採用ブランディング成功の鍵 「EVP」設計の3ステップ

そのメッセージ、候補者に本当に届いていますか?

「他社との差別化ができない」
「自社の魅力が候補者にうまく伝わらない」

採用ブランディングに取り組む中で、こうした壁に直面しているご担当者様は少なくないでしょう。魅力的な採用サイトを作り、SNSで積極的に発信しても、今ひとつ手応えがない。

その根本的な原因は、発信するメッセージの「核」が定まっていないことにあるのかもしれません。その核こそが、「EVP(Employee Value Proposition:従業員価値提案)」です。本コラムでは、採用ブランディングを成功に導くための土台となる、EVPの具体的な設計プロセスを3つのステップで紐解いていきます。

EVPとは何か:採用ブランディングの羅針盤

まず、EVPとは何かを再確認しておきましょう。EVPとは、端的に言えば「企業が従業員に対して提供する独自の価値」のことです。

それは、報酬や福利厚生といった金銭的・物質的な価値だけを指すのではありません。「事業の社会的な意義」「挑戦的な仕事を通じて得られる成長機会」「共に働く仲間との良好な関係性」「尊重される組織文化」といった、非金銭的な価値も含む、総合的な魅力のパッケージです。

このEVPがなぜ重要かというと、それが採用ブランディングにおける全ての活動の「羅針盤」となるからです。EVPが明確に定義されていれば、

  • 候補者へのメッセージに一貫性が生まれる
  • 自社にマッチする人材に的確にアプローチできる
  • 入社後のミスマッチを防ぎ、定着率向上に繋がる

といった効果が期待できます。逆に、EVPが曖昧なままでは、どれだけ採用ブランディングの手法を凝らしても、その場しのぎのメッセージとなり、候補者の心に深く響くことは難しいと考えられます。

EVP設計の実践的3ステップ

それでは、自社のEVPをどのように設計すればよいのでしょうか。ここでは、多くの企業が見落としがちな客観的視点を取り入れた、実践的な3つのステップをご紹介します。

ステップ1:徹底的な内部環境分析 ― 社員の「生の声」に価値がある

EVP設計の第一歩は、外に目を向ける前に、まず自社の内側を深く知ることから始まります。経営陣や人事担当者が考える「自社の魅力」と、現場で働く社員が実際に感じている魅力には、しばしばギャップが存在します。このギャップを埋め、リアルな魅力を抽出するために、客観的なデータに基づいた分析が不可欠です。

有効な手法の一つが、匿名の組織サーベイです。全社員を対象に、自社のどのような点に満足し、何に働きがいを感じているのかを定量的に把握します。例えば、「事業の将来性」「自身の成長環境」「人間関係の良さ」「公正な評価制度」といった項目について多角的に質問することで、自社の強みと弱みが可視化されます。

さらに、定量データだけでなく、特定の社員グループへのインタビューといった定性的なアプローチも組み合わせることが重要です。特に、高いパフォーマンスを発揮しているハイパフォーマーや、自社に強い愛着を持つ社員が「なぜこの会社で働き続けるのか」を深掘りすることで、EVPの核となる感動や共感のポイントが見えてくるでしょう。

この「生の声」こそが、採用ブランディングにおける最もパワフルな資産となります。

ステップ2:外部環境分析 ― 競合と候補者の視点を獲得する

自社の魅力を客観的に把握したら、次に外部環境に目を向けます。具体的には、「競合他社」と「候補者」という2つの視点から分析を行います。

まず、競合他社がどのようなEVPを掲げ、どのような採用ブランディングを展開しているかを調査します。これにより、自社がアピールすべき独自のポジションが明確になります。他社と同じような魅力を訴求しても、埋もれてしまうだけです。競合との比較を通じて、「他社にはない、自社ならではの価値」を浮き彫りにすることが肝要です。

次に、ターゲットとなる候補者のインサイトを探ります。彼らが仕事やキャリアに何を求め、どのような情報に関心を持つのかを理解します。これは、市場調査データや、実際の選考プロセスでの候補者との対話を通じて把握することができます。自社が提供したい価値と、候補者が求める価値が重なる部分こそが、最も強く響くEVPの要素となるのです。

ステップ3:EVPの統合とストーリー化 ― 「約束」を紡ぎ出す

最後に、内部環境と外部環境の分析結果を統合し、自社のEVPを一つの「約束」として言語化します。これは、単なる魅力的な要素の羅列であってはなりません。

  • Authentic(本物であること):社員が実感している、偽りのない価値か。
  • Attractive(魅力的であること):候補者の心を引きつける価値か。
  • Unique(独自であること):競合他社と差別化できる価値か。

この3つの観点から磨き上げ、一貫性のあるストーリーとして紡ぎ出すことが重要です。「私たちは、〇〇という環境を通じて、あなたに△△という成長と経験を約束します」というように、候補者の心に響く、具体的で記憶に残るメッセージを構築します。このEVPこそが、今後の採用ブランディング活動全体の指針となります。

揺るぎない土台としてのEVPが、採用活動を成功に導く

採用ブランディングの成否は、その土台となるEVP設計にかかっていると言っても過言ではありません。手法論に走る前に、まずは自社の内なる声に耳を傾け、客観的なデータと候補者の視点を取り入れながら、自社ならではの価値を丁寧に言語化するプロセスが不可欠です。

緻密に設計されたEVPは、採用ブランディングを推進する上での強力な武器となります。それは、候補者との信頼関係を築き、入社後のエンゲージメントを高め、ひいては企業全体の成長を加速させる原動力となるでしょう。

株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。組織サーベイを用いた価値観分析など、客観的データに基づいたEVP設計のより具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

kotora

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コトラ(人的資本チーム)

経営戦略に連動した「動的な人材ポートフォリオ」の構築から、「採用」「育成」といった人材マネジメントの実践まで、人的資本経営を一気通貫で支援しています。

コンサルタント紹介

杉江 幸一郎
ディレクター ISO30414リードコンサルタント

東京大学経済学部経営学科卒。大手メーカー、通信事業者、IT企業など上場事業会社にて経営企画、事業戦略、新規事業立ち上げ等の責任者を歴任。上場企業取締役、CISO および ISO事務局等も担当。

コトラでは、ISO30414を始めとした人的資本経営のコンサルティングに従事。ISO30414リードコンサルタント。ESG情報開示研究会、人的資本経営コンソーシアム、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会員。
X(旧Twitter):@Kotora_cnsl


蘇木 亮太
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

同志社大学法学部卒。大手教育系企業でのコンサルタント経験を経て、金融系スタートアップに入社。 組織・人事企画チームに所属し、エンゲージメント向上施策やDE&I推進、研修開発、人事制度運用等を担当。

コトラでは、有価証券報告書・統合報告書における人的資本開示、ISO30414、人事組織コンサル等に従事。ISO30414リードコンサルタント資格/日本ディープラーニング協会G検定保有者。


大西裕也
リサーチャー兼コンサルタント

神戸大学大学院経済学研究科卒。教育経済学を専攻。

コトラでは、ISO30414認証取得支援及び人的資本開示動向のリサーチ、人事データ分析・レポート作成等に従事。
DX推進パスポート(G検定、データサイエンティスト検定、ITパスポート)、一種外務員資格取得者。


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