形骸化した等級制度の再構築:事業成長を加速する実践アプローチ

貴社の等級制度は、未来の成長戦略を描けていますか?

「社員の昇格基準が曖昧で、年功序列から脱却できない」
「現在の等級制度が、変化の激しい事業環境に対応できているか疑問だ」
「経営戦略と人事戦略が紐づいておらず、等級制度がただの序列になってしまっている」

もし、このような課題に少しでも心当たりがあれば、それは貴社の人事の根幹である等級制度が、本来の役割を果たせていないサインかもしれません。等級制度は、単に社員の序列を定めるためのものではありません。企業の価値観や目指す方向性を社員に示し、人材の育成・評価・配置・報酬といった人事機能全体の背骨となる、極めて重要な経営インフラです。

本コラムでは、多くの企業が陥りがちな等級制度の形骸化という課題に焦点を当て、それを乗り越え、企業の持続的な成長を牽引する「生きた制度」へと再構築するための本質的な考え方と、具体的なステップを解説します。

等級制度の本質:経営と人材をつなぐ羅針盤

等級制度の見直しを検討する際、「職能資格制度」「役割等級制度」「職務等級制度」といった分類論や、先進企業の事例といった情報収集から入りがちです。もちろん情報収集は重要ですが、それだけではなく、より本質的な問いに立ち返る必要があります。それは、「自社にとって等級制度とは、何を達成するためのものなのか」という目的の再定義です。

経営戦略と連動した「目的」の再定義

企業の成長を支える等級制度の根幹は、経営戦略や事業戦略と明確に連動していることです。例えば、「今後、海外展開を加速する」という戦略があるならば、等級制度においても、語学力や異文化理解力、グローバルな視点を持つ人材が適切に評価され、上位等級に位置づけられるような設計が求められます。

ここでコトラが重要視するのは、等級制度を「人材ポートフォリオの現状(As-Is)と理想(To-Be)のギャップを埋めるための羅針盤」として捉える視点です。

将来の事業戦略を実現するために、どのようなスキルや経験を持つ人材が、どの階層にどれくらい必要か(To-Be)。そして、現状の人員構成はどうなっているか(As-Is)。このギャップを明確に把握し、それを埋めるための採用・育成・配置を戦略的に行う上で、等級制度は極めて重要な役割を担います。各等級の定義そのものが、企業が求める理想の人材像を示す道標となるべきだと考えられます。

等級ごとに求められる「役割(ミッション)」を抽象的な能力要件で定義するのではなく、「事業への貢献」という観点から具体的に再定義することが、その第一歩となります。

目的の明確化が生む「公平性」と「透明性」

このように経営戦略と連動した目的が明確な等級制度は、結果として社員にとっての「公平性」と「透明性」を高めることにも繋がります。 自分がどのような役割を期待され、どうすれば次のステップに進めるのかが事業への貢献という客観的な物差しで理解できるため、社員は制度を信頼し、学習意欲や成長へのモチベーションを高めることができるのです。これは、従業員エンゲージメントの向上に不可欠な要素と考えられます。

  • 等級定義の明確化
    各等級に求められる責任の範囲、意思決定のレベル、必要なスキル・コンピテンシーを誰もが理解できる言葉で記述する。
  • 評価プロセスとの連携
    等級定義に基づいた評価基準を設け、評価結果が昇格や報酬にどう反映されるかのロジックを透明化する。
  • キャリアパスの提示
    等級制度の中で、社員がどのようなキャリアを歩めるのか、複数の選択肢を具体的に示す。

これらの要素が満たされて初めて、社員は等級制度を「自分ごと」として捉え、自律的なキャリア形成に取り組むことができるようになると言えるでしょう。

等級制度の再構築を成功させるための実践的アプローチ

等級制度の再構築は、単なる制度設計に留まらない、組織文化にも影響を与える一大プロジェクトです。ここでは、そのプロセスを成功に導くための具体的なアクションや視点を提示します。

