「勘」と「経験」に頼る採用はもう限界 データドリブンで実現する採用コスト最適化とチャネル戦略

その採用チャネルを選んでいるのはなぜですか?

「流行っているから、ダイレクトリクルーティングを始めてみた」
「どの採用媒体が、本当に自社に合っているのか分からない」

人事担当者の皆様とお話ししていると、採用チャネルの選定理由が、意外にも「慣習」や「感覚」に基づいているケースが少なくありません。しかし、採用市場が目まぐるしく変化する現代において、過去の成功体験が未来の成功を保証するとは限りません。

各チャネルには異なる特性とコスト構造があり、それらを理解せずに予算を投下することは、非効率なだけでなく、大きな機会損失に繋がる可能性があります。本コラムでは、勘や経験に依存した採用活動から一歩進み、データという客観的な羅針盤を用いて採用コスト最適化を実現するための、具体的なアプローチについて解説します。

「攻め」と「守り」のチャネルポートフォリオを構築する

採用コストの最適化は、単一のチャネルに依存するのではなく、複数のチャネルを組み合わせた「ポートフォリオ」の視点で考えることが極めて重要です。各チャネルの特性を理解し、自社の採用戦略に合わせてバランス良く活用することが求められます。

私たちコトラは、採用チャネルを評価する際、単に「応募単価」や「採用単価」だけで判断するべきではないと考えています。見るべきは、「どのチャネルから採用した人材が、入社後に活躍しているか」という、より本質的な指標です。

これを実現するためには、まず採用プロセス全体のデータを一元的に管理し、可視化する仕組み、例えばATS(採用管理システム)の導入などが考えられます。データが整備されることで、以下のような分析が可能になります。

  • チャネル別の選考通過率:A媒体は応募は多いが面接通過率が低い、Bサービスは応募は少ないが内定承諾率が高い、といった傾向を把握できます。
  • チャネル別の入社後パフォーマンス:人事評価やエンゲージメントサーベイの結果と採用チャネルのデータを紐づけることで、ハイパフォーマーを輩出しているチャネルを特定できます。
  • チャネル別の定着率:どのチャネル経由の入社者が、長期的に定着しているかを分析できます。

このような多角的な分析を通じて初めて、表面的なコストだけでなく、質的な側面も含めた費用対効果を判断できるようになります。例えば、採用単価が多少高くても、入社後の活躍度や定着率が高いチャネルは、結果として投資対効果が高いと評価できるでしょう。こうしたデータに基づく判断の積み重ねが、真の採用コスト最適化を実現するのです。

データドリブン採用を始めるための3ステップ

データに基づく採用へ移行するためには、どのようなステップを踏めば良いのでしょうか。ここでは、実践的な3つのステップをご紹介します。

ステップ1:KPI(重要業績評価指標)を設定する

まず、採用活動の「何」をデータで追いかけるのかを定義します。これがKPIの設定です。

  • 量に関するKPI: 応募数、書類通過数、面接数、内定数など
  • コストに関するKPI: 採用単価、チャネル別コスト、応募単価など
  • 質に関するKPI: 内定承諾率、選考スピード、入社後定着率など

最初から多くの指標を追う必要はありません。自社の課題に合わせて、最も重要な2〜3個のKPIから始めることをお勧めします。

ステップ2:データの収集と可視化の仕組みを作る

設定したKPIを計測するため、データを収集する仕組みを整えます。前述のATSは非常に有効なツールですが、まずはExcelやスプレッドシートで応募者情報を管理し、応募経路や選考結果を記録することからでも始められます。「どの媒体から」「何件応募があり」「何人通過したか」を記録するだけでも、貴重なデータ資産となります。

ステップ3:定期的な振り返りと改善サイクルを回す

データは、集めるだけでは意味がありません。月に一度、あるいは四半期に一度など、定期的にデータを振り返る場を設け、「なぜこのチャネルは費用対効果が高いのか」「このプロセスのどこにボトルネックがあるのか」といった議論を行うことが重要です。

その議論から得られた仮説を基に、次なるアクション(例:A媒体への出稿を止め、B媒体の予算を増やす)を決め、実行し、また結果をデータで検証する。このPDCAサイクルを回し続けることが、採用コスト最適化のポイントです。

データは、未来を切り拓く武器となる

採用コスト最適化は、もはや精神論や根性論で達成できるものではありません。多様化する選択肢の中から、自社にとって最適な解を見つけ出すためには、客観的なデータという武器が不可欠です。

データドリブンな採用への移行は、短期的なコスト削減に留まらず、採用活動そのものの質を向上させ、ひいては企業の競争力強化に直結します。まずは小さな一歩からでも、データを活用した採用活動を始めてみることが、未来の大きな飛躍に繋がるのではないでしょうか。

株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。採用プロセスの最適化や、データに基づいた採用戦略の立案についてご相談は、お気軽にお問い合わせください。

コンサルタント紹介

杉江 幸一郎
ディレクター ISO30414リードコンサルタント

東京大学経済学部経営学科卒。大手メーカー、通信事業者、IT企業など上場事業会社にて経営企画、事業戦略、新規事業立ち上げ等の責任者を歴任。上場企業取締役、CISO および ISO事務局等も担当。

コトラでは、ISO30414を始めとした人的資本経営のコンサルティングに従事。ISO30414リードコンサルタント。ESG情報開示研究会、人的資本経営コンソーシアム、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会員。
X(旧Twitter):@Kotora_cnsl


蘇木 亮太
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

同志社大学法学部卒。大手教育系企業でのコンサルタント経験を経て、金融系スタートアップに入社。 組織・人事企画チームに所属し、エンゲージメント向上施策やDE&I推進、研修開発、人事制度運用等を担当。

コトラでは、有価証券報告書・統合報告書における人的資本開示、ISO30414、人事組織コンサル等に従事。ISO30414リードコンサルタント資格/日本ディープラーニング協会G検定保有者。


大西裕也
リサーチャー兼コンサルタント

神戸大学大学院経済学研究科卒。教育経済学を専攻。

コトラでは、ISO30414認証取得支援及び人的資本開示動向のリサーチ、人事データ分析・レポート作成等に従事。
DX推進パスポート(G検定、データサイエンティスト検定、ITパスポート)、一種外務員資格取得者。


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