「なぜ、うちの評価は…」 社員の不満を納得に変える、人事制度改定の対話的アプローチ

制度改定が、エンゲージメント低下の引き金になっていませんか?

「新しい評価制度が導入されたが、評価基準が曖昧で納得できない」
「一方的に制度変更が通達され、会社への不信感が募った」
「改定の目的が分からず、ただ業務が煩雑になっただけだと感じている」

良かれと思って着手したはずの人事制度改定が、かえって従業員のエンゲージメントを蝕んでしまう。これは多くの企業で起こりうる、非常に深刻な問題です。優れた制度を設計しても、それが従業員に受け入れられなければ、計画倒れに終わってしまいます。

では、従業員の不満を「納得」に、そして「期待」へと変えるためには、何が必要なのでしょうか。その鍵は、客観的なデータに基づいて組織の状態を把握し、そこから「対話」を設計していくアプローチにあります。本コラムでは、人事制度改定を成功に導くための、データと対話に基づいた進め方について深く考察していきます。

「納得感の欠如」は価値観のズレのサイン

人事制度改定に際して従業員から不満が噴出する根本的な原因は、多くの場合、「会社が示したい方向性」と「従業員一人ひとりが大切にする価値観や期待」の間に生じたズレにあると考えられます。

例えば、会社側は「挑戦」や「成果」を重視する制度を導入しようとしても、従業員側が「安定」や「チームワーク」をより重要な価値観として持っていた場合、そこにギャップが生まれます。このギャップが、「評価に納得できない」「会社は自分たちのことを見てくれていない」といった不満や不信感の正体です。

この目に見えない「価値観のズレ」を放置したまま制度設計を進めても、関係者間のすれ違いは埋まりません。そこで重要になるのが、組織サーベイなどを活用して、組織と従業員の価値観を客観的に、そして定量的に可視化することです。

コトラがご支援する人事制度改定プロジェクトでは、まず組織サーベイを用いて、エンゲージメントの状態や従業員が何を重視している価値観を分析することから始めます。これは単なる不満調査ではありません。組織の健康状態を把握する「健康診断」であり、人事制度改定という「治療」方針を立てるための、不可欠な対話の出発点なのです。

エンゲージメントを高める「データと対話」のサイクル

客観的なデータによって組織の課題が明らかになったら、次はそのデータを基に対話のサイクルを回し、全社の納得感を醸成していきます。

ステップ1:サーベイによる現状の可視化と課題設定

まずは、組織サーベイを通じて、組織のリアルな姿をデータで直視します。

  • エンゲージメントスコアの分析:会社全体、部門別、役職・年齢層別などでエンゲージメントスコアを分析し、特に課題のある領域を特定します。
  • 価値観・期待の分析:従業員が仕事に何を求め、現行制度のどこに課題を感じているのかを分析します。例えば「成長機会の不足」がスコア低下の大きな要因である、といった具体的な課題仮説を立てます。

このデータ分析により、人事制度改定で取り組むべき優先課題が明確になり、その後の議論が具体的かつ建設的なものになります。

ステップ2:経営層・管理職との対話(課題の自分事化)

次に、分析結果を基に、まず経営層や管理職が課題を「自分事」として捉えるための対話の場を設けます。

  • ワークショップの実施:サーベイ結果を共有し、「なぜこの部署のエンゲージメントが低いのか」「この結果は、自社のどのような文化を反映しているのか」といった問いについて議論を深めます。
  • 改定目的の言語化:議論を通じて、人事制度改定で目指す姿(ビジョン)と、その目的を経営層や管理職自身の言葉で語れるようにします。これが、後の従業員説明における説得力の源泉となります。

データという共通言語があることで、感覚論に陥らず、本質的な議論を進めることが可能になります。

ステップ3:従業員との対話(双方向のコミュニケーション)

経営・管理職層の目線が揃ったら、いよいよ従業員との対話を通じて、全社的な納得感を醸成していきます。

この段階で最も重要なのは、双方向のコミュニケーションを意識的に設計することです。例えば、タウンホールミーティングのような場を設け、サーベイで明らかになった従業員の期待や不安に正面から応えつつ、会社が目指す方向性や人事制度改定の目的を丁寧に説明します。

また、対話の場は一方的な通達の場ではなく、質疑応答や意見交換を活発に行い、従業員の疑問や懸念をその場で解消する機会としなければなりません。集まった意見を真摯に受け止め、可能な限り制度設計に反映していく姿勢を示すことが、従業員の信頼と「自分たちも改定に参加している」という当事者意識を育む上で極めて重要です。

人事制度改定とは、組織の価値観をすり合わせるプロセス

人事制度改定は、単なる仕組みの変更ではありません。それは、組織サーベイという客観的なデータを活用して、これまで見えにくかった「企業のビジョン」と「従業員の価値観」のズレを可視化し、対話を通じてその距離を縮めていくプロセスそのものです。

このデータと対話のサイクルを丁寧に回し、組織の価値観をすり合わせていく地道な取り組みこそが、従業員のエンゲージメントを持続的に高め、変化に強い組織の土台を築きます。

株式会社コトラでは、組織サーベイを用いた価値観分析やエンゲージメント測定を通じて、貴社の人事制度改定プロセスにおける課題解決をサポートします。より具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。

コンサルタント紹介

杉江 幸一郎
ディレクター ISO30414リードコンサルタント

東京大学経済学部経営学科卒。大手メーカー、通信事業者、IT企業など上場事業会社にて経営企画、事業戦略、新規事業立ち上げ等の責任者を歴任。上場企業取締役、CISO および ISO事務局等も担当。

コトラでは、ISO30414を始めとした人的資本経営のコンサルティングに従事。ISO30414リードコンサルタント。ESG情報開示研究会、人的資本経営コンソーシアム、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会員。
X(旧Twitter):@Kotora_cnsl


蘇木 亮太
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

同志社大学法学部卒。大手教育系企業でのコンサルタント経験を経て、金融系スタートアップに入社。 組織・人事企画チームに所属し、エンゲージメント向上施策やDE&I推進、研修開発、人事制度運用等を担当。

コトラでは、有価証券報告書・統合報告書における人的資本開示、ISO30414、人事組織コンサル等に従事。ISO30414リードコンサルタント資格/日本ディープラーニング協会G検定保有者。


大西裕也
リサーチャー兼コンサルタント

神戸大学大学院経済学研究科卒。教育経済学を専攻。

コトラでは、ISO30414認証取得支援及び人的資本開示動向のリサーチ、人事データ分析・レポート作成等に従事。
DX推進パスポート(G検定、データサイエンティスト検定、ITパスポート)、一種外務員資格取得者。


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