採用目標は達成。しかし、なぜ早期離職が減らないのか?
採用目標人数は達成している。 内定承諾率も悪くない。 しかし、現場からは
「期待していたスキルと違う」
「カルチャーフィットしていない」
といった声が聞こえ、入社後1年未満での早期離職が後を絶たない…。
こうしたジレンマを抱える経営者や人事担当者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。その根本的な原因は、採用活動の成功を測る採用KPIが、入社というゴールに最適化されすぎていることにあるかもしれません。
採用の本当の成功とは、単に入社してもらうことではなく、入社した人材が組織に定着し、期待されたパフォーマンスを発揮して活躍することです。
本コラムでは、採用活動の質に焦点を当て、早期離職や採用ミスマッチを防ぐための採用KPIのあり方について、実践的な視点から考察します。
採用の「質」とは何か:なぜ従来のKPIでは測れないのか
多くの企業で設定されている採用KPIは、採用プロセスそのものの効率性や結果(採用人数、コスト)を測るものが中心です。
- 応募者数
- 書類選考通過率
- 面接通過率
- 内定応諾率
これらの採用KPIは、採用ファネルの歩留まりを管理するためには重要です。しかし、これらの数値が良好であっても、採用した人材の質が担保されているとは限りません。
質を伴わない採用がもたらす問題
採用の質が低い場合、つまり採用ミスマッチが発生している場合、組織には以下のような深刻な問題が生じる可能性があります。
- 早期離職の増加と再採用コスト
入社前後のギャップにより、エンゲージメントが低下し、早期離職に至ります。これにより、採用コストが無駄になるだけでなく、再度採用活動を行うコストと工数が発生します。 - 教育・オンボーディングコストの増大
期待したスキルや適応力がない場合、現場でのOJTや研修にかかる負担が増大します。 - 周囲の従業員の士気低下
新入社員のパフォーマンスが低い、あるいはカルチャーに馴染めない場合、既存社員の負担増や不公平感に繋がり、組織全体のエンゲージメントを低下させる要因ともなり得ます。
これらの問題は、採用プロセスを管理する採用KPIだけを追いかけていては、なかなか表面化しにくいものです。
質を定義する2つの側面
では、採用における質とは具体的に何を指すのでしょうか。大きく分けて2つの側面があると考えられます。
- スキルフィット
職務遂行に必要なスキル、経験、ポテンシャルを保有しているか。 - カルチャーフィット
企業の理念、価値観、行動規範、組織風土に共感し、適応できるか。
従来の採用KPIは、この両方、特にカルチャーフィットやポテンシャルといった見極めにくい部分を測定する指標としては機能しづらい側面がありました。
入社後の「活躍」と「定着」を測る採用KPI
採用の質を担保し、ミスマッチを防ぐためには、採用KPIの視点を「入社前」から「入社後」へと拡張する必要があります。ここでは、入社後の活躍と定着に焦点を当てた採用KPIの例をご紹介します。
定着・離職に関する採用KPI
最も直接的に質の結果を示す指標です。
- 入社後1年以内(あるいは3年以内)定着率
採用した人材が、組織に定着しているかを示す基本的な指標です。 - 部署別・職種別 早期離職率
特定の部署や職種でミスマッチが多発していないか、原因を特定するために細分化して分析します。 - ハイパフォーマー定着率
特に優秀と評価される人材が定着しているかは、採用の質の核心的な指標となり得ます。
パフォーマンスに関する採用KPI
入社後に期待通りの活躍ができているかを測る指標です。
- 入社後パフォーマンス評価
入社後(例:6ヶ月後、1年後)の人事評価の結果を分析します。特に、採用時の面接評価と入社後の実評価に大きな乖離がないかを確認することが重要です。 - オンボーディング完了率・期間
設定したオンボーディングプログラムを完了し、独り立ちするまでの期間。これが想定より長期化している場合、採用時のスキル見極めやオンボーディングプロセスに課題がある可能性が示唆されます。
エンゲージメントに関する採用KPI
入社後の組織への適応度や、働きがいを測る指標です。
- 新入社員エンゲージメントスコア
入社後一定のタイミング(例:3ヶ月後、6ヶ月後)に実施するエンゲージメントサーベイの結果。全社平均や既存社員と比較し、適応状態を把握します。 - (サーベイ結果)上司との関係性、同僚との協調性
人間関係や組織風土へのフィット感を測る指標として注目されます。
これらの入社後の採用KPIを測定・分析することで、自社の採用活動が本当に質の高いものになっているかを検証できます。
「質」を高める採用KPI運用の実践ポイント
これらの採用KPIを設定するだけでなく、それを改善サイクル(PDCA)に組み込むことが重要です。
採用プロセスとの連動
入社後パフォーマンス評価の採用KPIが低い場合、その原因を採用プロセスに遡って分析します。 例えば、A評価で採用した人材の入社後評価がCであった場合、どの選考ステップで、どの面接官が、どのような基準でAと評価したのかを検証します。
ここに、面接官ごとの評価のバラツキや、評価基準の曖昧さといった課題が隠れていることが多くあります。 採用の質を高めるためには、面接官トレーニングの実施や、客観的な評価基準を持つ構造化面接の導入が有効な手段となると考えられます。構造化面接は、スキルフィットとカルチャーフィットの両面を、バイアスを排して見極める上で非常に有効な手法です。
オンボーディングとの連携
早期離職率が高い場合、採用時点でのミスマッチだけでなく、入社後のオンボーディング(受け入れ・定着支援)プロセスに問題がある可能性も考慮します。
採用KPIとオンボーディングのKPI(例:メンター制度の実施率、1on1ミーティングの頻度)を連携させて分析することで、採用部門と受け入れ部門が協力して質の向上に取り組む体制が構築できると考えられます。
「質」を問う採用KPIが、組織の未来を創る
採用人数やコストといった量や効率を追う採用KPIも依然として重要です。しかし、人的資本経営の観点からは、採用活動がどれだけ組織の持続的成長に貢献したか、すなわち質を問う採用KPIへのシフトが不可欠です。
早期離職やミスマッチは、採用した個人だけの問題ではなく、企業の採用プロセスや指標設定、受け入れ体制といった組織的な課題の表れである可能性があります。
自社の採用KPIが入社で終わっていないか。入社後の活躍と定着までを見据えた指標へと進化させることが、真に強い組織を創るための鍵となると考えられます。
株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。採用ミスマッチの防止、構造化面接の導入支援、あるいはエンゲージメント測定を通じた定着率の向上など、採用の質に関する具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。




