求職者への情報発信、ファクトで語っていますか?
「求人票には良いことばかり書いてあるが、実態はどうなのか?」
「入社後に『聞いていた話と違う』となるのが怖い」
応募数減少に悩む企業の多くが、求職者が抱くこの「根源的な不信感」を見落としています。SNSで企業の口コミが容易に手に入る現在、求職者のリテラシーは飛躍的に向上しています。
彼らは、企業側が発信する「風通しの良い職場です」「成長できる環境です」といった主観的なPR文言を、そのまま額面通りには受け取りません。むしろ、抽象的なアピールを繰り返せば繰り返すほど、「都合の悪い情報を隠しているのではないか」という疑念を招き、結果として応募への一歩を踏みとどまらせてしまっているのです。
応募数減少という現象は、単なる認知不足ではなく、企業としての「信頼性」の欠如に起因しているケースが少なくありません。本コラムでは、曖昧な言葉ではなく「ファクト(事実)」をテコに、求職者からの信頼を勝ち取り、応募数を回復させるためのアプローチについて解説します。
候補者は「労働力の投資家」である:厳格化する企業選び
「選ぶ」ための判断材料(エビデンス)が足りていない
優秀な人材ほど、自分のキャリアと時間をどの企業に投じるか、慎重に判断します。これは、投資家が資金を投じる際に企業の将来性やリスクを厳しく調査・分析するのと全く同じ構図です。
投資家に対して「我が社は将来性があります」とだけ言っても資金が集まらないのと同様に、候補者に対しても「働きやすいです」と言うだけでは、もはや人は動きません。彼らが求めているのは、その主張を裏付ける「客観的なエビデンス(証拠)」です。
- 「成長できる」と言うなら、具体的な教育予算や、社員一人当たりの年間研修時間は?
- 「女性が活躍している」と言うなら、女性管理職比率や産休・育休後の復帰率は?
- 「働きやすい」と言うなら、有給休暇の平均取得日数や、部署ごとの平均残業時間は?
これらの「具体的な数字」を求人票や採用サイトに明記できている企業は、まだ少数派です。だからこそ、ここを戦略的に開示することで、競合他社との圧倒的な差別化が可能になります。応募数減少に苦しむ企業こそ、まずは手元にある実態データを整理し、「判断材料を提供する」という誠実な姿勢を見せるべきです。
ネガティブデータの開示が信頼を生む
「離職率が高いなど、ネガティブなデータは出したくない」と考える人事担当者も多いでしょう。しかし、今の時代、不都合な真実を隠すことは最大のリスクです。口コミサイト等で暴露されれば、そのダメージは計り知れません。
むしろ、課題がある数値も含めて正直に開示し、その上で「なぜそうなっているのか(背景)」と「今後どう改善していくのか(対策)」をセットで語ることが、強力な信頼構築に繋がります。
例えば、「現在の残業時間は月40時間と多めですが、これは急激な事業拡大に伴う一時的なものです。来期には業務効率化ツールの導入で20時間まで削減する計画を実行中です」と語る企業と、残業時間の実績を一切開示せず、実態を不透明にしている企業。どちらが、真剣にキャリアを考えている候補者に響くでしょうか。
「課題に向き合う姿勢」そのものが、企業の健全性を示す強力なコンテンツとなり、結果として応募への心理的ハードルを下げるのです。
採用ピッチ資料を「ファクトブック」に変える
雰囲気ではなく「実態」を伝える
面接や説明会で使用するスライド(採用ピッチ資料)も、ファクトベースに見直す必要があります。社員の笑顔の写真やオフィスの風景も大切ですが、それ以上に「会社の実態」を表す情報を厚くするのです。
例えば、以下のような情報を可視化・開示することは非常に有効です。
- 給与のリアルな推移モデル
「実力主義」と言うだけでなく、実際に入社3年でどれくらい昇給した社員がいるのか、その分布図を示す。 - 組織の構成比
年代別、中途・新卒比率、出身業界の多様性などをグラフ化する。 - 評価の納得度
既存社員へのサーベイ結果(「評価制度に納得しているか」など)を、良い数字も悪い数字も含めて公開する。
特にエンジニアや専門職、ハイクラス層などの論理的思考を好む層に対しては、情緒的なメッセージよりも、構造化されたデータの方が遥かに説得力を持ちます。「当社はここまで情報を公開している」という事実自体が、「人を大切にし、隠し事をしないカルチャー」の証明となります。
入社後の「リアリティショック」を防ぐ
データに基づいた採用広報は、入社後のミスマッチ(リアリティショック)を防ぐ効果もあります。 「聞いていた話と違う」という早期離職は、採用コストを無駄にするだけでなく、元社員によるネガティブな発信を誘発し、将来の応募数を減少させる負のループを生みます。
最初から実態を理解した上で入社した人材は、入社後のギャップに苦しむことが少なく、結果として組織への定着もスムーズに進むと考えられます。採用における「透明性」は、入り口(応募数)を広げるだけでなく、出口(離職)を塞ぐ役割も果たすのです。
情報の透明性こそが、候補者との信頼構築の第一歩
応募数減少の時代において、企業が持つべき武器は「情報の透明性」です。
商品を買う時に成分表示やレビューを見るように、就職においても「中身」が問われる時代になりました。隠せば怪しまれ、飾れば見透かされます。 自社の現状を直視し、整理し、堂々と開示すること。それは勇気のいることかもしれませんが、その誠実さこそが、求職者が安心して応募へと踏み出すための、決定的な判断材料となります。
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