採用力を強化する「人的資本レポート」の戦略的活用術

なぜ、優秀な人材は当社を選んでくれないのだろうか?

激化する採用競争の中で、多くの経営者や人事担当者の方々が、このような切実な悩みを抱えています。魅力的な給与や福利厚生を提示しているはずなのに、内定を辞退されてしまう。あるいは、そもそも求めるレベルの人材からの応募が集まらない。こうした状況は、なぜ起こるのでしょうか。

その背景には、候補者、特に優秀な人材の価値観の大きな変化があると考えられます。彼ら彼女らは、もはや目先の条件だけで企業を選びません。「この会社で自分は成長できるのか」「この企業のパーパスに共感できるか」「いきいきと働ける文化があるか」。こうした、より本質的な問いへの答えを、企業のあらゆる情報から探ろうとしています。

この変化に対し、多くの企業がまだ有効な打ち手を見出せていない中、実は「人的資本レポート」が極めて強力なコミュニケーションツールになり得ることは、あまり知られていません。本コラムでは、人的資本レポートを採用成功に繋げるための、戦略的な考え方と実践のポイントを解説します。

なぜ「人的資本レポート」が採用に効くのか?

候補者は、企業の採用サイトや求人票の美辞麗句を、そのまま鵜呑みにすることはありません。彼らが求めているのは、その言葉を裏付ける客観的な「証拠」です。人的資本レポートは、まさにその証拠を提示する、信頼性の高い情報源となり得ます。

候補者の「知りたいこと」にデータで答える

現代の候補者が企業選びで重視するポイントは、主に以下の3つに集約される傾向があります。

  1. 成長機会:自分自身の市場価値を高められる環境か。
  2. 企業文化:自分らしく、尊重されながら働ける場所か。
  3. 働きがいとウェルビーイング:心身ともに健康で、意欲を持って働けるか。

人的資本レポートは、これらの疑問に対して、具体的なデータを用いて雄弁に語ることができます。

  • 成長機会
    「研修時間」「社内公募での異動実績」「次世代リーダー候補者の育成人数」といったデータは、企業が従業員の成長にどれだけ本気で投資しているかを示す動かぬ証拠です。
  • 企業文化
    「エンゲージメントスコア」「従業員のダイバーシティ」「従業員の平均勤続年数」などは、組織の風通しの良さや文化を客観的に映し出します。
  • 働きがいとウェルビーイング
    「育児休業取得率・復職率」「平均残業時間」「有給休暇取得率」といったデータは、従業員のウェルビーイングを大切にする姿勢を示します。

採用パンフレットで「成長できる環境です」と謳うよりも、具体的なデータを示した方が、候補者の心に遥かに強く響くことは想像に難くないでしょう。

コトラが考える「採用における人的資本レポートの真価」

私たちコトラは、人的資本レポートが、候補者に対して「この会社で働くことで、どのような素晴らしい経験や成長が得られるのか」を具体的に示す、最も説得力のあるメッセージになると考えています。

事実、弊社コトラでも、自社独自のフレームワークに基づいた人的資本レポートである『People Fact Book』を発行しており、採用活動においてその効果を実感しています。この『People Fact Book』がきっかけで入社した社員も多く在籍しており、彼らからは「入社後の就業イメージが把握できたとともに、従業員として大切に育てていただけそうと感じた」といった声が寄せられています。このように、レポートは候補者に安心感を与え、入社への意欲を高める効果が期待できます。

さらに重要なのは、レポートが入社後のミスマッチを防ぐ効果を持つことです。企業の「良い面」も「これからの課題」も誠実に開示することで、候補者はその企業で働くことのリアルなイメージを持つことができます。これにより、自社の価値観や文化に本当にフィットする人材を惹きつけ、早期離職のリスクを低減させることが期待できるのです。

採用ブランディングを意識したレポート作成の3つのポイント

では、候補者の心に響き、採用ブランディングに繋がる人的資本レポートは、どのように作成すれば良いのでしょうか。実際にレポートを読んで入社した弊社社員の声も交えながら、3つのポイントに絞って解説します。

