「ぜひ弊社に」と伝えた候補者から内定辞退の連絡が来た。その理由は?
「書類選考を通過する候補者は多いものの、面接に進むと辞退されてしまう。」
「多大なコストと時間をかけて口説いた候補者から、最終的に内定辞退の連絡が来てしまった。」
このような経験は、採用に携わる方であれば一度は味わったことのある苦い経験ではないでしょうか。労働人口が減少し、働き方の価値観が多様化する現代において、企業と個人の関係は大きく変化しました。もはや、企業が候補者を「選考してあげる」という時代は終わりを告げ、企業と候補者が対等な立場で選び合う、あるいは企業が候補者から「選ばれる」時代へとシフトしています。
本コラムでは、この新しい時代におけるキャリア採用戦略のポイントとして、「候補者体験(Candidate Experience)」という概念に焦点を当て、優秀な人材から選ばれる企業になるための具体的なアプローチを探ります。
マーケティング思考で捉える採用:候補者を「ファン」にする
候補者体験とは、候補者が企業を認知し、応募し、選考を受け、内定に至るまでの一連のプロセスで得られる、すべての体験価値を指します。この体験の質こそが、候補者の入社意欲を大きく左右するのです。優れたキャリア採用戦略は、この候補者体験をいかに向上させるか、という視点で設計されているという傾向があります。
採用プロセスは「企業の素顔が最も表れる鏡」であると考えられます。候補者は、面接官の言動、選考結果の連絡スピード、オフィスの雰囲気といった一つひとつの接点から、その企業の文化や社員への向き合い方を敏感に感じ取っています。例えば、構造化された分かりやすい面接は「論理性を重んじる文化」を、面接官からの丁寧なフィードバックは「人材育成を大切にする文化」を、無意識のうちに伝えます。
つまり、採用活動は単なる選抜の場ではなく、自社の魅力を伝え、候補者とのエンゲージメントを深めるための、絶好のコミュニケーション機会なのです。スカウトメールの文面一つ、面接の日程調整のメール一つに至るまで、すべてが候補者体験を構成する要素であり、企業のブランドを形作っているという認識を持つことが、これからのキャリア採用戦略には不可欠です。候補者を単なる「応募者」としてではなく、自社の「未来のファン」として捉え、接することが重要です。
候補者体験を向上させる、今日からできる実践的アクション
候補者体験の重要性は理解できても、何から手をつければよいか分からない、という方もいらっしゃるかもしれません。ここでは、候補者体験を劇的に改善するための、4つの具体的なアクションプランを提示します。
アクション1:来てほしい人材を具体的に描く「採用ペルソナ」の設計
どのような候補者にアプローチしたいのかが曖昧では、効果的なコミュニケーションは望めません。まずは、事業戦略やチームの状況に基づき、求める人物像を具体的に描き出す「採用ペルソナ」を設計します。
- ペルソナの要素:スキルや経験だけでなく、価値観、仕事へのスタンス、情報収集の方法、キャリアで実現したいことなど、人物像が浮かび上がるまで詳細に設定します。
- 活用方法:このペルソナを基に、「彼/彼女は、どのような情報に関心を持つか」「どのような言葉で語りかければ響くか」を考えることで、求人票やスカウトメールの質が大きく向上します。
アクション2:候補者の感情を旅する「ジャーニーマップ」の作成
次に、ペルソナが自社を認知してから内定を承諾するまでのプロセスを時系列で追い、各接点での行動や感情を可視化する「候補者ジャーニーマップ」を作成します。
- マップの作成:横軸に「認知→興味→応募→選考→内定→承諾」といったフェーズを、縦軸に「行動」「思考・感情」「タッチポイント」「課題」などを設定します。
- 課題の発見:「選考結果の連絡が遅く、不安を感じる」「面接で一方的に質問され、企業の魅力が分からなかった」といった、候補者体験を損なうボトルネックが明確になり、具体的な改善策に繋げられます。
アクション3:「企業の顔」を育てる面接官トレーニング
面接官は、候補者が最も密接に接する「企業の顔」です。面接官のスキルやスタンスが、候補者の入社意欲を大きく左右します。
- トレーニングの内容:自社の魅力やビジョンを語れるようにするだけでなく、候補者の話を深く傾聴するスキル、候補者の能力や価値観を客観的に見極める質問スキル、心理的安全性を確保する対話の進め方などを学びます。
- 効果:候補者の満足度向上はもちろん、面接の精度が上がり、採用のミスマッチを防ぐ効果も期待できます。
アクション4:迅速かつ透明性の高い選考プロセスの構築
優秀な候補者ほど、複数の企業からアプローチを受けています。選考プロセスが不必要に長かったり、状況が不透明だったりすることは、それだけで致命的な機会損失に繋がります。改善策の例としては、次の3つが挙げられます。
- 応募から内定までの標準的な期間を設定し、候補者に明示する。
- 各選考ステップの目的を事前に伝える。
- 選考結果は、合否に関わらず迅速に、かつ丁寧に連絡する。
最高の候補者体験が、最高の仲間を連れてくる
本コラムで解説したように、これからのキャリア採用戦略は、いかに優れた候補者体験を提供できるかにかかっています。候補者一人ひとりに真摯に向き合い、自社のファンになってもらうための地道な努力の積み重ねが、結果として優秀な人材の獲得、さらには入社後のエンゲージメント向上やリファラル採用の活性化といった、数多くの副次的効果をもたらします。
優れた候補者体験は、一朝一夕に実現できるものではありません。しかし、それに取り組むこと自体が、自社の組織文化や人材への向き合い方を見つめ直す貴重な機会となるでしょう。
株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。候補者体験を向上させるための選考プロセス最適化や構造化面接の導入支援など、より具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。