エンゲージメントは高いはずなのに、離職者が減らないのはなぜ?
「従業員エンゲージメントサーベイの結果は良好だ。しかし、現場の活気はいまひとつ感じられない」
「エンゲージメント向上施策は打っているが、本当に効果があるのか疑問だ。従業員推奨度(eNPS)も測定すべきだろうか?」
こうした疑問や課題は、多くの経営者や人事責任者の皆様が抱えるものではないでしょうか。人的資本経営の重要性が叫ばれる中、「エンゲージメント」は組織の状態を測る上で欠かせない概念となりました。しかし、その定義は多岐にわたり、しばしば「eNPS」と混同されることで、打ち手の精度を下げてしまうケースが見受けられます。
エンゲージメントスコアの高さが、必ずしも従業員の総合的な満足や定着に結びつかないという矛盾。その背景には、これら二つの指標が持つ本質的な意味合いの違いが存在します。
「エンゲージメント」と「eNPS」の本質的な違いとは
エンゲージメントとeNPSは密接に関連しますが、測定している対象が異なります。この違いを理解することが、効果的な組織改善の第一歩です。
エンゲージメント:仕事への「熱意」や「貢献意欲」を測る指標
エンゲージメントとは、一般的に「従業員が仕事に対して抱く、ポジティブで充実した心理状態」を指します。「熱意」「没頭」「活力」といった要素で構成され、従業員の組織への貢献意欲や、仕事そのものへのポジティブな関与度合いを測るものです。
つまり、エンゲージメントは従業員の「内面的な状態」や、パフォーマンスを発揮するための「プロセス」に着目した指標と言えるでしょう。
eNPS:組織に対する「総合的な評価」や「推奨行動」を測る指標
一方、eNPSは「親しい友人や知人に、あなたの職場をどの程度勧めたいですか?」というシンプルな問いに対する回答から算出されます。これは、従業員が給与、福利厚生、人間関係、キャリアパス、企業文化といった様々な要素を総合的に判断した上での「最終的な評価」であり、推奨という「未来の行動」を示すアウトプット指標です。
両者の関係を整理すると、多くの場合、「高いエンゲージメントは、高いeNPSに繋がる要因の一つ」と考えられます。しかし、その逆、すなわち「eNPSが高ければ、エンゲージメントも高い」は必ずしも真ではありません。例えば、職場環境や待遇には満足していてeNPSが高くても、「仕事そのものへの熱意ややりがい」すなわちエンゲージメントは低い、というケースが存在するのです。 これは、組織の活力を静かに蝕む「ぶら下がり」のリスクを示唆している可能性があります。
コトラでは、単に両指標を測定するだけでなく、組織サーベイを通じて「自社の従業員にとって、何がエンゲージメントを高め、それがどのようにeNPSに結びつくのか」という関係を分析することが重要だと考えています。この分析を通じて初めて、自社に最適化された打ち手を見出すことが可能になります。
診断ツールとしての「エンゲージメント」、KPIとしての「eNPS」
では、この二つの指標を、日々の経営や組織改善にどう活かしていけばよいのでしょうか。私たちコトラは、それぞれの特性に応じて戦略的に使い分けることを推奨しています。
1. 多角的な「健康診断」としてのエンゲージメントサーベイ
エンゲージメントサーベイは、数十問の設問から構成されることが多く、「上司との関係」「同僚との協力体制」「成長機会」「理念への共感」など、組織の状態を多角的に分析することができます。これは、組織のどこに課題があるのかを特定するための、詳細な「健康診断」や「人間ドック」に例えられます。年に1〜2回実施し、結果を深く分析することで、具体的な改善施策の立案に繋げます。
2. 定点観測を行う「体温計」としてのeNPS
eNPSは、設問がシンプルなため、従業員の負担も少なく、高頻度で測定できるのが特徴です。組織改善の取り組みが、従業員の総合的な評価にどう影響しているかを測る「体温計」のような役割を果たします。四半期に一度といったペースでパルスサーベイとして実施し、組織全体のコンディションを定点観測するKPI(重要業績評価指標)として活用することが有効です。
3. 両者のギャップ分析から、真の課題をあぶり出す
最も重要なのは、両者の結果を組み合わせて分析することです。「エンゲージメントは高いが、eNPSは低い」という従業員群がいるならば、彼らはやりがいを搾取されていると感じている「不満を抱えた功労者」かもしれません。彼らが離職すれば、組織にとって大きな損失です。
逆に「エンゲージメントは低いが、eNPSは高い」層は、現状の安定した環境には満足しているものの、成長意欲が低い「ぶら下がり社員」の可能性があります。こうしたギャップに着目することで、より的確な人材マネジメントが可能になります。
指標の正しい理解が、人的資本経営を成功に導く
エンゲージメントとeNPSは、どちらが優れているというものではなく、相互に補完し合う関係にあります。エンゲージメントという「プロセス」を多角的に改善していくことで、最終的な「アウトプット」であるeNPSが高まり、それが企業価値の向上へと繋がっていく。この大きなストーリーを描き、二つの指標を羅針盤として戦略的に活用することこそ、これからの人的資本経営に求められる姿ではないでしょうか。
株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。エンゲージメントサーベイの設計・分析から、eNPSを活用した組織改善の実行まで、より具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。