ポイント1:「未来の仲間」を読者として明確に意識する

人的資本レポートは投資家だけのものではありません。採用候補者も重要な読者であると意識し、専門用語の多用を避け、平易で分かりやすい言葉で語りかけることが重要です。

弊社社員からも「社員の方々の写真等も載っていたり、会社の雰囲気が分かる項目があって良かった」という声が寄せられています。データが示す事実の裏側にある、こうした定性的な情報は、候補者に強い共感と入社後のリアルなイメージを促すのです。

ポイント2:「成長のストーリー」をデータで具体的に示す

「研修制度が充実しています」という説明だけでは不十分です。キャリアパスと連動した「成長のストーリー」をデータで示すことができれば、候補者は自身の未来を具体的にイメージできます。

実際に弊社社員からも「求める人材、処遇、入社後の研修情報等が数値データで確認することができた」「目指すポジションと自身の現状を客観的に見ることができた」といった声があり、キャリアプランを真剣に考える候補者ほど、こうした具体的な情報を重視する傾向があると言えます。

ポイント3:「ありのままの姿」を誠実に伝える勇気を持つ

完璧な企業など存在しません。レポートの中で、自社の強みだけでなく、現在抱えている課題についても触れ、それに対してどのような改善策を講じているかを誠実に説明しましょう。この透明性の高い姿勢は、候補者からの信頼を勝ち取る上で極めて有効です。

弊社『People Fact Book』を読んで入社した社員からも「各方面の事業について数字で可視化しており、透明性の高い経営をしている印象をもった」「良いこともそうでないことも網羅的に記載があり、良い判断材料になりました」という声が寄せられており、誠実な情報開示がいかに候補者の意思決定にポジティブな影響を与えるかが分かります。

採用力の源泉となる、戦略的コミュニケーション

採用競争の本質は、条件の競争から「価値観の共感」の競争へとシフトしています。この新しい競争の時代において、人的資本レポートは、自社がどのような価値観を大切にし、従業員とどのような未来を築こうとしているのかを伝える、最も誠実で強力なコミュニケーションツールとなり得ます。

レポートの作成を通じて自社の人的資本に関する取り組みを言語化し、社内外に発信していくこと。そのプロセス自体が、貴社の採用力を、そして企業そのものを強くしていくと私たちは確信しています。

株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。採用ブランディングに繋がる価値観分析や、候補者に響く情報開示の戦略策定など、より具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

kotora

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コトラ(人的資本チーム)

経営戦略に連動した「動的な人材ポートフォリオ」の構築から、「採用」「育成」といった人材マネジメントの実践まで、人的資本経営を一気通貫で支援しています。

コンサルタント紹介

杉江 幸一郎
ディレクター ISO30414リードコンサルタント

東京大学経済学部経営学科卒。大手メーカー、通信事業者、IT企業など上場事業会社にて経営企画、事業戦略、新規事業立ち上げ等の責任者を歴任。上場企業取締役、CISO および ISO事務局等も担当。

コトラでは、ISO30414を始めとした人的資本経営のコンサルティングに従事。ISO30414リードコンサルタント。ESG情報開示研究会、人的資本経営コンソーシアム、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会員。

X(旧Twitter):@Kotora_cnsl


蘇木 亮太
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

同志社大学法学部卒。大手教育系企業でのコンサルタント経験を経て、金融系スタートアップに入社。 組織・人事企画チームに所属し、エンゲージメント向上施策やDE&I推進、研修開発、人事制度運用等を担当。

コトラでは、有価証券報告書・統合報告書における人的資本開示、ISO30414、人事組織コンサル等に従事。ISO30414リードコンサルタント資格/日本ディープラーニング協会G検定保有者。


大西裕也
リサーチャー兼コンサルタント

コトラでは、ISO30414認証取得支援及び人的資本開示動向のリサーチ、人事データ分析・レポート作成等に従事。

DX推進パスポート(G検定、データサイエンティスト検定、ITパスポート)、一種外務員資格取得者。


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