なぜ、期待のキャリア採用人材はすぐに辞めてしまうのか?
「鳴り物入りで採用したエース候補が、半年で退職してしまった。」
「入社当初は意欲的だった中途社員が、次第に元気がなくなり、パフォーマンスも上がらない。」
これらは、多くの企業が抱えるキャリア採用における深刻な課題です。採用活動に成功し、優秀な人材の入社が決まった瞬間は、ゴールテープを切ったかのような達成感があるかもしれません。しかし、本当のゴールはそこではありません。採用した人材が組織にスムーズに馴染み、その能力を最大限に発揮して定着・活躍することこそが、キャリア採用戦略の最終的な成功と言えるでしょう。
本コラムでは、この「採用して終わり」という考え方から脱却し、採用活動の効果を最大化するための「戦略的オンボーディング」の重要性と、その具体的な設計アプローチについて探ります。
早期離職の根源にある「リアリティショック」とは
キャリア採用者の早期離職の多くは、入社前に抱いていた期待と、入社後の現実との間に生じるギャップ、いわゆる「リアリティショック」に起因すると考えられます。
- 業務内容のギャップ:聞いていた役割と実際の業務が異なる。
- 人間関係のギャップ:組織に馴染めず、孤立感を感じる。
- 文化のギャップ:社内の暗黙のルールや独特のコミュニケーションスタイルに戸惑う。
こうしたギャップは、個人の能力や適性の問題だけでなく、企業側の受け入れ体制の不備によって引き起こされるケースが少なくありません。つまり、オンボーディングとは、単なる入社手続きやオリエンテーションではなく、このリアリティショックを最小限に抑え、候補者がソフトランディングするための「滑走路」を意図的に設計する、極めて戦略的なプロセスなのです。キャリア採用戦略の成否は、このオンボーディングの巧拙にかかっていると言っても過言ではありません。
オンボーディングは「個人の価値観と組織の価値観をすり合わせる重要な機会」と捉えるべきです。どんなに高いスキルを持つ人材でも、企業のカルチャーや働く仲間との価値観が合わなければ、その能力を十分に発揮することは難しいでしょう。
効果的なオンボーディングは、新入社員が企業のビジョンや価値観を深く理解し、共感するプロセスを支援します。組織サーベイなどを通じて自社の価値観を客観的に把握し、それを採用やオンボーミングのプロセスに反映させることで、表層的なスキルマッチングを超えた、本質的な人材定着に繋がると考えられます。
定着と活躍を促す戦略的オンボーディングの4つの要素
効果的なオンボーディングプログラムは、新入社員が持つ不安を解消し、早期の活躍を後押しするために、体系的に設計される必要があります。ここでは、その中核となる4つの要素をご紹介します。
要素1:入社前から始める「プレ・ボーディング」
オンボーディングは、入社承諾の瞬間から始まっています。入社日までの期間を有効に活用し、新入社員の不安を和らげ、期待感を高めるためのコミュニケーションを設計します。具体的なアクション例は以下の通りです。
- 歓迎の意を伝える経営層や配属先上長からのメッセージ送付。
- チームメンバーとのカジュアルなオンライン顔合わせの設定。
- 会社の雰囲気が伝わる社内報や資料の共有。
- 必要な手続きに関する丁寧な事前案内。
要素2:部署全体で受け入れる「支援体制」の構築
新入社員の受け入れを、人事部や直属の上司だけに任せるべきではありません。部署やチーム全体でサポートする体制を構築することが、心理的安全性を高め、早期の孤立を防ぎます。具体的には、以下の取り組みが考えられます。
- メンター/バディ制度の導入
業務上の相談役とは別に、気軽に何でも話せる先輩社員(メンター)をアサインする。 - チーム内での役割分担
新入社員の紹介、歓迎ランチの設定、業務の引き継ぎなどをチームで分担して行う。 - 「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」研修
受け入れ側が陥りがちな「中途なのだから出来て当たり前」という思い込みを排除する。
要素3:定期的な「期待値調整」の場としての1on1ミーティング
入社後の数ヶ月間は、上司と新入社員の間で定期的な1on1ミーティングを実施することが極めて重要です。新入社員との1on1ミーティングには、次のような目的があります。
- 業務の進捗確認だけでなく、困っていることや人間関係の悩みを傾聴する。
- 会社や上司が新入社員に期待している役割を改めて伝え、認識のズレを修正する。
- 小さな成功体験を承認し、モチベーションを高める。
要素4:データに基づく「オンボーディング体験」の可視化と改善
オンボーディングプログラムが有効に機能しているかを検証し、継続的に改善していくためには、データに基づいたアプローチが不可欠です。
入社1ヶ月後、3ヶ月後といったタイミングでオンボーディング体験に関する匿名アンケートを実施したり、入社後アンケート結果や早期離職率、1on1の実施状況といったデータを分析したりすることで、課題を定量的に把握することが可能です。
採用投資を最大化するオンボーディング戦略
キャリア採用戦略におけるオンボーディングは、採用という「投資」の効果を最大化し、確実にリターンを得るための重要な経営活動です。採用した人材一人ひとりが、安心して組織に溶け込み、持てる能力を存分に発揮できる環境を整えること。この地道な取り組みこそが、個人の成長と組織の成長が連動する好循環を生み出し、企業の持続的な競争力の源泉となります。
株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。エンゲージメントサーベイを用いた組織分析や、効果的なオンボーディングプログラムの企画・立案支援など、より具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。