採用ブランディングとエンゲージメント 相乗効果を生む連動の秘訣

「採用して終わり」にしないための、次なる一手

「鳴り物入りで採用した優秀な人材が、数年で辞めてしまった」
「採用面接では意欲的だったのに、入社後はどうも輝きが見られない」

こうした声は、多くの企業で聞かれる切実な悩みです。多大な労力をかけて採用ブランディングを強化し、優秀な人材の獲得に成功しても、その人材が入社後に定着し、いきいきと活躍してくれなければ、その投資は水の泡となってしまいます。

この問題の根底には、多くの場合、「採用ブランディング」と「従業員エンゲージメント」が分断されてしまっているという構造的な課題が存在します。本コラムでは、この二つをいかにして連動させ、持続的な組織成長のサイクルを生み出すか、その秘訣に迫ります。

なぜ、「採用」と「エンゲージメント」は分断されがちなのか

多くの企業組織において、採用活動は人事部の採用チームが、エンゲージメント向上施策は人事企画チームや各事業部が、というように担当が分かれていることが一般的です。この組織構造が、意図せずして両者の連携を阻害する一因となっている可能性があります。

採用ブランディングの現場では、「いかにして候補者に自社の魅力を伝え、入社意欲を高めるか」という点に最適化されたコミュニケーションが行われます。一方で、入社後の現場では、日々の業務や組織運営が優先され、採用時に語られた理想やビジョンが十分に共有・実践されていない、という事態が起こり得ます。

この結果、新入社員は「採用時に聞いていた話と、実際の環境が違う」という「期待値のズレ(リアリティ・ショック)」を感じることになります。このズレこそが、エンゲージメント低下の最大の要因であり、早期離職の引き金となるのです。採用ブランディングで膨らんだ期待という風船が、入社後の現実によって萎んでしまう。この構造を断ち切らない限り、採用と育成の非効率なサイクルから抜け出すことは困難です。

採用とエンゲージメントを繋ぐ3つの架け橋

では、採用ブランディングとエンゲージメントを効果的に連動させるためには、具体的に何をすべきでしょうか。ここでは、両者の間に「架け橋」を架けるための3つのアプローチを提案します。

「一貫した価値基準(EVP)」を組織の背骨にする

第一の架け橋は、採用ブランディングの核となるEVP(従業員価値提案)を、採用時だけでなく、入社後のあらゆる人事施策の基盤に据えることです。EVPとは、「企業が従業員に提供する独自の価値」の約束です。この約束が、採用面接で語られるだけでなく、入社後のオンボーディング、評価制度、育成体系、そして日常のコミュニケーションに至るまで、一貫して体現されている状態を目指します。

例えば、「挑戦を称賛する文化」をEVPに掲げるのであれば、採用ブランディングでは挑戦的なプロジェクト事例を発信し、入社後の評価制度では、失敗を恐れず新たな試みを行った社員が正当に評価される仕組みを整えることが必要になるでしょう。

このように、EVPが組織の「背骨」として機能することで、社員は「この会社は、言っていることとやっていることが同じだ」という信頼感を抱き、エンゲージメントが醸成されていくと考えられます。

オンボーディングを「ブランド体験の継続」と位置づける

第二の架け橋は、入社直後のオンボーディング期間を、単なる業務の引き継ぎ期間ではなく、「採用ブランディングで伝えたブランド体験を、現実のものとして深く実感してもらう期間」と再定義することです。

採用プロセスで感じた「この会社で働きたい」という熱量を冷まさないために、

  • 配属先の先輩や上司が、採用時に伝えた企業のビジョンやEVPを自分の言葉で語る
  • 経営層が、新入社員に期待する役割を直接伝える場を設ける
  • 採用ブランディングのコンテンツ作成に関わった社員との交流会を開く

といった施策が有効です。これにより、新入社員は「歓迎されている」「自分は企業のビジョン実現に不可欠な一員なのだ」という実感を得ることができます。この最初の成功体験が、その後のエンゲージメントの強固な土台となります。

「社員の声」をループさせ、ブランドを磨き続ける

第三の架け橋は、社員のエンゲージメント状態を継続的に測定し、その「声」を採用ブランディングにフィードバックする仕組みを構築することです。

組織サーベイなどを通じて、「社員が自社のどこにエンゲージメントを感じているのか」「入社前後のギャップはどこにあったか」といったデータを定期的に収集・分析します。そこで明らかになった「リアルな魅力」や「改善すべき課題」を、次の採用ブランディングのメッセージに反映させていくのです。

例えば、多くの社員が「チーム内の心理的安全性の高さ」にエンゲージメントを感じていることが分かれば、それを採用ブランディングの新たな訴求軸として強化する。逆に、特定の制度に関する不満の声が多ければ、それを真摯に受け止め、改善に取り組む姿勢を社外にも示す。

このフィードバックループを回し続けることで、採用ブランディングは常に実態に即して磨かれ、エンゲージメントは向上し、組織全体が学習し成長していくという好循環が生まれます。

最高の採用ブランディングとは、社員のエンゲージメントそのものである

採用ブランディングとエンゲージメントは、決して別々のものではありません。むしろ、社員のエンゲージメントの高さこそが、最も説得力のある採用ブランドの源泉となるといえます。社員が自社に誇りを持ち、いきいきと働く姿は、どんなに着飾った言葉よりも強く、候補者の心を惹きつけます。

採用はゴールではなく、エンゲージメントを通じて企業の持続的成長へと繋げるためのスタート地点です。採用時に交わした約束を入社後も誠実に果たし続けること。その一貫した姿勢こそが、優秀な人材を惹きつけ、育て、共に未来を創っていくための唯一無二の道筋ではないでしょうか。

株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。エンゲージメント測定から改善策の立案、定着を見据えた採用ブランディングの構築まで、一貫したご支援が可能です。より具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

kotora

kotora

コトラ(人的資本チーム)

経営戦略に連動した「動的な人材ポートフォリオ」の構築から、「採用」「育成」といった人材マネジメントの実践まで、人的資本経営を一気通貫で支援しています。

コンサルタント紹介

杉江 幸一郎
ディレクター ISO30414リードコンサルタント

東京大学経済学部経営学科卒。大手メーカー、通信事業者、IT企業など上場事業会社にて経営企画、事業戦略、新規事業立ち上げ等の責任者を歴任。上場企業取締役、CISO および ISO事務局等も担当。

コトラでは、ISO30414を始めとした人的資本経営のコンサルティングに従事。ISO30414リードコンサルタント。ESG情報開示研究会、人的資本経営コンソーシアム、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会員。

X(旧Twitter):@Kotora_cnsl


蘇木 亮太
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

同志社大学法学部卒。大手教育系企業でのコンサルタント経験を経て、金融系スタートアップに入社。 組織・人事企画チームに所属し、エンゲージメント向上施策やDE&I推進、研修開発、人事制度運用等を担当。

コトラでは、有価証券報告書・統合報告書における人的資本開示、ISO30414、人事組織コンサル等に従事。ISO30414リードコンサルタント資格/日本ディープラーニング協会G検定保有者。


大西裕也
リサーチャー兼コンサルタント

コトラでは、ISO30414認証取得支援及び人的資本開示動向のリサーチ、人事データ分析・レポート作成等に従事。

DX推進パスポート(G検定、データサイエンティスト検定、ITパスポート)、一種外務員資格取得者。


サービスについての疑問や質問、
その他お気軽にお問い合わせください!