その「素晴らしい理念」、なぜ現場に浸透しないのでしょうか?
企業の経営者や人事責任者の皆様は、自社の未来を示すために、多くの時間と情熱をかけて企業理念や行動指針(バリュー)を策定されたことでしょう。しかし、その素晴らしい言葉が、社員の日々の行動にまで落とし込まれず、壁に飾られた「お題目」になってしまっている…という現実に、もどかしさを感じてはいないでしょうか。
理念浸透のために研修を実施しても効果が上がらない場合、その根深い原因は、実は組織文化の“最小単位”である「チーム」の状態にあるのかもしれません。組織文化とは、経営層からのトップダウンだけで作られるものではなく、現場のチームの中で、日々のコミュニケーションや意思決定を通じて形成されていくものです。
本コラムでは、チームビルディングを「組織文化を醸成するための、最も効果的で本質的なアプローチ」として捉え直します。単発のチームビルディング研修で終わらせず、理念やバリューを体現する自律的なチームをいかにして育み、組織文化として根付かせていくか。そのための具体的な考え方と実践のヒントを、深く掘り下げていきます。
組織文化は「チームの日常」の積み重ねでできている
組織文化とは、しばしば「その組織における当たり前」や「暗黙のルール」と表現されます。そして、その「当たり前」が生まれる場所こそが、日々の業務が行われる「チーム」に他なりません。
例えば、企業が「挑戦を推奨する」というバリューを掲げていても、現場のチームで失敗が許されない空気が「当たり前」なら、挑戦する文化は根付きません。
組織文化とは、壮大な概念であると同時に、極めて具体的な日々の言動の積み重ねによって形成されるのです。その言動の質を方向付け、望ましい文化の土壌を育む活動こそが、本質的なチームビルディングなのです。チームビルディング研修は、この「当たり前」を再構築するための絶好の機会となります。
人事制度とチームビルディングの「一貫性」
私たちコトラは、組織文化を本気で根付かせるためには、チームビルディングの取り組みと「人事制度(特に評価・報酬)」との間に、強力な一貫性を持たせることが不可欠であると考えています。人は評価される行動をより強く意識し、実践する傾向があるからです。
企業が「チームワーク」を重要視すると言いながら、人事評価が個人の業績のみであれば、社員はチームでの協力よりも個人の成果を優先するでしょう。
チームビルディングで目指すチームの姿と、人事制度が後押しする行動が完全に一致したとき、社員は安心して理念に基づいた行動を取ることができます。「良いチームを作ること」が、自らの評価や成長にも繋がるという確信が、文化醸成の強力なドライバーとなるのです。
組織文化を醸成するためのアクションプラン
組織文化がチームの日常から生まれるとすれば、その日常を最も左右するのはリーダーの言動です。リーダー自身が理念やバリューを深く理解し、それを体現する存在でなければ、文化が現場に浸透することはありません。ここでは、リーダーが実践すべき「対話の場」の設計について、3つの具体的なヒントをご紹介します。
ヒント1:日々の業務と理念を「接続する」問いかけを習慣化する
リーダーは、日々の業務における意思決定の場面で、意識的に理念やバリューに言及し、それを判断基準として使う姿勢を見せます。
- プロジェクト計画時
「このスケジュールは、我々の『スピード』というバリューを体現できているか?もっと早く価値を届ける方法はないだろうか?」 - トラブル発生時
「お客様に対して、我々の『誠実さ』というバリューに沿った対応とは、具体的にどのような行動だろうか?」 - メンバーの提案に対して
「そのアイデアは、我々の『創造への挑戦』というバリューに繋がる素晴らしい視点だ。実現するために何が必要か、一緒に考えよう」
このような対話を繰り返すことで、理念が「壁の飾り」ではなく「仕事の道具」であるという認識がチーム内に浸透していきます。
ヒント2:バリューを体現した「物語」を称賛し、共有する場を設ける
週次ミーティングや月次報告会などで、理念やバリューを体現した行動や経験を「物語」として共有するアジェンダを設けます。
- バリュー実践事例の共有会(ケーススタディ形式)
チーム内で最近の業務から、バリューを体現した好事例をケーススタディとして共有します。
「あるお客様からの難しいご要望に対し、『顧客第一』のバリューに基づき、このように考え、行動した結果、感謝の言葉をいただけた」といったように、具体的な状況、行動、結果をセットで語り合うことが効果的です。 - 失敗からの学びの共有
リーダー自らが「『挑戦』のバリューを意識して試したが、上手くいかなかった。しかし、そこから〇〇という学びがあった」とオープンに語ることで、失敗を許容し、学びを推奨する文化が育まれます。 - 称賛とフィードバックの時間を設ける
事例共有の後には、必ず他のメンバーからの称賛やフィードバックの時間を設け、ポジティブな言葉がけを促します。
ヒント3:意思決定の「判断基準」としてバリューを組み込む
文化が本当に根付いているかは、日々の小さな意思決定から、チームの方向性を左右する大きな意思決定の場面でこそ試されます。バリューを公式な「判断基準」としてチームのプロセスに組み込むことが有効です。
- 提案フォーマットへの反映
チーム内で何か新しい施策を提案する際、その企画書のフォーマットに「この施策は、どのバリューに、どのように貢献するか」という欄を設けます。これにより、提案者は常にバリューを意識するようになります。 - 「バリュー・チェック」の実施
複数の選択肢で意見が割れた際に、「一度、我々のバリューに立ち返って考えてみよう」と議論を仕切り直し、各選択肢がどのバリューを優先するものなのかを話し合います。これにより、個人的な好みや声の大きさではなく、共通の価値観に基づいた意思決定が可能になります。 - 議事録への明記
重要な意思決定の議事録には、結論だけでなく、「〇〇というバリューを重視した結果、この決定に至った」という理由を明記します。これにより、決定の背景が共有され、チームの納得感を高めることができます。
このように、バリューを「思考のチェックリスト」として扱うことで、文化はスローガンから、日々の業務を動かす実践的なOSへと進化します。
強いチームが、自律的に組織文化を未来へ紡ぐ
本コラムでは、多くの企業が課題とする「理念やバリューの浸透」に対して、組織文化の最小単位である「チーム」に着目し、チームビルディングをその本質的な解決策として位置づけるアプローチを論じてきました。
組織文化は、トップダウンで与えられるだけでは決して根付きません。現場のチームの中で、リーダーとメンバーが日々の対話を通じて理念を咀嚼し、具体的な行動へと翻訳し、その積み重ねが評価される仕組みがあること。この継続的な営みこそが、生きた文化を醸成する近道です。
株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。組織文化の醸成を目的としたチームビルディング研修や、理念と連動した人事制度の設計支援など、より具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。




