VUCA時代を乗り越える経営基盤 「ダイバーシティ経営」がもたらすリスク耐性と持続的成長

予測不能な時代に、なぜ「多様性」が強みとなるのか?

「予測不能な市場変動に、迅速に対応できない」
「従来の成功体験が通用しなくなり、新たな打ち手が見つからない」
「同質性の高い組織ゆえに、潜在的なリスクを見過ごしがちではないか」

Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取ったVUCAという言葉に象徴されるように、現代の経営環境は、かつてないほど予測が困難になっています。このような時代において、企業が存続し、成長し続けるために必要なものは何でしょうか。

その答えの一つが、変化にしなやかに対応できる強靭な組織、すなわち「レジリエンス」の獲得です。そして、その基盤となるのが「ダイバーシティ経営」です。本コラムでは、ダイバーシティ経営が、いかにして組織のリスク耐性を高め、持続的成長に繋がるというメリットをもたらすのかを解説します。

なぜ多様性が「強さ」に変わるのか?

ダイバーシティ経営がリスク耐性を高めるというメリットは、どこから生まれるのでしょうか。それは、多様な視点や経験が、組織の「視野」を広げることに起因します。

均質的な組織では、メンバーの価値観や思考パターンが似通うため、特定の情報や意見に偏りが生じやすくなります。これは平時においては効率的な意思決定を可能にするかもしれませんが、環境が大きく変化する局面では、重大なリスクを見過ごす原因となり得ます。いわゆる「グループシンク(集団浅慮)」に陥り、誤った方向に進んでしまう危険性をはらんでいるのです。

集合知によるリスクヘッジのメカニズム

これに対し、ダイバーシティ経営を推進する組織では、異なるバックグラウンドを持つ人材が多角的な視点から物事を捉えます。

例として、ある事業投資の是非を検討するケースを考えましょう。楽観的な視点を持つ者、悲観的な視点を持つ者、技術的なリスクを指摘する者、地政学的なリスクを懸念する者など、様々な角度から光が当てられます。この健全な対立や議論こそが、意思決定の質を高め、潜在的なリスクを事前に洗い出すことに繋がるのです。これは、いわば「集合知によるリスクヘッジ」と表現することができるでしょう。

このような集合知を効果的に機能させるためには、単に多様な人材を集めるだけでなく、組織内にどのような知見や価値観が分布しているのかを客観的に把握することが重要になります。

例えば、組織サーベイを用いて価値観の多様性を分析することで、これまで見過ごされていた視点やリスク感度を持つ人材を特定し、重要な意思決定の場に戦略的に配置することが可能になると考えられます。ダイバーシティ経営とは、単に人を集めることではなく、その多様性を組織の強さに変える仕組みを構築することなのです。

レジリエントな組織を構築するための3つの実践ステップ

ダイバーシティ経営を通じて、変化に強いレジリエントな組織を構築するためには、具体的なステップを踏むことが重要です。

1. 経営層自らがダイバーシティの価値を体現し、発信する

ダイバーシティ経営の推進において、トップのコミットメントは不可欠です。経営層が自ら、多様な意見に耳を傾け、自らの考えと異なる意見をも歓迎する姿勢を示すことが、全社的な文化醸成の第一歩となります。朝礼や社内報などで、ダイバーシティ経営の重要性とそのメリットについて、自らの言葉で繰り返し語りかけることが求められます。

2. 「心理的安全性」を組織の最重要指標(KGI)に据える

従業員が「こんなことを言ったら否定されるかもしれない」「異論を唱えたら評価が下がるかもしれない」と感じる組織では、多様な視点は決して活かされません。誰もが安心して意見を表明できる「心理的安全性」を、組織運営における最重要指標の一つとして設定し、定期的なサーベイなどでその度合いを計測・改善していく取り組みが有効です。

3. 失敗を許容し、学びへと変える文化を育む

VUCAの時代に新たな挑戦は不可避であり、そこには失敗がつきものです。重要なのは、失敗を個人や部門の責任として追及するのではなく、組織全体の学びの機会として捉える文化を醸成することです。挑戦した結果としての失敗を許容し、そこから得られた教訓を次に活かすサイクルを回すことで、組織はより強く、賢くなっていきます。この文化こそが、ダイバーシティ経営のメリットを最大化する土壌となります。

未来の危機を乗り越える鍵は「多様な視点」にある

本コラムでは、ダイバーシティ経営が、VUCA時代における企業のリスク耐性を高め、持続的成長を可能にするというメリットについて論じました。多様な人材が織りなす「集合知」は、組織の視野を広げ、変化への対応力を高め、未知のリスクを乗り越える力となります。

株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。組織サーベイを用いた価値観分析による心理的安全性の可視化や、エンゲージメント測定・向上策の企画立案など、より具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

kotora

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コトラ(人的資本チーム)

経営戦略に連動した「動的な人材ポートフォリオ」の構築から、「採用」「育成」といった人材マネジメントの実践まで、人的資本経営を一気通貫で支援しています。

コンサルタント紹介

杉江 幸一郎
ディレクター ISO30414リードコンサルタント

東京大学経済学部経営学科卒。大手メーカー、通信事業者、IT企業など上場事業会社にて経営企画、事業戦略、新規事業立ち上げ等の責任者を歴任。上場企業取締役、CISO および ISO事務局等も担当。

コトラでは、ISO30414を始めとした人的資本経営のコンサルティングに従事。ISO30414リードコンサルタント。ESG情報開示研究会、人的資本経営コンソーシアム、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会員。
X(旧Twitter):@Kotora_cnsl


蘇木 亮太
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

同志社大学法学部卒。大手教育系企業でのコンサルタント経験を経て、金融系スタートアップに入社。 組織・人事企画チームに所属し、エンゲージメント向上施策やDE&I推進、研修開発、人事制度運用等を担当。

コトラでは、有価証券報告書・統合報告書における人的資本開示、ISO30414、人事組織コンサル等に従事。ISO30414リードコンサルタント資格/日本ディープラーニング協会G検定保有者。


大西裕也
リサーチャー兼コンサルタント

神戸大学大学院経済学研究科卒。教育経済学を専攻。

コトラでは、ISO30414認証取得支援及び人的資本開示動向のリサーチ、人事データ分析・レポート作成等に従事。
DX推進パスポート(G検定、データサイエンティスト検定、ITパスポート)、一種外務員資格取得者。


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