経営戦略と連動するキャリア採用戦略とは? 事業成長を加速させる人材ポートフォリオの描き方

なぜ、貴社の採用は事業成長に繋がらないのか?

「事業拡大のために、年間を通じてキャリア採用を行っているが、人が増えても期待したほど事業が成長している実感がない。」
「現場から要望のあったポジションの採用はしているが、それが全社的な戦略にどう貢献しているのか、明確に説明できない。」

企業の経営者や人事責任者の方々から、このようなお悩みを伺うことは少なくありません。多くの企業が採用活動に多大なエネルギーとコストを投じている一方で、その活動が場当たり的になり、経営戦略と分断されてしまっているケースが散見されます。

本コラムでは、こうした課題を乗り越え、採用活動を企業の持続的な成長エンジンへと転換させるための「経営戦略と連動したキャリア採用戦略」の考え方と、その具体的な実践方法について解説します。

採用は「手段」である:経営目標から逆算する人材ポートフォリオという視点

多くの企業で陥りがちなのが、「欠員が出たから補充する」「現場から要望があったから採用する」といった、目の前の課題に対応するための「点」の採用です。しかし、本来あるべきキャリア採用戦略とは、自社の経営戦略や事業目標を達成するための「手段」として、明確に位置づけられるべきものと考えられます。

そこでコトラが重視しているのが、「人材ポートフォリオ」という考え方です。これは、自社の事業を金融資産のポートフォリオのように捉え、現在および将来の事業環境を踏まえて、どのようなスキル、経験、価値観を持つ人材が、どのような構成で必要なのかを可視化するアプローチです。

従来の画一的な人員計画とは異なり、これからの時代に求められるのは、市場の変化や事業フェーズの移行に柔軟に対応できる「動的な人材ポートフォリオ」です。(動的な人材ポートフォリオの詳細は、以下のコラムをご参照ください)

例えば、新規事業の立ち上げフェーズでは専門性の高い即戦力人材が求められますが、事業が成長軌道に乗れば、次は組織を牽引するリーダー人材や、既存事業とのシナジーを生み出す人材が必要になるかもしれません。

このように、未来の事業展開を見据え、現在の組織が持つ能力(As-Is)と、将来必要となる能力(To-Be)との間のギャップ(スキルギャップ)を明確に把握すること。これこそが、戦略的なキャリア採用の出発点となります。

この視点が欠落していると、場当たり的な採用に終始し、採用コストはかさむ一方で、組織能力の向上や事業成長には繋がりにくいという状況を招く傾向があります。効果的なキャリア採用戦略を構築するためには、まず自社の現状と未来、そしてそのギャップを正しく見定めることが不可欠です。

事業成長に繋げるキャリア採用戦略の実践ステップ

では、具体的にどのようにして、経営と連動したキャリア採用戦略を構築すればよいのでしょうか。ここでは、読者の皆様が具体的な一歩を踏み出すための、3つの実践的なステップをご紹介します。

ステップ1:事業計画を「人材の言葉」に翻訳する

最初のステップは、中期経営計画や年度事業計画を、人材の要件に具体的に落とし込むことです。

  1. 事業目標の分解

「売上目標〇〇億円達成」「新規事業の市場シェア〇%獲得」といった事業目標を、「そのために、どのような機能(営業、マーケティング、開発など)を、どの程度強化する必要があるか」というレベルまで分解します。

  1. 要員計画の策定

各機能の強化に必要な人員数と、求められるスキル・経験を定義します。このプロセスが、精度の高いキャリア採用戦略の基礎となります。例えば、「新規事業のWebマーケティング強化のために、SEOとコンテンツマーケティングに精通した実務経験5年以上の人材が2名必要」といった具体的なレベルまで明確化することが望ましいでしょう。

ステップ2:スキルギャップを可視化し、採用ターゲットを定める

次に、ステップ1で策定した要員計画と、現在の組織の人材構成を比較し、スキルギャップを可視化します。

  • 現状分析:既存社員のスキルや経験を棚卸しします。タレントマネジメントシステムやスキルマップなどを活用することも有効な手段と考えられます。
  • ギャップの特定:将来必要な人材要件に対して、不足しているスキルや人数を具体的に特定します。このギャップこそが、キャリア採用によって獲得すべきターゲットとなります。この分析を通じて、キャリア採用戦略における優先順位が明確になります。

ステップ3:採用活動の成果を測るKPIを設定する

戦略を計画倒れにしないためには、その進捗と成果を客観的に測る指標(KPI)の設定が不可欠です。KPIの例としては、以下のものが考えられます。

  • 充足率・充足スピード:計画通りに採用ができているか。
  • 採用単価:採用コストが適切に管理されているか。
  • 内定承諾率:採用ブランディングや選考プロセスが魅力的か。
  • 入社後パフォーマンス:採用した人材が期待通りに活躍しているか(例:入社1年後の評価、目標達成度など)。
  • 定着率:採用のミスマッチが起きていないか。

これらのKPIを定期的にモニタリングし、PDCAサイクルを回すことで、キャリア採用戦略の精度は着実に向上していきます。

戦略的人材獲得が、未来の企業価値を創造する

本コラムでは、経営戦略と連動したキャリア採用戦略の重要性と、その具体的な実践ステップについて解説しました。場当たり的な採用から脱却し、事業目標から逆算した人材ポートフォリオを描き、データに基づいて採用活動をマネジメントすること。この一連の取り組みこそが、不確実性の高い時代を勝ち抜くための、強力な競争優位性に繋がります。

貴社のキャリア採用戦略は、未来の事業成長というゴールに、まっすぐ向かっているでしょうか。この問いに向き合うことが、企業の持続的な成長を実現するための、極めて重要な第一歩となると考えられます。

株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。事業計画と連動した要員計画の策定支援など、より具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。

コンサルタント紹介

杉江 幸一郎
ディレクター ISO30414リードコンサルタント

東京大学経済学部経営学科卒。大手メーカー、通信事業者、IT企業など上場事業会社にて経営企画、事業戦略、新規事業立ち上げ等の責任者を歴任。上場企業取締役、CISO および ISO事務局等も担当。

コトラでは、ISO30414を始めとした人的資本経営のコンサルティングに従事。ISO30414リードコンサルタント。ESG情報開示研究会、人的資本経営コンソーシアム、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会員。
X(旧Twitter):@Kotora_cnsl


蘇木 亮太
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

同志社大学法学部卒。大手教育系企業でのコンサルタント経験を経て、金融系スタートアップに入社。 組織・人事企画チームに所属し、エンゲージメント向上施策やDE&I推進、研修開発、人事制度運用等を担当。

コトラでは、有価証券報告書・統合報告書における人的資本開示、ISO30414、人事組織コンサル等に従事。ISO30414リードコンサルタント資格/日本ディープラーニング協会G検定保有者。


大西裕也
リサーチャー兼コンサルタント

神戸大学大学院経済学研究科卒。教育経済学を専攻。

コトラでは、ISO30414認証取得支援及び人的資本開示動向のリサーチ、人事データ分析・レポート作成等に従事。
DX推進パスポート(G検定、データサイエンティスト検定、ITパスポート)、一種外務員資格取得者。


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