なぜ続かない? リスキリング推進で陥りがちな7つの落とし穴

リスキリングが形骸化する本当の理由

「全社的にEラーニングを導入したが、受講率が上がらない」
「鳴り物入りで始めたDX研修も、現場の業務改善には繋がっていない」
「リスキリングを推進しようにも、従業員の反応が鈍く、当事者意識が感じられない」

人的資本経営の重要性が叫ばれる中、多くの経営者・人事責任者がリスキリングの推進に力を入れています。しかし、その意図とは裏腹に、施策が空回りしてしまうケースは後を絶ちません。なぜ、良かれと思って始めたリスキリングは失敗に終わってしまうのでしょうか。

本コラムでは、よくある失敗パターンの背景にある構造的な問題、すなわち「落とし穴」について分析し、その回避策を探ります。

リスキリング推進で陥りがちな「7つの落とし穴」

リスキリングの推進において、多くの企業が直面しがちな課題には、いくつかの共通したパターンが見られます。ここでは、特に陥りやすい7つの落とし穴を具体的に解説します。

落とし穴1:「目的不在」の問題

最も多く見られるのが、経営戦略との接続が曖昧なまま「リスキリングすること」自体が目的化してしまうケースです。これでは従業員も「なぜ学ばなければならないのか」が分からず、主体的な学習意欲は湧きにくいでしょう。

落とし穴2:「学習時間が確保されない」問題

「通常業務をこなしながら、時間を見つけて学んでください」というスタンスでは、リスキリングは進みません。従業員は日々の業務に追われ、学習は後回しになりがちです。企業側が意識的に学習時間を確保・捻出する仕組みを作ることが不可欠です。

落とし穴3:「インプット偏重」の状態

研修やEラーニングといったインプットの機会を提供するだけで満足してしまうケースです。学んだ知識を実務で活用する「アウトプットの場」がなければ、スキルは定着しません。学んだ直後に実践できるプロジェクトを用意するなど、学習と実践のサイクルを設計することが重要です。

落とし穴4:「評価制度との不整合」

新しいスキルを習得しても、それが昇進・昇格や報酬に全く反映されないのであれば、従業員のモチベーションは上がりません。リスキリングの取り組みを適切に評価し、処遇に反映させる人事制度との連動が求められます。

落とし穴5:「現場の軽視」

経営層や人事部門だけでリスキリングの計画を立て、現場にトップダウンで押し付けると、反発を招くことがあります。現場の管理職を巻き込み、彼らが部下のリスキリングを支援できるような環境を整えることが、成功の鍵となります。

落とし穴6:「画一的なプログラム」の提供

従業員のスキルレベルやキャリア志向は一人ひとり異なります。全員に同じプログラムを提供しても、学習効果は限定的です。個々のレベルやニーズに合わせた、柔軟で多様な学習選択肢を用意することが望ましいと考えられます。

落とし穴7:「文化醸成の欠如」

最後に、最も根深く、そして重要なのがこの問題です。失敗を許容せず、挑戦を評価しない組織文化の中では、従業員は新しいスキルの習得に及び腰になります。心理的安全性を確保し、「学び続けること」を称賛する文化を醸成する、長期的な視点での取り組みが必要です。

失敗の落とし穴を回避し、実践的なリスキリングを推進する視点

これらの落とし穴を回避するためには、どのような視点が必要なのでしょうか。小手先のテクニックではなく、本質的なアプローチが求められます。

リスキリングを「個人」と「組織」の両面から捉える

私たちコトラは、リスキリングの成功には「個人のキャリア自律支援」と「組織的な戦略実行」の二つの側面が不可欠であると考えています。

  • 個人のキャリア自律支援:従業員一人ひとりが自身のキャリアを主体的に考え、必要なスキルを学ぶ意欲を持てるよう支援します。キャリア面談の充実や、多様なキャリアパスの提示などが有効です。
  • 組織的な戦略実行:企業の経営戦略を実現するために、組織としてどのようなスキルが必要かを定義し、計画的に育成・配置を行います。これは前述した「目的の明確化」や「評価制度との連動」に繋がります。

この両輪がうまく噛み合うことで、従業員は自身の成長と会社の成長を重ね合わせることができ、リスキリングは強力な推進力を得ることができるのです。組織サーベイなどを通じて従業員の価値観やエンゲージメントを把握し、施策に反映させることも有効なアプローチと言えるでしょう。

失敗しないためのチェックリスト

貴社のリスキリング施策が落とし穴に陥っていないか、以下の点で確認してみてください。

  1. 目的の明確化:リスキリングの目的は、経営戦略の言葉で語られていますか?
  2. 時間確保:従業員が安心して学べる時間は、業務として確保されていますか?
  3. 実践の機会:学んだスキルを試せる「場」は用意されていますか?
  4. 評価との連動:挑戦やスキル習得が、報われる仕組みになっていますか?
  5. 現場の巻き込み:現場の管理職は、リスキリングの推進者になっていますか?
  6. 個別最適化:多様な学習ニーズに応える選択肢がありますか?
  7. 文化の醸成:「学び」や「挑戦」が奨励される風土がありますか?

一つでも「いいえ」があれば、そこが改善のスタート地点です。

失敗要因の分析は、成功への道標

リスキリングの推進は、試行錯誤の連続です。重要なのは、失敗を恐れるのではなく、その要因を分析し、自社の状況に合わせてアプローチを改善し続けることです。今回ご紹介した「7つの落とし穴」が、貴社にとって、より効果的なリスキリング戦略を構築するための一助となれば幸いです。

株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。組織サーベイを用いた現状分析から、従業員のモチベーションを高める実践的な制度設計まで、まずはお気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

kotora

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コトラ(人的資本チーム)

経営戦略に連動した「動的な人材ポートフォリオ」の構築から、「採用」「育成」といった人材マネジメントの実践まで、人的資本経営を一気通貫で支援しています。

コンサルタント紹介

杉江 幸一郎
ディレクター ISO30414リードコンサルタント

東京大学経済学部経営学科卒。大手メーカー、通信事業者、IT企業など上場事業会社にて経営企画、事業戦略、新規事業立ち上げ等の責任者を歴任。上場企業取締役、CISO および ISO事務局等も担当。

コトラでは、ISO30414を始めとした人的資本経営のコンサルティングに従事。ISO30414リードコンサルタント。ESG情報開示研究会、人的資本経営コンソーシアム、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会員。
X(旧Twitter):@Kotora_cnsl


蘇木 亮太
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

同志社大学法学部卒。大手教育系企業でのコンサルタント経験を経て、金融系スタートアップに入社。 組織・人事企画チームに所属し、エンゲージメント向上施策やDE&I推進、研修開発、人事制度運用等を担当。

コトラでは、有価証券報告書・統合報告書における人的資本開示、ISO30414、人事組織コンサル等に従事。ISO30414リードコンサルタント資格/日本ディープラーニング協会G検定保有者。


大西裕也
リサーチャー兼コンサルタント

神戸大学大学院経済学研究科卒。教育経済学を専攻。

コトラでは、ISO30414認証取得支援及び人的資本開示動向のリサーチ、人事データ分析・レポート作成等に従事。
DX推進パスポート(G検定、データサイエンティスト検定、ITパスポート)、一種外務員資格取得者。


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