ステップ1:現状分析と課題の特定

まずは、既存の等級制度が、企業と社員の双方にとってどのような影響を与えているかを多角的に分析します。

  • 経営・人事データ分析
    等級ごとの人員構成、滞留年数、昇格率、離職率などを分析し、制度運用の実態を客観的に把握します。特定の等級に人材が滞留している、あるいは若手の有望な人材が流出しているといった傾向が見られるかもしれません。
  • 経営層・管理職へのヒアリング
    経営戦略の実現に向けて、現行の等級制度が貢献している点、あるいは阻害している点は何かをヒアリングします。
  • 社員意識調査(サーベイ)
    制度に対する納得感、公平性、キャリアパスの展望などについて、匿名のアンケート等で社員の生の声を集めます。このプロセスを通じて、制度上の課題だけでなく、運用上の課題も浮き彫りになるでしょう。

ステップ2:新制度の基本方針(コンセプト)策定

現状分析で見えてきた課題を踏まえ、新しい等級制度が目指すべき姿を描きます。

  • 自社の価値観・ビジョンとの接続
    何を大切にし、どのような人材を評価する企業でありたいのか。
  • 事業戦略との整合性
    中期経営計画を達成するために、どのような人材を輩出する制度にすべきか。
  • 評価・報酬・育成制度との連携
    新しい等級制度を軸に、他の人事制度全体をどうデザインし直すか。

この基本方針が、プロジェクト全体のぶれない軸となります。関係者間でこのコンセプトを徹底的に共有し、コンセンサスを形成することが極めて重要です。

ステップ3:段階的な導入と丁寧なコミュニケーション

完璧な制度を一度に導入しようとするのではなく、まずはパイロット部門での試行導入や、新旧制度の併用期間を設けるなど、ソフトランディングを目指すことが現実的です。

そして、最も重要なのが「コミュニケーション」です。なぜ等級制度を変えるのか、それによって社員にどのような成長や機会を提供したいのか、その背景と想いを経営トップ自らの言葉で、繰り返し丁寧に説明することが求められます。説明会や質疑応答の場を設け、社員の疑問や不安に真摯に向き合う姿勢が、新制度への信頼を醸成します。

等級制度は、企業の未来を創るエンジンである

等級制度の再構築は、短期的な視点で見れば、多大な労力を要する複雑なプロジェクトです。しかし、長期的な視点に立てば、それは企業の競争力の源泉である「人材」の価値を最大化し、持続的な成長を実現するための、最も重要な経営投資の一つと言えるでしょう。

経営と現場、会社と社員のベクトルを合わせ、共通の目標に向かって進むためのインフラとして等級制度を機能させること。それこそが、人的資本経営の深化に向けた、確かな一歩となるのです。

株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の等級制度の改訂をはじめとする課題解決をサポートします。より具体的な現状分析や制度設計に関するご相談は、お気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

kotora

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コトラ(人的資本チーム)

経営戦略に連動した「動的な人材ポートフォリオ」の構築から、「採用」「育成」といった人材マネジメントの実践まで、人的資本経営を一気通貫で支援しています。

コンサルタント紹介

杉江 幸一郎
ディレクター ISO30414リードコンサルタント

東京大学経済学部経営学科卒。大手メーカー、通信事業者、IT企業など上場事業会社にて経営企画、事業戦略、新規事業立ち上げ等の責任者を歴任。上場企業取締役、CISO および ISO事務局等も担当。

コトラでは、ISO30414を始めとした人的資本経営のコンサルティングに従事。ISO30414リードコンサルタント。ESG情報開示研究会、人的資本経営コンソーシアム、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会員。

X(旧Twitter):@Kotora_cnsl


蘇木 亮太
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

同志社大学法学部卒。大手教育系企業でのコンサルタント経験を経て、金融系スタートアップに入社。 組織・人事企画チームに所属し、エンゲージメント向上施策やDE&I推進、研修開発、人事制度運用等を担当。

コトラでは、有価証券報告書・統合報告書における人的資本開示、ISO30414、人事組織コンサル等に従事。ISO30414リードコンサルタント資格/日本ディープラーニング協会G検定保有者。


大西 裕也
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

神戸大学大学院経済学研究科卒。教育経済学を専攻。

コトラでは、ISO30414認証取得支援及び人的資本開示動向のリサーチ、人事データ分析・レポート作成等に従事。

DX推進パスポート(G検定、データサイエンティスト検定、ITパスポート)、一種外務員資格取得者。


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