入社3年以内の離職は「採用の失敗」:ミスマッチを防ぐ構造化面接

早期離職で採用コストを無駄にしていませんか?

「苦労して採用した優秀な人材が、1年も経たずに辞めてしまった」

人材獲得の難易度が年々高まる中で、このような「早期離職」は企業にとって痛恨のダメージとなります。高額な採用エージェントフィーや、受け入れのために費やした現場の工数が水泡に帰すだけでなく、残された社員のモチベーション低下や、「うちの会社は人が定着しない」というネガティブな評判の拡散さえ招きかねません。

早期離職が発生した際、現場からは「最近の若手は忍耐力がない」「中途入社者がカルチャーに馴染もうとしなかった」といった、個人の資質に原因を求める声が上がりがちです。

しかし、本当にそうでしょうか。多くの場合、早期離職の主たる原因は個人ではなく、企業の「採用プロセス」の精度と、「受け入れ体制(オンボーディング)」の設計不備にあると考えられます。

本コラムでは、早期離職を「個人の問題」ではなく「組織の構造的な課題」と捉え直し、離職率改善の要となる「構造化面接」と「オンボーディング」という2つの実務的なアプローチについて解説します。

アプローチ1:感覚的な採用からの脱却「構造化面接」

なぜ、採用ミスマッチは起きるのでしょうか。その要因の一つは、面接官が「感覚」で合否を判断していることにあります。「なんとなく優秀そうだ」「一緒に働きたい雰囲気がある」といった主観的な評価は、面接官自身のバイアス(偏見)が入り込みやすく、入社後のパフォーマンスを予測する精度が低いことが知られています。

この課題を解決し、自社に真にマッチする人材を見極めるための手法が「構造化面接」です。これは、あらかじめ評価項目と質問内容、評価基準を定めておき、全ての候補者に同じ手順で実施する面接手法です。以下では、構造化面接の導入に向けた具体的な3つのステップをご紹介します。

ステップ1:求める「行動特性(コンピテンシー)」の定義

まず、「コミュニケーション能力」や「主体性」といった抽象的な言葉を、自社の業務で求められる具体的な行動レベルまで落とし込みます。 例えば、「主体性」であれば、「上司の指示を待たず、自ら課題を発見し、周囲を巻き込んで解決策を実行する力」といったように定義します。これにより、面接官全員が同じモノサシを持つことができます。

ステップ2:過去の行動を問う「行動面接」の実践

次に、定義したコンピテンシーを持っているかを確認するための質問を作成します。ここで重要なのは、「もし~だったらどうしますか?」という仮定の質問ではなく、「過去に~した時はどうしましたか?」という過去の行動事実を問うことです。人は将来の行動を美化して語ることができますが、過去の行動パターンは嘘をつきにくく、再現性が高いためです。

以下に、代表的なコンピテンシーを見極めるための質問例を挙げます。

  • 【対人折衝力】を見る質問例
    「過去に、チームメンバーと意見が対立した際、どのように合意形成を図りましたか?具体的なエピソードを教えてください」
  • 【レジリエンス(回復力)】を見る質問例
    「過去に、大きな失敗やミスをしてしまった際、その状況をどのようにリカバリーしましたか?また、そこから何を学び、次の行動にどう活かしましたか?」
  • 【成果志向性】を見る質問例
    「達成困難と思われる高い目標を課された際、どのようなプロセスで計画を立て、達成に向けて行動しましたか?当時のボトルネックとその解決策も含めて教えてください」

このように「状況(Situation)」「課題(Task)」「行動(Action)」「結果(Result)」を深掘りする、いわゆるSTAR手法を用いることで、候補者の実力を客観的に測ることができます。

ステップ3:評価基準の策定

最後に、回答に対する評価基準(合格ライン)を事前に決めておきます。ここでは例として、ステップ2で挙げた【対人折衝力】に対する評価基準を示します。

  • High(5点:優秀水準)
    反対意見の背景にある意図や事情を汲み取り、共通のゴールを再設定した上で、双方が納得する「第三案」を提示し、合意に至っている。
  • Middle(3点:合格水準)
    相手の意見を尊重しつつ、妥協点を探ることで一定の合意形成を図っている。または、自身の主張を一部修正し、プロジェクトの進行を優先させる判断ができている。
  • Low(1点:見送り水準)
    自分の意見の正当性を主張することに終始し、相手を論破あるいは説得しようとしたが、結果として平行線に終わっている。

このように、「どのような行動をとれば高評価か」というグラデーションを言語化しておくことで、面接官による評価のバラつきを防ぎ、ミスマッチのない採用を実現します。

アプローチ2:孤立を防ぎ戦力化する「オンボーディング」

採用プロセスが成功し、晴れて入社した後も、気は抜けません。特に入社直後の3ヶ月間(90日間)は、新入社員にとって最も不安が高く、その後の定着率を左右する期間です。ここで重要になるのが「オンボーディング」です。

