「エンゲージメントは高いのに、eNPSが低い」という危険なシグナル
「エンゲージメントサーベイの結果に基づき、1on1の活性化やチームビルディングに力を入れてきた。従業員の仕事への熱意は高まっているはずなのに、従業員推奨度(eNPS)のスコアは依然として低いままだ」
これは、多くの人事責任者が直面する深刻なジレンマです。エンゲージメント、すなわち「仕事への熱意や貢献意欲」を高める努力をしているにもかかわらず、eNPSという「職場としての総合的な推奨度」が向上しない。このギャップは、組織が抱えるより根深い問題の現れであり、放置すれば優秀な人材の離職に繋がりかねない危険なシグナルと言えるでしょう。
低いeNPSという結果を前に、「まだエンゲージメント施策が足りないのか」と考えるのは早計かもしれません。真の原因は、エンゲージメントとは別の次元に潜んでいる可能性があるのです。
eNPSがなぜ低いのか?~エンゲージメントとの比較~
eNPSが低迷する真因を特定するためには、「eNPSの低さ ≠ エンゲージメントの低さ」という視点を持ち、両者を比較分析することが極めて有効です。
原因の切り分け1:エンゲージメント自体に課題があるケース
これは、仕事そのものへのやりがい、上司や同僚との関係性、成長実感といった、従業員の「内面的な活力」が低下している状態です。この場合、エンゲージメントスコアもeNPSも、同様に低い傾向を示すと考えられます。課題の特定は比較的容易であり、マネジメント改善やキャリア支援、コミュニケーション活性化といった、従来のエンゲージメント向上施策が有効に機能する可能性が高いでしょう。
原因の切り分け2:エンゲージメントは高いが、それを阻害する要因が存在するケース
これが、冒頭で述べた「危険なシグナル」です。従業員は仕事に熱意を持って取り組んでいる。しかし、そのポジティブな感情を打ち消してしまうほどの「不満要因」が存在するため、最終的な推奨度であるeNPSが低くなっている状態です。 考えられる阻害要因には、以下のようなものが挙げられます。
- 公正さを欠く報酬・評価制度:頑張りが報われないと感じる。
- 過度な労働時間や劣悪な労働環境:仕事は好きだが、心身が持たない。
- 会社の将来性や経営方針への不安:自分の仕事は好きだが、この会社に未来はないと感じる。
- キャリアパスの不透明性:今の仕事は楽しいが、この先どうなるか分からない。
これらの課題は、日々の仕事のやりがいとは別の次元にあり、エンゲージメントサーベイの詳細項目だけでは見落とされがちです。eNPSのフリーコメントを分析する際に、「エンゲージメント(仕事内容や人間関係)に関する言及」と「制度や環境に関する言及」を意識的に分けて読み解くことで、真因が見えやすくなります。
コトラは、組織サーベイの設計・分析において、この「エンゲージメント」と「eNPS」のドライバー(影響要因)の違いを明確に意識します。これにより、表層的なエンゲージメント施策に留まらない、構造的な課題解決をご支援します。
的を射た改善は、的確な原因分析から生まれる
原因の切り分けができれば、打つべき手は自ずと明確になります。
エンゲージメント課題の場合のアクションプラン:現場主導のプロセス改善
課題の主体が現場のマネジメントやコミュニケーションにある場合、改善の主役も現場であるべきです。各部署でサーベイ結果のフィードバックセッションを行い、チームで対話しながら改善アクションプランを立て、実行していくアプローチが有効です。人事はそのプロセスをファシリテートする役割を担います。
阻害要因の課題の場合のアクションプラン:経営・人事主導の制度改革
課題の根源が報酬制度や労働環境といった全社的な仕組みにある場合、現場の努力だけでは解決できません。これは経営マターとして捉え、人事部門が中心となって制度改革や労働環境の改善プロジェクトを主導する必要があります。なぜ改革が必要なのか、経営トップから従業員へ真摯なメッセージを発信することも不可欠です。
eNPSは、エンゲージメントだけでは語れない従業員の「本音」の表れ
低いeNPSは、組織の複合的な課題が凝縮された結果です。その原因を「エンゲージメント不足」と安易に結論づけてしまうと、本質的な問題を見過ごし、効果のない施策にリソースを費やし続けることになりかねません。
エンゲージメントというレンズと、eNPSというレンズ。この二つの視点を使い分けることで初めて、従業員が本当に伝えたい「本音」を正しく受け止め、的確な一歩を踏み出すことができるのです。
株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。エンゲージメントとeNPSの複合的な分析を通じた組織課題の特定など、より具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。