そのエンゲージメント施策、経営の「ど真ん中」で語られていますか?
「従業員エンゲージメントの重要性は理解しているが、経営会議では常に後回しにされてしまう」
「施策の投資対効果を問われても、明確に説明できない」
人事や経営企画の責任者の皆様にとって、これは切実な課題ではないでしょうか。従業員エンゲージメント向上施策が、コストセンターである人事部門の管轄する「閉じた取り組み」として認識されている限り、経営の優先順位が上がらないのは当然かもしれません。
今、求められているのは、従業員エンゲージメントを「経営戦略そのもの」として捉え直し、企業価値向上にどう貢献するのかを明確なロジックで示すことです。本コラムでは、人的資本経営の視点から、エンゲージメントを経営アジェンダの中心に据えるための思考法を解説します。
なぜ今、投資家は「従業員エンゲージメント」に注目するのか
近年、ESG投資の拡大に伴い、投資家は企業の非財務情報をこれまで以上に重視するようになっています。その中でも「人的資本」に関する情報は、企業の持続的な成長性を測る上で極めて重要な指標と見なされています。
では、なぜ「従業員エンゲージメント」がこれほど注目されるのでしょうか。それは、エンゲージメントが企業価値を創造する様々な要素の「先行指標」として機能すると考えられているからです。
- 生産性の向上:エンゲージメントの高い従業員は、自らの業務に誇りと責任感を持ち、主体的に工夫改善を行う傾向があります。これが組織全体の生産性向上に繋がります。
- イノベーションの創出:心理的安全性が確保され、会社への貢献意欲が高い組織では、従業員が失敗を恐れずに新しいアイデアを提案し、挑戦する文化が育まれます。これがイノベーションの源泉となります。
- 顧客満足度の向上:エンゲージメントの高い従業員は、自社の製品やサービスに愛情を持っており、それが顧客への丁寧で質の高い対応に反映され、顧客満足度やリピート率の向上に貢献します。
- 優秀な人材の獲得と定着:従業員がいきいきと働く企業は、社外からも魅力的に映り、採用競争において優位に立てます。また、離職率の低下は、採用・育成コストの削減に直結します。
これらの要素は、最終的に企業の収益性やキャッシュフロー、ひいては株価といった財務指標に反映されます。つまり、従業員エンゲージメントへの投資は、将来の企業価値を創造するための戦略的な一手なのです。この論理を、統合報告書や人的資本レポートなどを通じて、投資家をはじめとするステークホルダーに明確に開示していくことが、これからの企業経営には不可欠です。
エンゲージメントを経営目標に組み込むための実践ステップ
従業員エンゲージメントを経営戦略に統合するためには、具体的な目標設定と、戦略との連動性が不可欠です。ここでは、そのための実践的なステップを提示します。
1. 経営戦略とエンゲージメントの繋がりを可視化する
まず、自社の中期経営計画や事業戦略を達成するために、「どのような人材が、どのような状態で働くことが理想か」を定義します。
(例)
- 経営戦略:DXを推進し、新規事業を創出する。
- 理想の人材・組織像:デジタルスキルを持つ人材が、部門の壁を越えて協働し、自律的に新しい挑戦をしている状態。
- 連動するエンゲージメント要素:「挑戦できる風土」「成長実感」「部門間の連携」
このように、経営戦略とエンゲージメントの構成要素を紐づけることで、エンゲージメント向上が「経営目標達成のための手段」であることが明確になります。
2. KGI/KPIを設定し、進捗をモニタリングする
可視化した繋がりをもとに、具体的な目標を設定します。
- KGI:経営戦略の達成度(例:新規事業売上比率)
- KPI:エンゲージメントサーベイにおける関連項目のスコア(例:「挑戦を推奨する風土」のスコアを+10%向上させる)
これらのKPIを経営会議で定期的にモニタリングし、進捗について議論する体制を構築します。これにより、従業員エンゲージメントは人事マターから経営マターへと昇華します。コトラでは、こうした要員計画の策定や、人的資本開示の高度化支援を通じて、戦略と人事の一体化をサポートしています。
エンゲージメントは、未来の企業価値を映す鏡
従業員エンゲージメントは、もはや単なる「従業員満足度」ではありません。それは、企業の未来の成長可能性を映し出す鏡であり、経営戦略の成否を左右する重要なドライバーです。
エンゲージメント向上を経営のど真ん中に据え、その取り組みと成果を社内外に力強く発信していくこと。この姿勢こそが、不確実な時代を勝ち抜くための競争優位の源泉となると考えられます。
株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。経営戦略と連動したエンゲージメント向上策の立案や、投資家目線を踏まえた人的資本開示の高度化など、より具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。