サーベイ結果は宝の山 データ分析で切り拓く、従業員エンゲージメント向上施策の新次元

そのサーベイ、組織の「健康診断」で終わっていませんか?

「今年もエンゲージメントサーベイを実施した。全体のスコアは昨年とほぼ同じ。さて、具体的に何をしようか…」

定期的にサーベイを実施し、従業員エンゲージメントの定点観測をしているにもかかわらず、具体的なアクションに繋がらず、報告して終わりになっている。このような状況は決して珍しいことではありません。

サーベイは、あくまで組織の状態を可視化する「健康診断」に過ぎません。本当に重要なのは、その診断結果をどう解釈し、具体的な「処方箋」、すなわち実効性のある従業員エンゲージメント向上施策に繋げるかです。本コラムでは、サーベイデータを宝の山に変えるための分析の視点と、データドリブンな施策立案への道筋を解説します。

全体スコアの罠を超え、課題の解像度を上げる分析視点

サーベイ結果を「全体の平均点」でしか見ていないとすれば、それは貴重な情報の大部分を見過ごしていることになります。従業員エンゲージメント向上の第一歩は、漠然とした課題を具体的に特定し、打ち手の的を絞ることから始まります。

そのために有効なのが、データの「深掘り」と「構造化」です。

  • 属性別クロス集計で課題を特定する

総合点だけでなく、部署、役職、勤続年数、年代、性別といった属性別にスコアを分析します。例えば、「若手層では『成長実感』のスコアが低い」「特定の事業部で『上司との関係性』に課題がある」といった具体的な問題箇所が浮かび上がります。これにより、全社一律の施策ではなく、特定のターゲットに最適化されたアプローチが可能になります。

  • 相関分析でエンゲージメントの真のドライバーを見つける

「総合エンゲージメントスコア」と、その他の設問項目(「仕事のやりがい」「人間関係」「評価への納得度」など)との相関関係を分析します。これにより、「どの項目が、自社の従業員エンゲージメントに最も強く影響しているのか」という、施策の優先順位付けに不可欠な示唆が得られます。分析するまでは「コミュニケーション」が課題と考えていたものの、真の要因は「評価制度への不満」にあった、というケースも少なくありません。

コトラでは、こうした定量的なデータ分析に加え、「組織サーベイを用いた価値観分析」といったアプローチも重視しています。従業員が仕事に何を求め、どのような価値観を大切にしているのかを理解することは、エンゲージメントの根源に働きかける施策を企画する上で、極めて重要な視点になると考えられます。

分析からアクションへ:仮説検証サイクルを回す

データ分析によって課題の解像度が上がったら、次はいよいよアクションプランの策定です。ここで重要なのは、「分析して終わり」にせず、施策実行後の効果検証までを見据えたサイクルを設計することです。

1. データに基づき「仮説」を立てる

分析結果から、「もし~すれば、~という課題が改善され、エンゲージメントが向上するのではないか」という仮説を立てます。

(例)

  • 分析結果:若手層で「成長実感」のスコアが低く、総合エンゲージメントとの相関も高い。
  • 仮説:若手層に対し、キャリア開発を支援する仕組み(例:1on1でのキャリア面談の強化、メンター制度の導入)を提供すれば、成長実感が向上し、エンゲージメントが高まるのではないか。

2. アクションプランを策定し、スモールスタートで実行する

いきなり全社展開を目指すのではなく、まずは課題が顕著な部署や階層に絞って、パイロット的に施策を実行します。これにより、リスクを抑えながら施策の有効性を検証できます。

(例)

  • アクションプラン:特定の事業部の若手社員を対象に、3ヶ月間のメンター制度を試験導入する。1on1のガイドラインを見直し、キャリアに関する対話テーマを盛り込む。

3. 効果を測定し、学びを次に活かす

施策実行の前後で、関連するサーベイ項目(この場合は「成長実感」)の変化を測定します。パルスサーベイ(短期的に特定の項目を観測する調査)の活用も有効です。

期待通りの効果が見られたのか、あるいは新たな課題が見つかったのか。測定結果を基に、施策の改善や本格展開を検討します。このサイクルを回し続けることが、従業員エンゲージメントを持続的に向上させる鍵となります。

従業員との対話の鍵は「データ」にあり

エンゲージメントサーベイは、年に一度のイベントではありません。組織と従業員の状態を科学的に理解し、より良い関係性を築くための「対話の出発点」です。

サーベイデータを正しく分析し、課題の解像度を上げ、仮説検証のサイクルを回していくこと。このデータドリブンなアプローチこそが、漠然とした問題意識を具体的なアクションへと変え、従業員エンゲージメント向上施策を新たな次元へと引き上げると考えられます。

株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。組織サーベイの設計から高度なデータ分析、具体的なアクションプランの策定まで、一気通貫でご支援いたします。より具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。

コンサルタント紹介

杉江 幸一郎
ディレクター ISO30414リードコンサルタント

東京大学経済学部経営学科卒。大手メーカー、通信事業者、IT企業など上場事業会社にて経営企画、事業戦略、新規事業立ち上げ等の責任者を歴任。上場企業取締役、CISO および ISO事務局等も担当。

コトラでは、ISO30414を始めとした人的資本経営のコンサルティングに従事。ISO30414リードコンサルタント。ESG情報開示研究会、人的資本経営コンソーシアム、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会員。
X(旧Twitter):@Kotora_cnsl


蘇木 亮太
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

同志社大学法学部卒。大手教育系企業でのコンサルタント経験を経て、金融系スタートアップに入社。 組織・人事企画チームに所属し、エンゲージメント向上施策やDE&I推進、研修開発、人事制度運用等を担当。

コトラでは、有価証券報告書・統合報告書における人的資本開示、ISO30414、人事組織コンサル等に従事。ISO30414リードコンサルタント資格/日本ディープラーニング協会G検定保有者。


大西裕也
リサーチャー兼コンサルタント

神戸大学大学院経済学研究科卒。教育経済学を専攻。

コトラでは、ISO30414認証取得支援及び人的資本開示動向のリサーチ、人事データ分析・レポート作成等に従事。
DX推進パスポート(G検定、データサイエンティスト検定、ITパスポート)、一種外務員資格取得者。


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