【完全解説】ISO 30414認証:プロセスからメリットまで、全てを学ぶ 第6回「認証」と「保証」

ISO30414認証に関する正しい認識を広めるため、本連載では全10回にわたり、その本質と実践的な情報を徹底解説。ISO規格の分類や認証制度のプロセス、ISO30414の具体的な58指標、「認証」と「保証」の違い、さらには認証取得支援実績を通じた認証取得のプロセスやメリットまで、専門家がその複雑な制度を紐解きます。<連載一覧はこちら

第6回:「認証」と「保証」

前回のコラムでは、ISO30414に対する3つのアプローチ、「認証」「準拠」「参照」について解説しました。
特に、第三者による客観的な評価を意味する「認証」に注目した方も多いでしょう。

ところで、ISO30414には「保証」という、非常によく似た言葉が存在します。この二つの言葉を意図を持って使い分けている人は少ないかもしれません。しかしながら、この二つの言葉は似て非なる概念であり、そこに注意して企業の開示物を見てみると、その企業の隠れたメッセージなども読み取れるようになります。

今回は、この混同されがちな「認証」と「保証」の違いから解説を始めます。さらに、その先にあるISO30414の改訂や新規格「ISO 30201」の登場といった未来の展望までを解き明かします。

「認証」と「保証」の基本的な違い

ISO30414に関しては、審査機関の方針により「認証」と「保証」の両方のサービスが提供されています。用語の違いによって受けられるサービスが違いますので、以下の内容を踏まえて自社に合ったサービスを受けると良いと思います。

認証(Certification)

一般的に「有効期間内の状態」について保証するものです。例えば、運転免許証のように、一定期間にわたって特定のレベルや資格が保たれることを保証します。

ISOマネジメントシステム規格(例:ISO9001、ISO14001)の認証は、企業が特定の期間にわたって規格の要求事項を満たし、マネジメントシステムが機能している(するであろう)ことを第三者が認めるもので、通常は3年間の有効期間があり、1年ごとに確認の審査があります。

保証(Assurance)

一般的に「ある時点の状態」について保証するものです。企業の決算監査がその典型例で、特定の会計期間末時点の財務諸表が、会計基準に準拠して適正に会計処理されていることを保証します。サステナビリティ報告における保証も同様に、報告書に記載された情報が、特定の時点において正確かつ信頼できるものであることを第三者が検証し、保証するものです。

一般的な話として、「認証」「保証」をまとめて呼ぶ場合の呼称は「保証」と呼ばれると思います。つまり、「保証」がより広い概念で、その中で有効期限の考え方により「保証」と「認証」にわかれるということです。

保証のレベル:合理的保証と限定的保証

保証には、その水準に応じて「合理的保証(Reasonable Assurance)」と「限定的保証(Limited Assurance)」の二つのレベルが存在します。この保証レベルの選択は、企業がステークホルダーに対して提供する情報の「信頼性」と「透明性」のレベルに影響を与えます。

合理的保証(Reasonable Assurance)

  • 特徴
    高い保証水準を採用し、主張の適正性を積極的に保証します。声明書には「〜が適正であると認める」といった積極的な表現が用いられます。
  • 監査
    監査人は報告書の開示項目全てについて監査証拠を入手・評価し、監査リスクを合理的に低い水準に抑える必要があります。これは極めて厳格な監査が求められ、認証の信頼性は最も高くなります。
  • 適用ケース
    高い信頼性が求められる場合に必要となります。

限定的保証(Limited Assurance)

  • 特徴
    低い保証水準で、誤りが見受けられなかったことを消極的に保証します。声明書には「〜に誤りは認められなかった」といった表現が用いられます。
  • 監査
    監査人が重要な開示項目のみを対象に抽出監査を行います。監査手続は合理的保証よりも限定的であり、認証の信頼性は合理的保証に比べて低くなります。
  • 適用ケース
    自社サイトでのサステナビリティ情報開示の一環として実施される場合が多く、コストや内部統制の整備状況を考慮して採用されることが多いです。

高い保証レベルは、より多くのコストと労力を要しますが、その分、投資家や市場からの信頼をより強く獲得できるというトレードオフの関係にあります。企業は、人的資本報告を通じてどのようなメッセージを伝えたいかという戦略的意図によって、適切な保証レベルを選択するべきです。

そのような理解を前提とすると、「認証」は「合理的保証」の一種であると考えられます。現時点の数値データに誤りが見られなかったということに留まらず、それ以降の一定期間においても適合性の高い開示を行っていくことを保証するからです。従って、一般的には「認証」は費用も高い代わりに、信頼性の高いものになると言えます。

