複線型等級制度の設計思想:専門職の価値を活かす実践アプローチ

貴社の等級制度は、専門職のキャリアを正しく導いていますか?

「優秀なエンジニアが、管理職になりたがらない」
「高度な専門知識を持つ人材の市場価値と、社内での処遇にギャップがある」
「マネジメントコース以外のキャリアパスが描けず、専門スキルを持つ社員が離職してしまう」

こうした悩みは、事業の高度化・複雑化に伴い、多くの企業が直面する喫緊の課題です。従来の「管理職になること」が成功モデルであった単線的な等級制度では、高度な専門性を武器に事業へ貢献する「プロフェッショナル人材」の価値を正しく評価し、そのキャリア形成を支援することが極めて困難になっています。

本コラムでは、これからの企業成長の鍵を握る専門職人材を惹きつけ、その能力を最大限に引き出すための「複線型等級制度」という考え方に焦点を当て、その設計思想と導入に向けた具体的なアプローチを紐解いていきます。

なぜ今、複線型等級制度が求められるのか

複線型等級制度とは、従来の管理職を目指す「マネジメントコース」に加え、専門性を深めることで組織に貢献する「プロフェッショナルコース(専門職コース)」など、複数のキャリアの道筋を用意する等級制度のことを指します。この制度が今、強く求められる背景には、事業環境と働き方の大きな変化があります。

キャリア観の多様化と事業環境の変化

もはや、全ての社員が管理職を目指す時代ではありません。社員がキャリアに求めるものは多様化し、目指す姿も一人ひとり異なっています。

  • 専門性志向
    自らの専門性を深め、その道のプロとして組織に貢献し続けたい。
  • 業務内容の志向
    部下のマネジメントや組織運営よりも、プレイヤーとして現場の第一線で価値を出し続けたい。
  • 働き方の志向
    ワークライフバランスを重視し、管理職の重責よりも自律的な働き方を重視したい。

こうしたキャリア観の多様化は、単なる個人の志向の変化だけではなく、事業環境の変化とも密接に関連していると考えられます。DXの加速やグローバル化に伴い、事業の専門性はますます高度化しています。その結果、特定の領域で深い知見を持つ専門人材の市場価値が高まり、社内での重要性も増しています。

このような背景が、社員にとって専門性を磨くキャリアの魅力を高め、企業にとってもそうした人材を惹きつける必要性を生んでいると言えるでしょう。

スキルベースの価値評価への移行

事業の成否が、AI開発、データサイエンス、創薬研究といった特定の技術や専門知識に大きく依存するケースが増加しています。こうした領域では、一人の高度専門人材の貢献が、事業全体の業績を左右することさえあります。しかし、従来の年功や曖昧な「能力」をベースとした等級制度では、こうした専門性の価値を正しく評価することが困難になっています。

  • 市場価値との乖離
    特定のスキルの市場価値が急騰しても、社内の等級や給与がそれに追いつかず、優秀な人材がより良い条件を求めて外部へ流出するリスクが高まります。
  • 貢献度の可視化の難しさ
    役職は低くても、その専門性によって事業に多大な貢献をしている人材がいます。従来の序列ベースの制度では、こうした「役職以上の貢献」を適切に処遇に反映させることが困難です。
  • スキルの陳腐化と獲得のスピード
    新しい技術が次々と生まれる現代では、スキルの陳腐化もこれまで以上に急速に進んでいきます。勤続年数と能力の向上が必ずしも比例しないため、常に新しいスキルを学び続ける人材を評価する仕組みが求められます。

専門性の価値を正しく測る「スキル」という物差し

このような状況において、私たちコトラが着目するのは「スキルベース型人事制度」への移行の重要性です。これは、社員が「何をできるか(スキル)」を客観的に可視化し、そのスキルを等級制度や報酬制度の根幹に据える考え方です。

従来の職能資格制度が年功序列に陥りやすいのに対し、スキルベースのアプローチは、個人の持つ専門性の価値をダイレクトに評価することを可能にします。複線型等級制度は、このスキルベースの評価を実現するための受け皿として、非常に有効に機能すると考えられます。

専門職が輝く複線型等級制度の設計と運用のポイント

複線型等級制度の導入を成功させるためには、単にコースを分けるだけでなく、その運用を支える仕組みを丁寧に設計することが不可欠です。

ポイント1:各コースの「役割」と「貢献」の明確化

まず、マネジメントコースとプロフェッショナルコース、それぞれの等級制度において、各等級で期待される役割や貢献を明確に定義することが重要です。

  • マネジメントコース
    組織の成果最大化、部下の育成、部門間の連携など、「組織マネジメント」を通じた貢献が中心。
  • プロフェッショナルコース
    高度な専門知識・スキルの発揮、イノベーションの創出、後進の技術指導など、「専門性」を基軸とした貢献が中心。

