その等級制度、社員のエンゲージメントを蝕んでいませんか?
「頑張りが正当に評価されていない気がする」
「誰が、何を基準に評価しているのか不透明だ」
「給与がどう決まっているのか、その根拠がよくわからない」
こうした社員から聞こえてくる声は、単なる個人の不満として片付けられる問題ではありません。その背後には、多くの場合、人事の根幹である等級制度そのものの構造的な課題が潜んでいると考えられます。社員の納得感が低い等級制度は、日々のモチベーションを削ぎ、エンゲージメントを低下させ、最終的には優秀な人材の離職という、企業にとって最も避けたい事態を引き起こしかねません。
本コラムでは、なぜ既存の等級制度が社員の不満の原因となりやすいのかを深掘りし、全ての社員が公平性を感じ、納得してキャリアを歩むための「透明性の高い等級制度」をいかに設計し、運用していくべきか、その具体的な方策を探ります。
なぜ等級制度は「不公平感」を生むのか?
多くの日本企業で採用されてきた「職能資格制度」は、社員の「能力」を基準に等級を定めるものです。しかし、この「能力」の定義が曖昧であったり、年功的な運用がなされたりすることで、社員の目には評価プロセスが不透明に映りがちです。
ブラックボックス化する評価基準
不公平感の最大の原因は、「評価基準のブラックボックス化」にあると言えます。
- 曖昧な能力要件
「企画力」「実行力」といった抽象的な言葉で等級要件が定義されており、評価者によって解釈が大きく異なってしまう。 - 成果と評価の不一致
高い成果を上げたはずなのに、なぜか評価が上がらない。その理由が、年齢や在籍年数といった非公式な基準にあるのではないかという疑念を生む。 - 不十分なフィードバック
評価結果だけが伝えられ、「なぜその評価になったのか」「次に何を期待されているのか」という最も重要な部分が本人にフィードバックされない。
このような状況では、社員が等級制度や評価制度に対して不信感を抱くのは当然の結果と言えるでしょう。
「スキル可視化」と「対話」による納得感の醸成
私たちコトラは、社員の不公平感を解消し、真の納得感を生み出す鍵は「評価基準の客観性」と「運用の丁寧さ」の両輪にあると考えています。
そこで有効なアプローチが、「スキルベース」の考え方を取り入れることです。これは、社員が「何をできるか(スキル)」を客観的な基準で可視化し、それを等級や評価の根幹に据える手法です。曖昧な「能力」ではなく、具体的な「スキル」を基準にすることで、評価の客観性と透明性は飛躍的に高まります。
しかし、精緻な制度を作るだけでは不十分です。もう一つの重要な軸が、現場を巻き込んだ「対話」です。どのようなスキルが事業にとって重要なのか、そのスキルをどう定義し、評価するのか。この制度設計のプロセスに、現場の管理職やエース級の社員を巻き込み、徹底的に議論を重ねるのです。
現場の知見が反映された「自分たちが作った制度」であるという当事者意識が、制度への深い納得感と、その後の円滑な運用を担保します。等級制度は、会社が一方的に与えるものではなく、対話を通じて共に創り上げるべきものだと考えられます。
納得感を醸成する、公平・透明な等級制度への変革ステップ
「スキルベース」と「対話」を軸とした等級制度への変革は、どのように進めればよいのでしょうか。具体的なアクションプランを3つのステップでご紹介します。
ステップ1:現場を巻き込んだスキルマップの作成
まず着手すべきは、評価の物差しとなる「スキル」の定義と体系化です。
- 重要スキルの特定
経営戦略や事業計画に基づき、企業の成長に不可欠なスキル領域を特定します。 - 現場ワークショップの実施
特定したスキル領域ごとに、現場の管理職やハイパフォーマーを集めたワークショップを実施。「成果を出すために具体的に何をしているか」をヒアリングし、具体的な行動や知識レベルを洗い出します。 - スキルマップの策定
洗い出したスキルをレベル別に体系化し、「スキルマップ」としてまとめます。このスキルマップが、客観的でブレない評価基準の土台となります。このプロセス自体が、評価基準に対する現場の納得感を高める効果を持ちます。
ステップ2:スキルと等級・評価・報酬の連動設計
次に、作成したスキルマップを人事制度全体に組み込んでいきます。
- スキル要件の等級定義への反映
各等級に求められるスキルレベルをスキルマップと連動させて具体的に定義します。「〇等級になるためには、△△のスキルレベルが必須」といった基準が明確になります。 - 評価項目への展開
スキルマップをベースに具体的な評価項目を作成し、評価シートなどに落とし込みます。これにより、評価者は客観的な基準で評価でき、被評価者も評価結果への納得感が高まります。 - 報酬への反映
市場価値の高い希少スキルや、企業の競争優位性に直結する重要スキルに対しては、給与や手当で報いる仕組みを設けることで、社員のスキル習得へのモチベーションを高めます。
ステップ3:評価者トレーニングとフィードバックの徹底
最後に、制度を正しく「運用」するための仕組みを整えます。
- 評価者トレーニングの実施
新しい評価基準や評価方法について、管理職向けのトレーニングを徹底的に行います。評価の目線を揃え、評価エラーを防ぐことが目的です。 - フィードバック面談の質の向上
評価結果を伝えるだけでなく、スキルマップに基づき「どのスキルがどのレベルにあり、次の等級を目指すにはどのスキルを伸ばすべきか」を具体的にフィードバックする場を設けます。この対話こそが、社員の成長を促し、制度への信頼を確固たるものにするのです。
これらの改革は、一朝一夕に成し遂げられるものではありません。しかし、現場との対話を丁寧に行いながら着実に実行していくことが、社員の信頼を回復し、組織全体のエンゲージメントを向上させることに繋がります。
公平な等級制度は、企業と社員の信頼関係の礎
社員の不満や不公平感は、放置すれば組織の活力を静かに奪っていく要因となります。等級制度にスキルという客観的な軸を取り入れ、その設計と運用プロセスにおいて社員との対話を尽くすこと。これが、社員一人ひとりのエンゲージメントを高め、自律的な成長を促すための不可欠な投資です。
企業と社員が互いを信頼し、共通の目標に向かって邁進できる組織を創り上げるために、人事の根幹である等級制度のあり方を、今一度見つめ直してみてはいかがでしょうか。
株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の組織課題の解決をサポートします。より具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。