ISO30414における保証の実際

ISO30414は「ガイドライン規格」であり、従来のISO認証機関による認証対象ではありません。しかしながら、「〜すべき」とされている規格本文に対して、ISO30414の本来の目的を踏まえて、企業の「あるべき姿」「するべき対応」を明確にし、適合性の判断を基準化し、それに基づいて客観的に審査が行われているのが実態です。これは認証、保証に限らず「第三者による適合性保証」における根本的なルールとなります。

これにより、ISO30414の認証や保証の取得は、その企業の報告情報や人材への取り組みの客観性・信頼性が格段に高くなり、外部にアピールする上で極めて重要となります。

市場動向①:「ISO 30414」の改訂

第3回コラムでも書きましたが、2018年に発行された現行のISO30414は2025年内には2025年版(Ver.2)として改訂されます。タイトルも改編され認証規格に必要なRequirement(要求事項)が追加される予定です。

ISO30414_Human resource management — Requirements and recommendations for human capital reporting and disclosure

現行版の58指標は69指標に拡大され、そのうち17指標が「必須指標(Requirement)」とされる予定です。これによって審査基準はさらに明確化され、今後の認証・保証の審査は、より通常の認証規格と近いものとなっていくことが予想されます。

市場動向②:人的資本に関する認証規格「ISO 30201」の策定

ISO30414の策定に携わったISO/TC260(人的資源管理に関する専門委員会)は、現在、人的資本に関する新たな認証規格である「ISO 30201」(Human Resource Management System — Requirements)の策定を進めています。このISO30201は、従来のISO9001やISO14001と同様の「マネジメントシステム規格」として要求事項が含まれる予定です。

これは、人的資本経営が国際的にさらに重要視され、将来的にはより厳格な「要求事項」として義務化される可能性を示唆しています。

企業は、現行のISO30414や改訂版ISO30414(ver.2)への対応を単なる「ガイドライン準拠」と捉えるのではなく、ISO30201をはじめとした将来の国際的な規制動向を見越した「先見的な投資」として位置づけるべきです。これにより、将来的なコンプライアンスコストの削減や、人的資本経営における持続的な企業価値向上、人材活用、競争優位性の確保につながることが期待されます。

次回予告

今回はISO30414における「認証」と「保証」の違いと、ISO30414の展望について解説しました。

では、そもそもその「認証」や「保証」を与えている「認証機関」とは、一体どのような組織なのでしょうか。そして、その信頼性はどのような仕組みによって担保されているのでしょうか。

次回は、ISO認証制度の信頼性を支える「認定機関」と「認証機関」という構造をはじめ、ISOの認証機関について総まとめします。本連載シリーズのタイトルである「ISO30414認証制度」を完全に理解するためには、認証機関の存在、その意義への理解は欠かせません。ぜひ次回のコラムもご期待ください。

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この記事を書いた人

杉江幸一郎

杉江幸一郎

Koichiro SUGIE

ディレクター ISO30414リードコンサルタント

東京大学経済学部経営学科卒。大手メーカー、通信事業者、IT企業など上場事業会社にて経営企画、事業戦略、新規事業立ち上げ等の責任者を歴任。上場企業取締役、CISO および ISO事務局等も担当。

コトラでは、ISO30414を始めとした人的資本経営のコンサルティングに従事。ISO30414リードコンサルタント。ESG情報開示研究会、人的資本経営コンソーシアム、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会員。

コンサルタント紹介

杉江 幸一郎
ディレクター ISO30414リードコンサルタント

東京大学経済学部経営学科卒。大手メーカー、通信事業者、IT企業など上場事業会社にて経営企画、事業戦略、新規事業立ち上げ等の責任者を歴任。上場企業取締役、CISO および ISO事務局等も担当。

コトラでは、ISO30414を始めとした人的資本経営のコンサルティングに従事。ISO30414リードコンサルタント。ESG情報開示研究会、人的資本経営コンソーシアム、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会員。
X(旧Twitter):@Kotora_cnsl


蘇木 亮太
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

同志社大学法学部卒。大手教育系企業でのコンサルタント経験を経て、金融系スタートアップに入社。 組織・人事企画チームに所属し、エンゲージメント向上施策やDE&I推進、研修開発、人事制度運用等を担当。

コトラでは、有価証券報告書・統合報告書における人的資本開示、ISO30414、人事組織コンサル等に従事。ISO30414リードコンサルタント資格/日本ディープラーニング協会G検定保有者。


大西裕也
リサーチャー兼コンサルタント

神戸大学大学院経済学研究科卒。教育経済学を専攻。

コトラでは、ISO30414認証取得支援及び人的資本開示動向のリサーチ、人事データ分析・レポート作成等に従事。
DX推進パスポート(G検定、データサイエンティスト検定、ITパスポート)、一種外務員資格取得者。


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