“やらされ感”からの脱却 社員のエンゲージメントを高める「スキルベース型人事制度」の可能性

なぜ、意欲あるはずの社員が輝きを失ってしまうのか?

「最近、優秀な若手社員の離職が続いている…」
「従業員エンゲージメントサーベイの結果が、年々低下している気がする…」
「社員に自律的なキャリア形成を求めても、“やらされ感”が漂っている…」

人事担当者として、このような状況に心を痛めている方は少なくないでしょう。従業員一人ひとりが持つ能力を最大限に発揮し、仕事に誇りと情熱を持って取り組んでもらうこと。それは、いつの時代も変わらない経営の願いです。

では、なぜ従業員のエンゲージメントは低下し、輝きは失われてしまうのでしょうか。その根源には、「キャリアの閉塞感」や「評価への不透明感」といった、個人の成長と組織の仕組みとの間のミスマッチが存在していると考えられます。

本コラムでは、この根深い課題に対し、スキルベース型人事制度がいかにして有効な解決策となり得るのか、その可能性について探っていきます。(スキルベース型人事制度については、以下のコラムをご参照ください。)

エンゲージメントの鍵は「成長実感」と「公正な評価」

従業員エンゲージメントとは、単なる満足度とは異なり、「個人と組織が互いに貢献し合い、共に成長できるという信頼関係」と定義することができます。このエンゲージメントを支える重要な要素としては、以下の2つが重要だと言われています。

  1. 成長実感:自分がこの組織で働き続けることで、専門家として、あるいはビジネスパーソンとして成長できるという実感。
  2. 公正感・納得感:自分の貢献や成長が、客観的かつ公正に評価・処遇されているという納得感。

従来の年功的な人事制度では、この2つの感覚を従業員に提供することが難しくなってきているのが実情です。そこで、スキルベース型人事制度が重要な役割を果たします。この制度は、エンゲージメント低下の要因に直接アプローチすることが可能です。

  • 効果1:キャリアパスの透明化による「成長実感」の醸成

スキルベース型人事制度は、各等級や役職で求められるスキルを明確に定義します。これにより、従業員は「今の自分に足りないスキルは何か」「次のステップに進むためには、何を学べば良いか」を具体的に理解できます。ゴールまでの道のりが可視化されることで、日々の業務や学習が、自らのキャリアアップに直結しているという「成長実感」を持ちやすくなります。

  • 効果2:客観的な基準による「公正感・納得感」の向上

評価の基準が「スキル」という客観的なものさしになることで、上司の主観や印象に左右されにくい、透明性の高い評価が実現しやすくなります。なぜその評価なのか、なぜその処遇なのかをスキルレベルに基づいて説明できるため、従業員は結果に対する「納得感」を得やすくなります。

ここで、私たちコトラがご支援の際に大切にしている視点は、制度という「ハード」の導入と同時に、従業員の価値観やキャリア観といった「ソフト」な側面への配慮です。スキルベース型人事制度という器を用意するだけでなく、組織サーベイなどを通じて従業員一人ひとりの価値観を理解し、1on1などの対話を通じて、本人の「ありたい姿」と会社の方向性を丁寧にすり合わせていくプロセスが、制度を真に機能させ、エンゲージメントを高める上で不可欠だと考えています。

スキルベース型制度を「絵に描いた餅」にしないための具体策

スキルベース型人事制度を導入し、それを従業員エンゲージメントの向上に確実に結びつけるためには、どのような工夫が求められるのでしょうか。

施策1:スキルアップと「報酬・機会」の連動性を明確にする

学習を促すだけでなく、習得したスキルがきちんと報われる仕組みを設計することが重要です。スキルのレベルアップに応じた昇給・昇格テーブルを明示するだけでなく、より挑戦的な業務やプロジェクトへのアサイン、希望部署への異動機会など、金銭的報酬以外の「機会報酬」とも連動させることが、従業員のモチベーションを大きく刺激します。

施策2:スキルを「活かす」ための機会を提供する

せっかくスキルを習得しても、それを実践する場がなければ意味がありません。「社内公募制度」や「ジョブポスティングシステム」を活性化させ、従業員が自らの意志でスキルを活かせる仕事に挑戦できる環境を整えることが有効です。これにより、キャリア自律の文化が醸成されていきます。

施策3:自律的な「学び」を支援するインフラを整備する

従業員の学習意欲に応えるため、e-ラーニングプラットフォームの導入、資格取得支援制度の拡充、社内勉強会の奨励など、スキルアップを後押しする具体的な支援策をパッケージで提供することが望ましいと考えられます。

「管理」から「支援」へ 会社と個人の新たな関係

スキルベース型人事制度の導入は、会社から従業員へのメッセージを「管理する」から「成長を支援する」へと転換する、大きな一歩です。会社が従業員のキャリア自律を本気で支援する姿勢を示すことで、従業員は会社を「自分の成長を実現するためのプラットフォーム」と捉えるようになります。このポジティブな信頼関係こそが、エンゲージメントの核となるものです。

“やらされ感”が蔓延する組織から、一人ひとりが主役として輝き、自らの成長と組織の成長を重ね合わせて考えられる組織へ。スキルベース型人事制度は、そのような未来を実現するための、強力な基盤となる可能性を秘めています。

株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。組織サーベイを用いた価値観分析や、エンゲージメント向上に繋がる制度設計について具体的なご相談をご希望の場合は、お気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

kotora

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コトラ(人的資本チーム)

経営戦略に連動した「動的な人材ポートフォリオ」の構築から、「採用」「育成」といった人材マネジメントの実践まで、人的資本経営を一気通貫で支援しています。

コンサルタント紹介

杉江 幸一郎
ディレクター ISO30414リードコンサルタント

東京大学経済学部経営学科卒。大手メーカー、通信事業者、IT企業など上場事業会社にて経営企画、事業戦略、新規事業立ち上げ等の責任者を歴任。上場企業取締役、CISO および ISO事務局等も担当。

コトラでは、ISO30414を始めとした人的資本経営のコンサルティングに従事。ISO30414リードコンサルタント。ESG情報開示研究会、人的資本経営コンソーシアム、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会員。
X(旧Twitter):@Kotora_cnsl


蘇木 亮太
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

同志社大学法学部卒。大手教育系企業でのコンサルタント経験を経て、金融系スタートアップに入社。 組織・人事企画チームに所属し、エンゲージメント向上施策やDE&I推進、研修開発、人事制度運用等を担当。

コトラでは、有価証券報告書・統合報告書における人的資本開示、ISO30414、人事組織コンサル等に従事。ISO30414リードコンサルタント資格/日本ディープラーニング協会G検定保有者。


大西裕也
リサーチャー兼コンサルタント

神戸大学大学院経済学研究科卒。教育経済学を専攻。

コトラでは、ISO30414認証取得支援及び人的資本開示動向のリサーチ、人事データ分析・レポート作成等に従事。
DX推進パスポート(G検定、データサイエンティスト検定、ITパスポート)、一種外務員資格取得者。


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