その施策、本当に「次の一手」に繋がっていますか?
「従業員エンゲージメント向上のため、新たな人事施策を導入した。しかし、一時的な盛り上がりで終わり、現場の温度感は変わらない」
「サーベイを実施したものの、具体的な改善アクションに繋げられていない」
企業の経営者や人事責任者の皆様から、このようなお悩みを伺う機会が増えています。多くの企業が従業員エンゲージメントの重要性を認識し、様々な向上施策に取り組んでいる一方で、その効果を十分に実感できず、次の有効な一手を見出せずにいる状況がうかがえます。
なぜ、善意の施策が空回りしてしまうのでしょうか。それは、施策自体が目的化し、従業員エンゲージメント向上の本質、すなわち「個人の成長と組織の成長を結びつける」という視点が抜け落ちているからかもしれません。本コラムでは、改めてその本質に立ち返り、持続的に組織を活性化させるための考え方と、具体的なアクションを解説します。
エンゲージメント向上の核心は「成長ベクトルの同期」
従業員エンゲージメントが高い状態とは、単に「従業員が会社に満足している」状態を指すのではありません。企業が目指す方向(パーパスやビジョン)と、従業員一人ひとりの成長したい方向が一致し、互いに貢献し合っている状態こそが本質的な従業員エンゲージメントであると考えられます。
しかし、多くの現場では、以下のような課題が見られます。
- 企業のビジョンが現場に浸透していない:経営層が示す大きな目標と、従業員の日常業務との間に繋がりが見出せない。
- キャリアパスの不透明性:今の会社で働き続けても、自分が望む成長やキャリアを実現できるか不安を感じる。
- コミュニケーションの不足:上司が部下のキャリア志向や価値観を把握しておらず、適切な動機づけができていない。
これらの課題を放置したまま、福利厚生の充実やイベントの開催といった表層的な施策に終始しても、根本的な解決には至らない傾向があります。
コトラが重視するのは、企業の持続的な成長を支える「動的な人材ポートフォリオ」の視点です。事業戦略の変化に合わせて、必要な人材の要件は常に変化します。その変化に対応できるよう、従業員一人ひとりのスキルやキャリア志向を可視化し、成長を支援する仕組みを構築すること。これこそが、個と組織の成長ベクトルを同期させる鍵となります。(動的な人材ポートフォリオについては、以下のコラムをご参照ください。)
従業員エンゲージメントの向上は、この仕組みが機能した結果として表れる指標の一つと捉えることが重要です。
明日から始める「対話」と「小さな成功体験」
本質的なアプローチの重要性は理解できても、「具体的に何から始めればよいのか」という疑問が残るかもしれません。ここでは、読者の皆様が具体的な一歩を踏み出すための、実践的なアクションを2つ提示します。
1. 「現状把握」のための対話の質を高める
エンゲージメントサーベイのスコアだけを眺めていても、本質的な課題は見えてきません。重要なのは、その背景にある従業員の「生の声」です。
- 1on1ミーティングの目的を再設定する
進捗確認だけでなく、「個人の成長」や「キャリアの展望」について対話する時間を意図的に設けます。上司は「聴く」姿勢に徹し、部下の価値観や悩みを深く理解することを目指します。
- 部門横断での座談会を実施する
異なる部署の従業員が集まり、「自社の強み・弱み」や「働きがい」について意見交換する場を設けます。これにより、個々の課題だけでなく、組織全体の構造的な課題が浮かび上がることがあります。
2. 「小さな成功体験」を意図的に創出する
大規模な制度改革には時間がかかります。まずは、現場レベルで始められる改善活動から着手し、成功体験を積み重ねることが、変革への機運を高める上で効果的です。
- 業務プロセスの改善提案を奨励する
従業員からの小さな改善提案を歓迎し、良いアイデアは積極的に採用・評価する文化を醸成します。これにより、「自分の意見が組織を良くする」という実感が高まります。
- 称賛文化の仕組み化
サンクスカードやチャットツールでのリアクションなど、従業員同士が互いの貢献を気軽に称賛できる仕組みを導入します。これは、承認欲求を満たし、ポジティブな人間関係の構築に繋がります。
これらのアクションは、特別な予算や権限がなくても始められるものです。重要なのは、従業員エンゲージメント向上を「特別なイベント」ではなく「日常のマネジメントの一部」として捉え、継続的に取り組む姿勢です。
エンゲージメントは、持続的成長を支える経営基盤
本コラムでは、従業員エンゲージメント向上施策がなぜ形骸化しやすいのか、その背景にある課題と、解決に向けた本質的なアプローチを解説しました。
表面的な施策を繰り返すのではなく、企業の目指す方向と従業員の成長意欲をいかにして結びつけるか。この問いに向き合い、対話を通じて現状を把握し、現場での小さな成功体験を積み重ねていくこと。この地道な取り組みこそが真の従業員エンゲージメントを育み、ひいては企業の持続的な成長を実現する経営基盤となると考えられます。
株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。現状把握のための対話の設計や、エンゲージメントサーベイの結果に基づいた具体的なアクションプランの策定など、より具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。