スキルベース型人事制度への移行プロセス 事業成長を加速する人材価値の可視化と評価

その評価基準、未来の事業戦略を描けますか?

「勤続年数は長いが、新しい事業に必要なスキルを持つ人材がいない」
「DXを推進したいが、誰がどのようなデジタルスキルを持っているのか把握できていない」
「若手社員が、自社でのキャリア成長に限界を感じて離職してしまう」

こうした課題の根底には、個人の能力や貢献度を正しく評価しきれていない、旧来の人事制度の存在が考えられます。変化の激しい現代において、年齢や勤続年数を重視する人事制度は、もはや機能不全に陥っていると言っても過言ではありません。この状況を打破し、事業成長を加速させる鍵こそ、「スキル」を基軸とした人事制度改定です。

本コラムでは、これからの時代に不可欠とされるスキルベース型人事制度への移行プロセスについて、その本質と具体的な進め方を解説します。

なぜ今、スキルベース型人事制度への移行が求められるのか

スキルベース型人事制度とは、従業員が保有するスキルや専門性を評価や処遇の主軸に据える考え方です。これが今、なぜ重要視されているのでしょうか。

最大の理由は、事業環境の複雑化と変化の速さにあります。新規事業の創出、グローバル化、DXの推進など、企業が持続的に成長するためには、従来にはなかった多様な専門性が必要不可欠です。

  • 人材価値の可視化

スキルを軸に人材情報を整備することで、「誰が・何を・どのレベルでできるのか」が一目瞭然になります。これにより、事業戦略に基づいた最適な人材配置(適材適所)や、将来を見据えた計画的な人材育成が可能になります。

  • 従業員の自律的成長の促進

評価されるスキルが明確になることで、従業員は自身のキャリアパスを描きやすくなります。何を学べば評価され、キャリアアップに繋がるのかが分かるため、自律的なリスキリングや学習へのモチベーションが高まる効果が期待できます。

  • 採用競争力の強化

専門性を持つ人材に対して、市場価値に見合った処遇を提示できるため、外部からの優秀な人材の獲得においても有利に働きます。

このような人事制度改定は、単に評価のモノサシを変えるだけではありません。個人の成長が直接的に企業の成長に結びつくシステムを構築する、戦略的な一手と言えるでしょう。

コトラがご支援する中でも、特に成長意欲の高い企業様ほど、このスキルベースの考え方を重視される傾向があります。動的な人材ポートフォリオの観点から、将来の事業に必要なスキル群を定義し、現状とのギャップを可視化する。このプロセスを経ることで、人事制度改定が単なる制度変更に留まらず、未来への投資へと昇華されるのです。

スキルベース型人事制度への移行を成功させる実践ステップ

では、具体的にどのようなプロセスでスキルベース人事制度への移行を進めればよいのでしょうか。ここでは3つの重要なステップをご紹介します。

ステップ1:スキルタクソノミーの定義と可視化

移行プロセスの第一歩は、社内に存在する、あるいは今後必要となるスキルを棚卸しし、体系的に整理する「スキルタクソノミー」の作成です。

  • スキル項目の洗い出し

各部署や職務において求められる専門スキル、ビジネススキル、リーダーシップスキルなどを網羅的に洗い出します。

  • レベル定義の設定

各スキル項目について、「指導を受けながら実践できる」「独力で実践できる」「他者を指導できる」といったように、習熟度を測るためのレベル(等級)を定義します。

  • 全社での合意形成

作成したスキルタクソノミーが現場の実態や感覚と乖離していないか、各部門の責任者や従業員を交えて議論し、納得感を醸成するプロセスが重要です。

このスキルタクソノミーが、今後の評価、育成、配置の全ての土台となります。

ステップ2:評価・報酬制度との連動設計

スキルタクソノミーが完成したら、それを評価・報酬制度に組み込んでいきます。

  • 評価制度への反映

スキルレベルの向上や、新たなスキルの習得を評価項目に加えます。目標設定(MBO)においても、個人のスキル開発に関する目標を含めることを奨励します。

  • 報酬制度との接続

スキルレベルに応じて基本給や手当を決定する「スキル給」の導入や、高度な専門スキルを持つ人材に対するインセンティブ設計などが考えられます。市場の報酬水準も参考にしながら、スキルの市場価値と社内貢献度の両面から検討することが肝要です。

この人事制度改定においては、「何をすれば報われるのか」というメッセージを明確に打ち出すことが、従業員の行動変容を促す上で極めて効果的です。

ステップ3:キャリアパスの提示と学習機会の提供

従業員が自律的にスキルを磨いていくためには、成長の道筋と、それを支援する環境が必要です。

  • キャリアパスの明示

スキルタクソノミーと連動させ、「このスキルをこのレベルまで習得すれば、こういうキャリアが開ける」という具体的なモデルケースを複数提示します。これにより、従業員は自身の将来像を描きやすくなります。

  • 学習環境の整備

eラーニングシステムの導入、資格取得支援制度の拡充、社内勉強会の活性化など、従業員がスキルを習得するための機会を積極的に提供します。

人事制度改定と人材開発施策は、車の両輪です。制度という「仕組み」と、学習という「機会」をセットで提供することが、変革を成功に導きます。

人材の価値を最大化し、企業成長の原動力へ

スキルベース人事制度への移行は、短期的に見れば手間のかかる人事制度改定かもしれません。しかし、従業員一人ひとりが持つ潜在能力を可視化し、その成長を企業の成長に直結させるこのアプローチは、変化の時代を勝ち抜くための最も確実な投資の一つです。

自社の未来を担う人材をいかに育て、活かしていくか。その答えは、スキルという共通言語の上に築かれる新しい人事制度の中にあります。この重要な変革プロセスを通じて、貴社の競争優位性を確立していくことができるでしょう。

株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社のスキルベース人事制度改定プロセスにおける課題解決をサポートします。より具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。

コンサルタント紹介

杉江 幸一郎
ディレクター ISO30414リードコンサルタント

東京大学経済学部経営学科卒。大手メーカー、通信事業者、IT企業など上場事業会社にて経営企画、事業戦略、新規事業立ち上げ等の責任者を歴任。上場企業取締役、CISO および ISO事務局等も担当。

コトラでは、ISO30414を始めとした人的資本経営のコンサルティングに従事。ISO30414リードコンサルタント。ESG情報開示研究会、人的資本経営コンソーシアム、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会員。
X(旧Twitter):@Kotora_cnsl


蘇木 亮太
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

同志社大学法学部卒。大手教育系企業でのコンサルタント経験を経て、金融系スタートアップに入社。 組織・人事企画チームに所属し、エンゲージメント向上施策やDE&I推進、研修開発、人事制度運用等を担当。

コトラでは、有価証券報告書・統合報告書における人的資本開示、ISO30414、人事組織コンサル等に従事。ISO30414リードコンサルタント資格/日本ディープラーニング協会G検定保有者。


大西裕也
リサーチャー兼コンサルタント

神戸大学大学院経済学研究科卒。教育経済学を専攻。

コトラでは、ISO30414認証取得支援及び人的資本開示動向のリサーチ、人事データ分析・レポート作成等に従事。
DX推進パスポート(G検定、データサイエンティスト検定、ITパスポート)、一種外務員資格取得者。


サービスについての疑問や質問、
その他お気軽にお問い合わせください!