重要なのは、両者の等級が同等に価値あるものとして位置づけられることです。例えば、「部長」と「主席研究員」が同等の等級・処遇となるような設計を行い、「専門職は管理職より下」という誤った認識を払拭する必要があります。

ポイント2:スキル評価の仕組みの構築

プロフェッショナルコースの等級制度を機能させる上で、その根幹となるのが「スキルの定義と評価」です。

  1. スキルタクソノミーの作成
    事業戦略上、重要となる専門領域を特定し、それぞれの領域で求められるスキルをレベル別に体系化したスキルタクソノミーを作成します。
  2. 客観的な評価尺度の設定
    各スキルレベルを客観的に判断するための認定制度(社内資格、外部資格の取得など)を設けます。これにより、評価の属人性を排除し、公平性を担保します。
  3. スキルと報酬の連動
    市場価値の高い希少なスキルや、企業の競争優位性に直結するスキルに対しては、手当などで積極的に報いる仕組みも有効です。

ポイント3:柔軟なコース転換とキャリア自律の支援

一度コースを選択したら変更できない、といった硬直的な運用は避けるべきです。本人の希望や適性に応じて、コース間を柔軟に行き来できる仕組みを設けることが望ましいでしょう。

また、社員が自らのキャリアを主体的に考える機会を提供することも重要です。

  • キャリア面談の定期的な実施
    上司との1on1などを通じて、中長期的なキャリアプランについて話し合う機会を設ける。
  • 社内公募制度の活性化
    多様な職務経験を積む機会を提供し、社員が自身の新たな可能性を発見することを支援する。

このような取り組みを通じて、社員のキャリア自律を促し、等級制度を「与えられるもの」から「主体的に活用するもの」へと変えていくことが求められます。

多様な才能を活かす等級制度が、企業の競争力を築く

企業の持続的な成長は、多様な人材がそれぞれの持ち場で最大限に能力を発揮することによって実現されます。専門職の価値を正しく認め、彼らが誇りを持って働き続けられるキャリアパスを用意することは、もはや一部の先進企業の取り組みではなく、全ての企業にとっての経営課題と言えるでしょう。

複線型等級制度の導入は、単なる人事制度の改定に留まらず、組織の多様性を尊重し、一人ひとりの専門性を企業の力に変えていくという、経営の強い意志表示でもあります。

株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の事業戦略に合致した「スキルベース型人事制度」や複線型等級制度の導入を支援します。より具体的な専門職の評価・育成体系に関するご相談は、お気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

kotora

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コトラ(人的資本チーム)

経営戦略に連動した「動的な人材ポートフォリオ」の構築から、「採用」「育成」といった人材マネジメントの実践まで、人的資本経営を一気通貫で支援しています。

コンサルタント紹介

杉江 幸一郎
ディレクター ISO30414リードコンサルタント

東京大学経済学部経営学科卒。大手メーカー、通信事業者、IT企業など上場事業会社にて経営企画、事業戦略、新規事業立ち上げ等の責任者を歴任。上場企業取締役、CISO および ISO事務局等も担当。

コトラでは、ISO30414を始めとした人的資本経営のコンサルティングに従事。ISO30414リードコンサルタント。ESG情報開示研究会、人的資本経営コンソーシアム、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会員。

X(旧Twitter):@Kotora_cnsl


蘇木 亮太
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

同志社大学法学部卒。大手教育系企業でのコンサルタント経験を経て、金融系スタートアップに入社。 組織・人事企画チームに所属し、エンゲージメント向上施策やDE&I推進、研修開発、人事制度運用等を担当。

コトラでは、有価証券報告書・統合報告書における人的資本開示、ISO30414、人事組織コンサル等に従事。ISO30414リードコンサルタント資格/日本ディープラーニング協会G検定保有者。


大西 裕也
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

神戸大学大学院経済学研究科卒。教育経済学を専攻。

コトラでは、ISO30414認証取得支援及び人的資本開示動向のリサーチ、人事データ分析・レポート作成等に従事。

DX推進パスポート(G検定、データサイエンティスト検定、ITパスポート)、一種外務員資格取得者。


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