なぜ、うちの会社は人が定着しないのか? 採用コストを根本から最適化するリテンションマネジメントのすすめ

見えないコストが経営を蝕む「早期離職」という課題

「ようやく採用できた期待の若手が、1年も経たずに辞めてしまった」
「採用を繰り返しても、なかなか組織が大きくならない。」

このようなお悩みは、多くの経営者や人事責任者にとって尽きることのない課題ではないでしょうか。私たちは、膨らみ続ける採用コストそのものに目を奪われがちです。しかし、本当に向き合うべきは、その背後にある「早期離職」という根源的な問題かもしれません。

一人の社員が離職すると、投下した採用コストは回収不能になるだけでなく、後任者を採用するための追加コスト、周囲の社員のモチベーション低下、ノウハウの喪失など、目に見えない多くの損失が発生します。本コラムでは、この構造的な問題を直視し、リテンション(人材定着)の向上こそが最も効果的な採用コスト最適化に繋がるという視点を提示します。

採用のゴールを「活躍・定着」に再設定する

採用コストの最適化を本気で考えるならば、採用活動のゴールを「内定承諾」から「入社後の活躍・定着」へとシフトさせることが不可欠です。この視点の転換が、採用プロセス全体を見直すきっかけとなります。

早期離職の主な原因は、候補者と企業の「ミスマッチ」に集約されると考えられます。このミスマッチは、大きく分けて2つの側面があります。

スキル・ミスマッチ

候補者が保有するスキルと、業務で実際に求められるスキルが合致していないケースです。入社後のパフォーマンス不振や本人の成長実感の阻害に繋がります。

バリュー・ミスマッチ

候補者が大切にする価値観や働き方と、企業の文化や風土が合致していないケースです。人間関係の悩みやエンゲージメントの低下を引き起こします。

私たちコトラは、採用段階でこの2つのミスマッチをいかに防ぐかがリテンション向上の鍵を握ると考えています。例えばスキル・ミスマッチを防ぐためには、単なる職務経歴書の確認だけでなく、具体的な業務を想定したワークサンプルテストや、スキルベースでの構造化面接が有効です。

一方で、バリュー・ミスマッチを防ぐためには、組織サーベイなどを通じて自社の価値観を客観的に可視化し、面接の場で候補者の価値観とすり合わせる対話が重要になります。「私たちは何を大切にしている組織なのか」を誠実に伝えることが、結果として自社にフィットする人材を惹きつけ、定着率を高めることに繋がるのです。これこそが、未来の損失を防ぐ、本質的な採用コスト最適化と言えるでしょう。

定着率を高め、採用コストを抑制する3つの視点

採用後の定着率を高めることは、一朝一夕には実現できません。しかし、日々の積み重ねが大きな差を生みます。ここでは、具体的な3つの視点をご紹介します。

視点1:オンボーディング・プロセスの設計

入社後、特に最初の90日間は、社員が組織に馴染み、早期に戦力化するための極めて重要な期間です。この期間に孤独を感じさせないよう、体系的なオンボーディング・プログラムを設計することが求められます。

  • 業務のサポート:メンター制度の導入や、分かりやすい業務マニュアルの整備。
  • 人間関係のサポート:定期的な1on1ミーティングの実施や、チーム内での歓迎ランチの設定。
  • 文化への適応サポート:企業理念や行動指針を伝える場の設定。

丁寧なオンボーディングは、新入社員の不安を解消し、エンゲージメントを高める上で絶大な効果を発揮します。

視点2:キャリア開発機会の提供

社員が「この会社で働き続ければ、成長できる」と感じられる環境は、リテンションの強力なドライバーとなります。上司との定期的なキャリア面談の機会を設けたり、社内公募制度や研修プログラムを充実させたりすることで、社員の成長意欲に応えることが重要です。個人の成長と会社の成長がリンクしている状態を創り出すことが、結果として採用コスト最適化に繋がります。

視点3:エンゲージメントの定点観測と改善

社員が会社に対してどれくらいの愛着や貢献意欲を持っているかを定期的に測定することも有効です。組織サーベイなどを活用し、部署ごとや属性ごとの課題を特定し、改善のアクションプランに繋げます。例えば、「上司との関係性」に課題が見られる部署にはマネジメント研修を実施する、といった具体的な打ち手が可能になります。

人材が定着し、育つ文化こそが最大の資産

採用コストの最適化という課題は、採用活動の入り口だけを見ていては決して解決しません。むしろ、出口である「定着」に目を向けることで、初めて本質的な打ち手が見えてきます。社員一人ひとりが安心して、やりがいを持って働き続けられる環境を整えること。それこそが、無駄な採用コストの発生を未然に防ぎ、企業の競争力を内側から高めていく最も確実な道筋です。

株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。エンゲージメントサーベイを用いた組織分析や、定着率向上のための具体的な施策立案についてご相談は、お気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

kotora

コトラ(人的資本チーム)

経営戦略に連動した「動的な人材ポートフォリオ」の構築から、「採用」「育成」といった人材マネジメントの実践まで、人的資本経営を一気通貫で支援しています。

コンサルタント紹介

杉江 幸一郎
ディレクター ISO30414リードコンサルタント

東京大学経済学部経営学科卒。大手メーカー、通信事業者、IT企業など上場事業会社にて経営企画、事業戦略、新規事業立ち上げ等の責任者を歴任。上場企業取締役、CISO および ISO事務局等も担当。

コトラでは、ISO30414を始めとした人的資本経営のコンサルティングに従事。ISO30414リードコンサルタント。ESG情報開示研究会、人的資本経営コンソーシアム、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会員。
X(旧Twitter):@Kotora_cnsl

蘇木 亮太
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

同志社大学法学部卒。大手教育系企業でのコンサルタント経験を経て、金融系スタートアップに入社。 組織・人事企画チームに所属し、エンゲージメント向上施策やDE&I推進、研修開発、人事制度運用等を担当。

コトラでは、有価証券報告書・統合報告書における人的資本開示、ISO30414、人事組織コンサル等に従事。ISO30414リードコンサルタント資格/日本ディープラーニング協会G検定保有者。


大西裕也
リサーチャー兼コンサルタント

神戸大学大学院経済学研究科卒。教育経済学を専攻。

コトラでは、ISO30414認証取得支援及び人的資本開示動向のリサーチ、人事データ分析・レポート作成等に従事。
DX推進パスポート(G検定、データサイエンティスト検定、ITパスポート)、一種外務員資格取得者。


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