割は、認証機関に対して「ISOの決めたルール通りに、正しく審査を行う力量(能力)があるか」を審査し、お墨付き(認定)を与えることです。
  • 認証機関(Certification Body)
    実際に企業に対して審査を行う機関です。認定機関から「審査能力がある」と認められた上で、企業がISO規格に適合しているかを審査し、認証を発行します。

なぜ、日本の審査で取得した認証が海外でも通用するのか?

それは、ISOという「世界統一の基準」があり、認定機関同士が相互承認することで、どの国の認証機関であっても「同じルール、同じ力量」で審査が行われていることが担保されているからです。これにより、日本で取得したISO認証がアメリカでもドイツでも理解される「全世界的な共通言語・共通認識」となります。これがISOにおける「相互承認」の考え方です。

【図表1:ISOの枠組みと相互承認の概念】

ISOの枠組みと相互承認の概念

ISO 30414における認証の現状

では、ISO 30414はどうでしょうか。 ISO 30414は「ガイドライン規格(Type B)」であるため、上記の「認定機関(JAB等)が認証機関を認定し、その認証機関が審査する」という、いわゆる一般的なISOの枠組み(Type A向けの認証制度)の対象外となります。

※Type AやType BといったISO規格の分類については、第2回で解説しています。

そのため、現時点ではISO 30414の認証は、既存のISO認証機関の枠組みではなく、専門知識を持つ機関による第三者審査によって行われています。

  • 専門機関による認証
    HCプロデュース社のように、ISO 30414に関する高度な専門知識を持つ民間企業が、第三者として適合性審査を行い「認証」を発行しています。
  • 国際基準に基づく保証
    BSIグループジャパン社のように、国際的な保証基準を用いてレポートの信頼性を「保証」するケースもあります。

これらは「ISO30414に関して認定機関からの認定を受けた認証機関」によるものではありませんが、ISO 30414という国際的な「共通言語」に基づいて、第三者が客観的に評価するという点においては、ISO本来の目的である「信頼性の担保」や「可視化」の機能を十分に果たしています。

【図表2:ISO 30414の認定・認証モデル】

ISO 30414の認定・認証モデル

認証の信頼性を支える「独立性」

どのような枠組みで審査を受けるにせよ、認証の価値を担保するために最も重要なルールがあります。それは「コンサルティングと審査の分離(独立性)」です。

もし、コンサルタント(対策を教える人)と審査員(合否を決める人)が同じ組織や人物であれば、それは「自作自演」となり、第三者評価としての公平性が失われます。 そのため、ISO 30414に取り組む企業は、以下の役割分担を明確にする必要があります。

  1. コンサルティング会社
    導入支援、データ整備のアドバイス、審査対策を行う(例:コトラなど)
  2. 認証・保証機関
    最終的な審査のみを行う客観的な第三者(例:HCプロデュース、BSIジャパンなど)

この「独立性」が保たれているからこそ、認証取得がステークホルダーへの信頼の証となるのです。

次回予告

  • 今回のポイント
    • ISO認証制度は、ISOが定めた統一基準と、それを審査する機関の「力量」を認定機関が担保することで、世界中で通用する「相互承認(共通言語)」を実現しています。
    • ISO 30414はガイドライン規格のため、認定機関を通じた通常の枠組みとは異なりますが、専門機関による第三者評価として機能しています。
    • 重要なのは形式的な枠組みよりも、審査の「公平性・独立性」が保たれているかどうかにあります。

さて、ここまで7回にわたり、ISO30414の「解説編」として、規格の構造、指標の中身、そして認証制度の裏側にある仕組みまで、「理論」と「ルール」を徹底的に解説してきました。

ISO30414の仕組みが分かったところで、気になるのはやはり「実際に取り組んでいる企業は、どのような成果を上げているのか?」というリアルな姿ではないでしょうか。

「実際にどのような企業がこの認証を取得しているのか?」
「大企業だけの話ではないのか?」
「認証取得によって現場や経営に何が起きたのか?」

次回(第8回)からは【実践編】として、実際に認証を取得した企業の事例や、具体的な開示内容について解説します。
ぜひ次回のコラムもご期待ください。

↓↓ ISO30414についてもっと知りたい方、疑問がある方はこちらのQ&Aをぜひご参照ください! ↓↓

この記事を書いた人

杉江幸一郎

杉江幸一郎

Koichiro SUGIE

ディレクター ISO30414リードコンサルタント

東京大学経済学部経営学科卒。大手メーカー、通信事業者、IT企業など上場事業会社にて経営企画、事業戦略、新規事業立ち上げ等の責任者を歴任。上場企業取締役、CISO および ISO事務局等も担当。

コトラでは、ISO30414を始めとした人的資本経営のコンサルティングに従事。ISO30414リードコンサルタント。ESG情報開示研究会、人的資本経営コンソーシアム、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会員。

コンサルタント紹介

杉江 幸一郎
ディレクター ISO30414リードコンサルタント

東京大学経済学部経営学科卒。大手メーカー、通信事業者、IT企業など上場事業会社にて経営企画、事業戦略、新規事業立ち上げ等の責任者を歴任。上場企業取締役、CISO および ISO事務局等も担当。

コトラでは、ISO30414を始めとした人的資本経営のコンサルティングに従事。ISO30414リードコンサルタント。ESG情報開示研究会、人的資本経営コンソーシアム、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会員。

X(旧Twitter):@Kotora_cnsl


蘇木 亮太
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

同志社大学法学部卒。大手教育系企業でのコンサルタント経験を経て、金融系スタートアップに入社。 組織・人事企画チームに所属し、エンゲージメント向上施策やDE&I推進、研修開発、人事制度運用等を担当。

コトラでは、有価証券報告書・統合報告書における人的資本開示、ISO30414、人事組織コンサル等に従事。ISO30414リードコンサルタント資格/日本ディープラーニング協会G検定保有者。


大西 裕也
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

神戸大学大学院経済学研究科卒。教育経済学を専攻。

コトラでは、ISO30414認証取得支援及び人的資本開示動向のリサーチ、人事データ分析・レポート作成等に従事。

DX推進パスポート(G検定、データサイエンティスト検定、ITパスポート)、一種外務員資格取得者。


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