オンボーディングとは、単なる事務手続きや業務説明ではありません。新入社員が組織の文化や人間関係に馴染み、早期に成果を出せるよう支援するためのプログラムです。「見て覚えろ」という放置型のスタイルから脱却し、計画的に定着を促すための具体的な施策を挙げます。

施策1:入社初日からの「心理的安全性」の確保

新入社員が最も恐れるのは「孤立」です。配属初日にPCが用意されていない、誰に何を聞けばいいか分からないといった状況は、出鼻をくじき、エンゲージメントを著しく低下させます。

  • ウェルカム体制
    入社前にチームメンバーからの歓迎メッセージを送る、初日のランチ手配を行うなど、「歓迎されている」という実感を持たせる演出が重要です。
  • メンター制度
    業務指導役(OJT担当)とは別に、年齢の近い「メンター(相談役)」を配置します。「社内用語が分からない」「コピー機の使い方が分からない」といった、上司には聞きづらい些細な疑問を解消できる相手を作ることで、心理的な負担を軽減します。

施策2:最初の90日間での「小さな成功体験」の創出

入社直後は「自分はこの会社で役に立てるだろうか」という不安がつきまといます。そのため、いきなり大きな成果を求めるのではなく、早期に達成可能な「小さな成功体験」を意図的にデザインすることが有効です。

  • 短期目標の設定
    入社1週間後、1ヶ月後、3ヶ月後というマイルストーンごとに、具体的な行動目標を設定します(例:1週間以内にチーム全員と顔合わせをする、1ヶ月以内に〇〇の資料を作成するなど)。
  • フィードバックの頻度向上
    最初の3ヶ月間は、週に一度程度の頻度で1on1ミーティングを実施します。業務の進捗確認だけでなく、「困っていることはないか」「組織のルールで違和感を持つことはないか」を丁寧にヒアリングし、障害を取り除くサポートを行います。

施策3:組織ネットワークの「縦・横・斜め」の構築

中途入社者が早期離職する理由の一つに、「社内人脈がなく、仕事が進めにくい」という点があります。これを防ぐために、立体的なネットワーク構築を支援します。

  • 【縦】上司・経営層との接続
    直属の上司との定期的な1on1はもちろん、入社後早期に部門長や役員と話す機会(ウェルカムランチなど)を設けます。組織のビジョンを直接聞くことで、帰属意識を高めます。
  • 【横】同期とのつながり
    同時期に入社した社員同士の交流会を企画します。部署や職種が異なっても、「同じ時期に入った」という共感ベースのつながりは、孤立を防ぐ強力なセーフティネットになります。
  • 【斜め】他部署・メンターとの交流
    業務で関わりのある他部署のキーパーソンを紹介したり、直属のラインではない「メンター(斜めの関係の先輩)」との定期面談を設定したりします。利害関係のない第三者的な視点からのアドバイスは、組織への適応を大きく助けます。

採用と定着は「一連のストーリー」

離職率の問題を解決するためには、採用活動と入社後の定着支援を、それぞれ独立した業務としてではなく、一連のストーリーとして捉える必要があります。

構造化面接によって、自社のカルチャーや業務で活躍できるコンピテンシーを持った人材を的確に見極めること。そして、入社後はオンボーディングプログラムによって、そのポテンシャルが発揮される環境を整えること。この両輪が回って初めて、早期離職は劇的に改善されます。

これらは決して理想論ではなく、手順を踏めばどの企業でも実践可能なアプローチです。まずは「評価基準の言語化」と「入社後1ヶ月のサポート計画」から始めてみてはいかがでしょうか。

株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。より具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

kotora

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コトラ(人的資本チーム)

経営戦略に連動した「動的な人材ポートフォリオ」の構築から、「採用」「育成」といった人材マネジメントの実践まで、人的資本経営を一気通貫で支援しています。

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杉江 幸一郎
ディレクター ISO30414リードコンサルタント

東京大学経済学部経営学科卒。大手メーカー、通信事業者、IT企業など上場事業会社にて経営企画、事業戦略、新規事業立ち上げ等の責任者を歴任。上場企業取締役、CISO および ISO事務局等も担当。

コトラでは、ISO30414を始めとした人的資本経営のコンサルティングに従事。ISO30414リードコンサルタント。ESG情報開示研究会、人的資本経営コンソーシアム、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会員。

X(旧Twitter):@Kotora_cnsl


蘇木 亮太
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

同志社大学法学部卒。大手教育系企業でのコンサルタント経験を経て、金融系スタートアップに入社。 組織・人事企画チームに所属し、エンゲージメント向上施策やDE&I推進、研修開発、人事制度運用等を担当。

コトラでは、有価証券報告書・統合報告書における人的資本開示、ISO30414、人事組織コンサル等に従事。ISO30414リードコンサルタント資格/日本ディープラーニング協会G検定保有者。


大西 裕也
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

神戸大学大学院経済学研究科卒。教育経済学を専攻。

コトラでは、ISO30414認証取得支援及び人的資本開示動向のリサーチ、人事データ分析・レポート作成等に従事。

DX推進パスポート(G検定、データサイエンティスト検定、ITパスポート)、一種外務員資格取得者。


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