「待ち」の採用から「惹きつける」採用へ 採用ブランディングが実現する究極のコスト最適化

「採用」が始まるずっと前から、勝負は始まっている

「魅力的な候補者ほど、競争が激しくて採用できない」
「求人を出しても、そもそも応募が集まらない」

このような課題の根底には、共通する一つの構造があります。それは、採用ニーズが発生してから慌てて候補者を探し始める「待ち」の採用スタイルです。このスタイルは、常に広告費や紹介手数料といった外部コストに依存し続けるため、採用コスト最適化とは逆行する関係にあると言えるでしょう。

では、どうすればこの構造から脱却できるのでしょうか。その答えが「採用ブランディング」です。これは、自社が「働く場所」としての魅力を定義し、それを一貫して発信し続けることで、潜在的な候補者から「選ばれる」存在になるための活動です。本コラムでは、この採用ブランディングこそが、持続可能な採用コスト最適化を実現する鍵であると解説します。

なぜ、採用ブランディングがコスト最適化に繋がるのか

採用ブランディングと聞くと、時間も手間もかかる遠回りな施策だと感じるかもしれません。しかし、長期的な視点で見れば、これほど投資対効果の高い活動はないと考えられます。

採用ブランディングの核となるのが、EVP(Employee Value Proposition=従業員価値提案)です。これは、「この会社で働くことで、従業員は何を得られるのか」という、企業から従業員への約束を言語化したものです。給与や福利厚生といった条件面だけでなく、事業の社会性、得られる成長機会、独自の組織文化、働きがいなど、金銭以外の魅力を含めて定義することが重要です。

私たちコトラは、このEVPを社内に向けてだけでなく、社外のステークホルダー、とりわけ未来の候補者や投資家に向けて積極的に開示していくことが重要だと考えています。統合報告書や人的資本レポートにおける情報開示は、単なる義務対応ではありません。自社の人的資本に対する考え方や、従業員をいかに大切にしているかという姿勢を社会に約束する、強力な採用ブランディングのツールとなり得ます。

EVPが明確で、それが社外にも魅力的に伝わっている企業には、以下のような好循環が生まれます。

  • 応募の「質」の向上:自社の価値観に共感した候補者が集まるため、ミスマッチが減り、選考効率が向上します。
  • リファラル採用(社員紹介)の活性化:社員が自社の魅力を再認識し、友人や知人に自信を持って紹介するようになります。リファラル採用は、一般的に他のチャネルに比べて低コストかつ定着率が高い傾向があります。
  • タレントプールの構築:今すぐの転職を考えていない優秀な潜在層とも、SNSやオウンドメディアを通じて継続的な関係を築くことができます。これにより、採用ニーズが発生した際に、ゼロから探す必要がなくなります。

これらの効果が複合的に作用することで、広告費や紹介手数料への依存度が下がり、構造的な採用コスト最適化が実現するのです。

「惹きつける」採用を始めるための3つのアプローチ

採用ブランディングは、大企業だけのものではありません。企業の規模に関わらず、今日から始められることは数多くあります。

アプローチ1:自社の「魅力の棚卸し」から始める

まずは、自社のEVP(従業員価値提案)を明確にするためのディスカッションを社内で行うことから始めましょう。経営層だけでなく、現場で活躍する社員にも参加してもらい、「なぜこの会社で働き続けているのか」「仕事のやりがいは何か」「どんな人がこの会社で活躍できるか」といった問いを通じて、自社のリアルな魅力を洗い出します。組織サーベイなどを活用し、従業員の価値観を分析することも有効な手段です。

アプローチ2:候補者の視点で情報発信を行う

洗い出した魅力を、候補者が知りたい情報に変換して発信します。

  • オウンドメディア(採用ブログなど):社員インタビューやプロジェクトストーリーを通じて、働く人の顔や仕事の面白さを伝える。
  • SNS(LinkedIn, Xなど):日々の会社の雰囲気や、業界に関する専門的な知見を発信する。
  • カジュアル面談の設定:選考とは関係なく、候補者が気軽に社員と話せる機会を設ける。 重要なのは、良いことばかりを並べるのではなく、ありのままの姿を誠実に伝える「候補者体験」の視点です。

アプローチ3:全社員を「採用広報担当」にする

採用は、人事だけの仕事ではありません。社員一人ひとりが自社の魅力を語れるようになることが、最も強力な採用ブランディングです。社内報や全体会議などで、自社のEVPや採用活動の状況を共有し、リファラル採用への協力を促す文化を醸成することが、持続的な採用コスト最適化に繋がります。

最高の採用戦略は、最高の組織創り

「待ち」の採用から「惹きつける」採用への転換は、単なる採用手法の変更ではありません。それは、「私たちは、社員にとってどのような価値を提供できる企業でありたいのか」という、組織の根幹を問い直すチャンスと言えます。この問いに向き合い、従業員が誇りを持って働ける組織を創り上げること。それこそが、未来の優秀な仲間たちを惹きつける最高の磁石となり、結果として採用コストという課題を乗り越える原動力となるのです。

採用ブランディングへの投資は、未来の仲間たちへの投資であると同時に、今いる社員への投資でもあるのです。

株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。組織サーベイを用いた価値観分析や、人的資本開示を通じた採用ブランディング戦略についてご相談は、お気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

kotora

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コトラ(人的資本チーム)

経営戦略に連動した「動的な人材ポートフォリオ」の構築から、「採用」「育成」といった人材マネジメントの実践まで、人的資本経営を一気通貫で支援しています。

コンサルタント紹介

杉江 幸一郎
ディレクター ISO30414リードコンサルタント

東京大学経済学部経営学科卒。大手メーカー、通信事業者、IT企業など上場事業会社にて経営企画、事業戦略、新規事業立ち上げ等の責任者を歴任。上場企業取締役、CISO および ISO事務局等も担当。

コトラでは、ISO30414を始めとした人的資本経営のコンサルティングに従事。ISO30414リードコンサルタント。ESG情報開示研究会、人的資本経営コンソーシアム、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会員。
X(旧Twitter):@Kotora_cnsl


蘇木 亮太
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

同志社大学法学部卒。大手教育系企業でのコンサルタント経験を経て、金融系スタートアップに入社。 組織・人事企画チームに所属し、エンゲージメント向上施策やDE&I推進、研修開発、人事制度運用等を担当。

コトラでは、有価証券報告書・統合報告書における人的資本開示、ISO30414、人事組織コンサル等に従事。ISO30414リードコンサルタント資格/日本ディープラーニング協会G検定保有者。


大西裕也
リサーチャー兼コンサルタント

神戸大学大学院経済学研究科卒。教育経済学を専攻。

コトラでは、ISO30414認証取得支援及び人的資本開示動向のリサーチ、人事データ分析・レポート作成等に従事。
DX推進パスポート(G検定、データサイエンティスト検定、ITパスポート)、一種外務員資格取得者。


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