なぜ今、ダイバーシティ経営なのか? イノベーションを創出し、企業価値を高める

なぜ「ダイバーシティ経営」のメリットは実感しにくいのか?

「ダイバーシティ経営の重要性は理解しているが、具体的なメリットが見えにくい」
「取り組みを始めたものの、期待したような効果が実感できない」

企業の経営者や人事責任者の方々から、このようなお声を伺う機会が少なくありません。ダイバーシティ経営は、もはや単なる社会貢献活動やCSRの一環ではなく、企業の持続的成長を左右する重要な経営戦略として認識されています。しかし、その本質的なメリットを理解し、戦略的に推進できている企業はまだ限定的であるのが現状ではないでしょうか。

本コラムでは、ダイバーシティ経営がもたらす真のメリット、特にイノベーション創出と企業価値向上という側面に着目し、そのメカニズムと実践に向けたアプローチを、人的資本経営のプロフェッショナルの視点から解説します。

多様性がイノベーションを生むメカニズム

ダイバーシティ経営がもたらす最大のメリットの一つは、イノベーションの創出です。なぜ、多様な人材が集うことで、新しいアイデアや価値が生まれやすくなるのでしょうか。

一般的に、性別、年齢、国籍、価値観、経験などが異なる人材が集まることで、多様な視点や知識、スキルが組織にもたらされると言われています。これにより、従来の発想の枠を超えた議論が活発化し、硬直化した組織では生まれ得なかった革新的なアイデアが創出される可能性が高まります。

例えば、ある製品開発において、技術部門出身者だけでは気づかなかった顧客サービスの現場からの視点や、長年国内市場で経験を積んだベテランとは異なる、海外の若手メンバーからの斬新なアイデアが加わることで、新たな顧客層を捉えるヒット商品が生まれるケースなどがこれにあたります。

「知の融合」という視点

しかし、私たちコトラは、単に多様な人材を集めるだけでは不十分だと考えています。ダイバーシティ経営のメリットを最大化する鍵は、多様な「知」をいかにして「融合」させ、組織としての新たな能力へと昇華させるかにあります。これは、個々の人材が持つスキルや経験を可視化し、それらを戦略的に組み合わせる「動的な人材ポートフォリオ」の考え方に通じます。(動的な人材ポートフォリオについては、以下のコラムをご参照ください。)

異なる背景を持つ人材が互いの専門性や価値観を尊重し、建設的な対立を恐れずに意見を交わし合う。このような「インクルーシブ」な環境があって初めて、多様性は真の力となります。

例えば、Aさんの持つマーケティング知見と、Bさんの持つ技術的知見、そしてCさんの持つグローバル市場での経験が掛け合わさることで、これまで誰も思いつかなかった事業モデルが生まれるのです。

ダイバーシティ経営とは、このような「知の化学反応」を意図的に引き起こすための経営アプローチであると捉えることができます。このメリットを享受するためには、表面的な属性の多様性だけでなく、個々人の持つスキルの多様性にも目を向けることが不可欠です。

明日から始める、ダイバーシティ経営を加速させる3つの視点

ダイバーシティ経営を机上の空論で終わらせないためには、具体的なアクションが求められます。ここでは、経営者や人事責任者の皆様が、明日からでも実践できる3つの視点をご紹介します。

1. 「無意識のバイアス」への気づきを促す

私たちは誰しも、自分自身の経験や価値観に基づいた「無意識のバイアス(アンコンシャス・バイアス)」を持っています。これが、採用や評価、登用の場面で、無意識のうちに自分と似たタイプの人材を優遇してしまうといった事態を招き、多様性の確保を阻害する一因となります。

まずは、経営層や管理職が自らのバイアスに気づくための研修などを実施し、意識的な変革を促すことが第一歩です。

2. インクルーシブな会議運営を徹底する

多様な意見を引き出すためには、誰もが安心して発言できる「心理的安全性」の高い場づくりが不可欠です。例えば、会議の冒頭で全員が必ず一度は発言するルールを設ける、特定の人だけが話し続けないようにファシリテーターが介入する、といった工夫が考えられます。こうした小さな積み重ねが、多様な意見が尊重される組織文化を醸成します。

3. 人材のスキルや経験を「見える化」する

自社にどのような多様性(スキル、経験、価値観など)が存在するのかを把握しなければ、戦略的な配置や育成は行えません。組織サーベイやスキルマップなどを活用し、従業員一人ひとりの持つ能力や志向をデータとして可視化することを推奨します。これにより、これまで見過ごされてきた優秀な人材の発掘や、最適なチーム編成に繋がります。

「違い」を「力」に変え、未来の企業価値を創造する

本コラムでは、ダイバーシティ経営がもたらす本質的なメリットと、その実践に向けた具体的な視点について解説しました。多様な人材がその能力を最大限に発揮できる組織は、変化の激しい時代においても、イノベーションを創出し、新たな価値を生み出し続けることができます。

ダイバーシティ経営は、短期的なコストがかかる場合もあるかもしれません。しかし、それは未来の予測不能な変化に対応し、持続的な成長を遂げるための極めて重要な「投資」であると私たちは考えます。従業員エンゲージメントの向上、人材獲得競争力の強化、そして企業価値の向上という形で、そのリターンは必ず得られるはずです。

株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。組織サーベイを用いた価値観分析や、動的な人材ポートフォリオの構築支援など、より具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。

コンサルタント紹介

杉江 幸一郎
ディレクター ISO30414リードコンサルタント

東京大学経済学部経営学科卒。大手メーカー、通信事業者、IT企業など上場事業会社にて経営企画、事業戦略、新規事業立ち上げ等の責任者を歴任。上場企業取締役、CISO および ISO事務局等も担当。

コトラでは、ISO30414を始めとした人的資本経営のコンサルティングに従事。ISO30414リードコンサルタント。ESG情報開示研究会、人的資本経営コンソーシアム、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会員。
X(旧Twitter):@Kotora_cnsl


蘇木 亮太
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

同志社大学法学部卒。大手教育系企業でのコンサルタント経験を経て、金融系スタートアップに入社。 組織・人事企画チームに所属し、エンゲージメント向上施策やDE&I推進、研修開発、人事制度運用等を担当。

コトラでは、有価証券報告書・統合報告書における人的資本開示、ISO30414、人事組織コンサル等に従事。ISO30414リードコンサルタント資格/日本ディープラーニング協会G検定保有者。


大西裕也
リサーチャー兼コンサルタント

神戸大学大学院経済学研究科卒。教育経済学を専攻。

コトラでは、ISO30414認証取得支援及び人的資本開示動向のリサーチ、人事データ分析・レポート作成等に従事。
DX推進パスポート(G検定、データサイエンティスト検定、ITパスポート)、一種外務員資格取得者。


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