人的資本開示時代を勝ち抜く、次世代の採用ブランディング

人的資本開示が変える、新たな採用戦略の幕開け

「人的資本情報の開示」が、企業の経営アジェンダとして急速に重要性を増しています。有価証券報告書での記載義務化を皮切りに、企業は自社の人材戦略や育成方針、職場環境に関する情報を、これまで以上に具体的かつ定量的に社外へ説明する責任を負うことになりました。

この変化は、IRや経営企画部門だけの課題ではありません。実は、「採用ブランディング」のあり方そのものに、大きな変革を迫るものなのです。これからの採用ブランディングは、候補者だけでなく、投資家や株主といった新たなステークホルダーの厳しい視線をも意識した、より戦略的な活動へと進化させていく必要があります。

なぜ、人的資本開示が採用ブランディングに関わるのか

従来、採用ブランディングの主な目的は、優秀な「候補者」を獲得することにありました。しかし、人的資本開示の時代においては、その対象が大きく広がります。

投資家は今、企業の持続的な成長可能性を判断する上で、財務情報だけでなく、その源泉となる「人的資本」に強い関心を寄せています。具体的には、「企業がどのような人材戦略を持ち、どのように優秀な人材を惹きつけ、育成し、定着させているか」という一連のストーリーを、客観的なデータと共に求めているのです。

ここで、採用ブランディングが重要な役割を果たします。なぜなら、採用ブランディング活動を通じて発信される情報は、まさに「自社がどのように人材を惹きつけているか」を示す、動かぬ証拠となるからです。例えば、

  • 明確なEVP(従業員価値提案)に基づいたメッセージング
  • 戦略的な人材ポートフォリオの構築に向けた採用活動
  • ダイバーシティ&インクルージョンを推進する採用方針
  • 入社後の活躍・定着を見据えたプログラムの存在

これらは全て、人的資本の充実度を示す重要な指標であり、投資家に対する説得力のあるアピール材料となり得ます。つまり、現代の採用ブランディングは、候補者への求愛活動であると同時に、企業価値をステークホルダーに示すIR活動の一環という側面を併せ持つようになった、と考えることができます。

人的資本開示と連携する、採用ブランディングの実践ポイント

では、人的資本開示の視点を取り入れた採用ブランディングを、どのように実践していけばよいのでしょうか。ここでは3つの重要なポイントを挙げます。

「開示項目」を意識した情報発信の戦略化

まずは、自社が統合報告書や人的資本レポートで開示している、あるいは今後開示を目指す項目と、採用ブランディングで発信するコンテンツを戦略的に連携させることが重要です。

  • 「多様性の確保」を開示項目として掲げている場合
    • 採用サイトやオウンドメディアで、多様なバックグラウンドを持つ社員が活躍する様子を具体的に紹介する。
  • 「従業員エンゲージメント」の向上をアピールしたい場合
    • 採用プロセスにおいて候補者体験をいかに重視し、入社後のオンボーディングに力を入れているかを発信する。

このように、開示情報と採用コンテンツを紐づけることで、発信するメッセージに一貫性と信頼性が生まれます。採用ブランディングが、単なるイメージ戦略ではなく、データに裏付けられたファクトとして投資家に認識されるようになるでしょう。

定量データと定性ストーリーの融合

投資家が求めるのは、客観的な「定量データ」です。しかし、データだけでは企業の本当の魅力は伝わりません。そのデータが持つ意味や背景を、共感を呼ぶ「定性的なストーリー」として語ることが、採用ブランディングの真骨頂です。

  • 「女性管理職比率〇%」というデータを示すだけでなく、実際に活躍する女性管理職がどのようなキャリアを歩み、どのような想いで仕事に取り組んでいるのかをインタビュー記事にする。
  • 「研修費用〇〇円」という数字と共に、その投資によって社員がどのようなスキルを身につけ、事業に貢献したのかという具体的な成功事例を紹介する。

このように、ファクト(事実)とストーリー(物語)を織り交ぜて発信することで、情報の説득力と魅力は飛躍的に高まり、候補者と投資家の双方の心を動かすことが可能になります。

採用から育成、定着までの一貫した物語

人的資本経営のポイントは、「採用」「育成」「評価」「定着」といった人事施策が、バラバラに存在するのではなく、経営戦略と連動した一貫したシステムとして機能していることです。

採用ブランディングにおいても、この一貫性を伝える視点が不可欠です。

  1. 私たちは、このような価値観に共感する人材を求めています(採用
  2. 入社後は、このような研修やキャリアパスを通じて成長を支援します(育成
  3. その結果、多くの社員が生き生きと働き、高いエンゲージメントを維持しています(定着

この一連の物語を通じて、自社がいかにして人的資本の価値を最大化しようとしているのかを提示します。これは、企業の持続可能性をアピールする上で、極めて強力なメッセージとなるでしょう。

採用活動を、企業価値創造の最前線へと押し上げる

人的資本開示の潮流は、採用ブランディングを、単なる人事部門の活動から、全社的な企業価値創造活動へと昇華させる大きな機会です。候補者から選ばれ、同時に投資家からも評価される企業となるためには、これまでの採用活動の枠組みを超えた、新たな視点と戦略が求められます。

自社の人材戦略を、説得力のあるデータと共感を呼ぶストーリーで社外に発信していくこと。その営みこそが、これからの採用ブランディングの核心であり、企業の未来を左右する重要な鍵となるのではないでしょうか。

株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。人的資本開示の高度化を見据えた、戦略的な採用ブランディングの構築について、より具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

kotora

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コトラ(人的資本チーム)

経営戦略に連動した「動的な人材ポートフォリオ」の構築から、「採用」「育成」といった人材マネジメントの実践まで、人的資本経営を一気通貫で支援しています。

コンサルタント紹介

杉江 幸一郎
ディレクター ISO30414リードコンサルタント

東京大学経済学部経営学科卒。大手メーカー、通信事業者、IT企業など上場事業会社にて経営企画、事業戦略、新規事業立ち上げ等の責任者を歴任。上場企業取締役、CISO および ISO事務局等も担当。

コトラでは、ISO30414を始めとした人的資本経営のコンサルティングに従事。ISO30414リードコンサルタント。ESG情報開示研究会、人的資本経営コンソーシアム、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会員。

X(旧Twitter):@Kotora_cnsl


蘇木 亮太
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

同志社大学法学部卒。大手教育系企業でのコンサルタント経験を経て、金融系スタートアップに入社。 組織・人事企画チームに所属し、エンゲージメント向上施策やDE&I推進、研修開発、人事制度運用等を担当。

コトラでは、有価証券報告書・統合報告書における人的資本開示、ISO30414、人事組織コンサル等に従事。ISO30414リードコンサルタント資格/日本ディープラーニング協会G検定保有者。


大西裕也
リサーチャー兼コンサルタント

コトラでは、ISO30414認証取得支援及び人的資本開示動向のリサーチ、人事データ分析・レポート作成等に従事。

DX推進パスポート(G検定、データサイエンティスト検定、ITパスポート)、一種外務員資格取得者。


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