「コンプライアンス」と「エンゲージメント」は繋がらない?
「コンプライアンスを強化すると、現場が萎縮してしまうのではないか」
「エンゲージメントを高めたいが、コンプライアンス研修は守りの施策であり、直接的な関係はない」
企業の経営者や人事責任者の方々から、このようなお声を伺うことがあります。確かに、「~してはいけない」という制約を課すイメージの強いコンプライアンスと、従業員の自発的な貢献意欲を指すエンゲージメントは、一見すると相反するものに感じられるかもしれません。
しかし、この認識は、コンプライアンス研修の可能性を狭めてしまっていると考えられます。もし、コンプライアンス研修が、従業員のエンゲージメントを高めるきっかけとなり得るとしたら、貴社の組織にはどのような変化が生まれるでしょうか。
本コラムでは、従来のコンプライアンス研修の枠組みを乗り越え、従業員と組織の成長を加速させる「攻め」の施策へと進化させるための新しい発想をご提案します。
コンプライアンスは「心理的安全性」の土台である
エンゲージメント向上の鍵として、近年「心理的安全性」という概念が注目されています。心理的安全性とは、組織の中で自分の考えや気持ちを誰に対してでも安心して発言できる状態のことです。この心理的安全性が確保されていて初めて、従業員は失敗を恐れずに挑戦し、建設的な意見を交わし、主体的に仕事に取り組むことができます。
公平なルールが安心感を生む
ここで、コンプライアンスの役割を捉え直してみましょう。コンプライアンスとは、単に法律違反を防ぐことだけではありません。コンプライアンスの本質は、従業員が安心して働くための基盤を築くという点にあります。
組織における公正なルールを明確にし、誰もがそれを遵守することで、従業員は不当な扱いやハラスメント、恣意的な評価などから守られます。その意味で、徹底されたコンプライアンスは従業員が安心して働くための基盤、すなわち「心理的安全性」の土台をつくりあげるものと言えるでしょう。
「守られている」実感がエンゲージメントを育む
私たちコトラは、コンプライアンス研修を「会社が従業員一人ひとりを大切にしている」という明確なメッセージを伝える絶好の機会と捉えています。例えば、ハラスメントに関するコンプライアンス研修は、「加害者にならないため」だけでなく、「誰もが尊重され、安心して働ける職場を全員で創るため」というポジティブな目的を共有する場になり得ます。
このような研修を通じて、従業員が「この会社は自分を守ってくれる」と実感できたとき、組織への信頼と貢献意欲、すなわちエンゲージメントは自然と高まっていくと考えられます。エンゲージメントサーベイの結果、特に人間関係や上司との関係性に課題が見られる場合、その根源にはコンプライアンスに関する問題が潜んでいることも少なくありません。
エンゲージメントを高めるコンプライアンス研修への転換
では、具体的にどのようにコンプライアンス研修を設計すれば、エンゲージメント向上に繋げることができるのでしょうか。
アクション1:ポジティブな行動指針を共に創る
「禁止事項リスト」を配付する代わりに、自社の理念やビジョンに基づいた「望ましい行動指針(クレド)」を、従業員参加型のワークショップで作成することをお勧めします。
- 「私たちはお客様に対し、常に誠実であろう」
- 「私たちは、多様な意見を尊重し、建設的な対話を歓迎する」
- 「私たちは、困難な課題にもチームとして挑戦し、助け合う」
こうしたポジティブな言葉で語られる行動指針は、従業員の共感を呼び、日々の業務における判断の拠り所となります。自分たちが策定に関わった指針であるため、その浸透度と実践度は格段に高まります。これは、コンプライアンス研修が「やらされごと」から「自分ごと」へと変わる瞬間です。
アクション2:成功体験や称賛の声を共有する
コンプライアンス研修の場で、違反事例やヒヤリハット事例を取り上げることは重要ですが、それだけでは雰囲気が暗くなりがちです。そこで、誠実な行動によって顧客からの信頼を得た事例や、勇気ある指摘によって不正を未然に防いだ事例など、ポジティブな成功体験を積極的に共有することをお勧めします。
模範となる行動を具体的に示し、称賛することで、「コンプライアンスを守ることは、格好悪いことではなく、誇らしいことなのだ」という文化が醸成されます。これは、エンゲージメントの重要な要素である「承認」や「賞賛」の機会を創出することにも繋がります。
アクション3:管理職のコミュニケーション能力を磨く
エンゲージメントの鍵を握るのは、現場の管理職です。部下の些細な変化に気づき、相談しやすい雰囲気を作り、コンプライアンスに関する疑問や懸念をオープンに議論できる場を設ける。こうした管理職のコミュニケーション能力こそが、心理的安全性を高め、コンプライアンスを現場に根付かせます。
したがって、管理職向けのコンプライアンス研修では、知識の伝達以上に、コーチングや1on1ミーティングのスキル、部下からの相談に対する傾聴力などを重点的に鍛えることを推奨します。
コンプライアンスは、最も効果的なエンゲージメント施策となり得る
コンプライアンス研修を、単なるリスク回避のための「守り」の施策と捉える時代は終わりを告げようとしています。公正なルールと、それを運用する誠実なコミュニケーションは、従業員の心理的安全性を担保し、エンゲージメントを向上させるための不可欠な要素です。
従業員一人ひとりが「この会社で働き続けたい」「この会社の成功に貢献したい」と心から思える組織を創るために、コンプライアンス研修は極めて有効な「攻め」の戦略となり得ます。自社のエンゲージメントスコアが伸び悩んでいると感じるならば、一度、コンプライアンス研修のあり方を見直してみてはいかがでしょうか。
株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。コンプライアンス研修の企画・立案など、より具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。