「隣の席の〇〇さん」、今どんな仕事をしていますか?
リモートワークが普及し、多くの企業がそのメリットを享受する一方、経営者や人事担当者の皆様は、かつてない種類の課題に直面しているのではないでしょうか。それは、「互いの仕事が、驚くほど見えなくなった」という現実です。
オフィスにいれば、隣の席の同僚が難易度の高い顧客対応に奮闘している姿や、黙々と複雑なデータ分析に没頭している様子が自然と目に入ってきました。しかし、リモート環境では、画面の向こう側にいるメンバーが、どのようなスキルを駆使し、どうチームに貢献しているのかを具体的に知る機会はほとんどありません。
本コラムでは、リモート時代のチームビルディングにおける本質的な課題を「プロフェッショナルな信頼関係の希薄化」と捉え、その解決策を提示します。雑談の機会が減ることを嘆くのではなく、むしろ「個々のスキル」を意図的に可視化し、互いの専門性への尊敬に基づいた、新しい時代の信頼関係を築く。そのための具体的なアプローチとアクションプランを、人的資本経営の視点から深く論じます。
リモートワークで求められる信頼の「二層構造」
チームにおける信頼には、大きく分けて二つの層があると考えられます。一つは、雑談やランチなどを通じて育まれる「社会的な信頼」。もう一つは、相手の能力や専門性、仕事への姿勢に対する尊敬から生まれる「プロフェッショナルな信頼」です。
オフィスワークの環境では、この二つの信頼は自然に混ざり合い、相互に補強し合いながらチームの基盤を形成していました。しかし、リモートワークでは、偶発的なコミュニケーションが激減するため、「社会的な信頼」の醸成は格段に難しくなります。
ここで重要になるのが、発想の転換です。社会的な信頼の不足を補おうとオンラインでのレクリエーションに固執するのではなく、もう一つの柱である「プロフェッショナルな信頼」を、これまで以上に意図的かつ強固に構築すること。これこそが、場所に依存しない、自律的で生産性の高いリモートチームを創るための鍵となるのです。
相手の人柄が深く見えなくても、「この人は、この領域のプロフェッショナルだ」という確信があれば、安心して仕事を任せ、頼ることができます。
スキルベース・アプローチで築く、リモート時代の新たな信頼関係
私たちコトラは、このプロフェッショナルな信頼関係を構築する上で、「スキルベース」のアプローチが極めて有効であると考えています。これは、チームメンバー一人ひとりが持つスキルや専門知識、実績を意図的に「可視化」し、それを基点としたチーム運営を行うアプローチです。
スキルの可視化は、リモートチームに3つの決定的なメリットをもたらすと考えられます。
- 尊敬の醸成
「この人は〇〇のプロだ」という客観的な事実が、メンバー間の尊敬の念を育みます。 - 効率的な連携
「誰に何を聞けばよいか」が一目瞭然になり、無駄な確認作業や手探りの相談が減り、コラボレーションが円滑化します。 - 貢献の正当な評価
アウトプットだけでなく、「〇〇のスキルを活かしてプロジェクトに貢献した」というプロセスが見えやすくなり、納得感のある評価に繋がります。
このように、個々の能力をオープンにし、互いにリスペクトし合う土壌を作ること。これこそ、コトラが提唱する人的資本経営の思想にも通じる、リモート時代の戦略的なチームビルディングの核心です。
プロフェッショナルな信頼を育むためのアクションプラン
では、具体的にどのようにしてスキルを可視化し、プロフェッショナルな信頼関係を育んでいけばよいのでしょうか。明日からでも実践できる、具体的なアクションプランを3つのステップでご紹介します。
ステップ1:チームの「スキルマップ」を共創する
まず、チームメンバーが互いの能力を認識するための共通の基盤を作ります。オンラインでのワークショップ形式で、和やかな雰囲気の中で実施するのが効果的です。
<具体的な作成方法>
- Googleスプレッドシートや社内Wikiなど、チーム全員がいつでも編集・閲覧できるツールを用意します。
- ワークショップでは、各メンバーが以下の項目について書き出し、順番に発表していきます。
- 公式スキル
職務経歴や資格など、客観的に示せる専門性。 - 実践スキル
「〇〇というツールの高度な操作」「データに基づいた課題特定」「人を惹きつける資料デザイン」など、実務で発揮している得意技。 - 貢献したい領域
「若手メンバーの育成に貢献したい」「業務プロセスの改善提案をしたい」など、意欲のある分野。 - 今、学んでいること
現在学習中のスキルや知識。
- 公式スキル
作成したスキルマップは、チームの共有フォルダの目立つ場所に保管し、新しいメンバーが加わった際には必ず更新・共有するプロセスを定着させます。
ステップ2:スキルを基点としたコミュニケーションを活性化させる
スキルマップを「作って終わり」にせず、日々のコミュニケーションの中で積極的に活用する仕組みを導入します。具体的な仕組みの例としては、以下のようなものがあげられます。
- ナレッジシェアリング会
週に一度15分、チームの定例ミーティング内で、持ち回りで誰かがスキルマップに書いた自身の「実践スキル」について、具体的な事例を交えて紹介します。
これにより、スキルの内容がより深く理解され、発表者への尊敬も生まれます。 - スキルタグ付き相談チャンネル
Slackなどのチャットツールに相談用チャンネルを作成し、質問を投稿する際に、「#データ分析」「#法務確認」のように、求めるスキルをハッシュタグで付けるルールにします。
これにより、タグに関連するスキルを持つメンバーが気づきやすくなり、的確なサポートが生まれやすくなります。 - スキルベースの1on1
通常の1on1に加えて、「あなたの〇〇というスキルについて、今後のプロジェクトでどう活かせるか一緒に考えたい」「私が学んでいるこのスキルについて、アドバイスがほしい」といった、スキルをテーマにした対話の機会を設けます。
ステップ3:スキルによる貢献を「見える化」し、称賛し合う
メンバーがスキルを発揮してチームに貢献した際に、その行動が即座に、そして具体的に称賛される文化を醸成します。
- 「貢献の具体化」を意識した称賛
「〇〇さんの的確な要件定義スキルのおかげで、プロジェクトの手戻りがなくなり、本当に助かりました!」のように、どのスキルが、どのように役立ったかを具体的に伝えます。 - チャットでのオープンな称賛
上記のような具体的な称賛を、個人間のDMではなく、チーム全員が見えるチャンネルで行うことで、称賛された本人だけでなく、周囲のメンバーのモチベーション向上にも繋がります。 - プロジェクトの振り返りでの活用
プロジェクト完了時の振り返りで、「今回の成功の鍵となった、誰かの隠れたファインプレー(スキル発揮)は?」という問いを立て、貢献を再発見し、称賛し合う時間を作ります。
これらのアクションを通じて、チームメンバーは互いを「単なる同僚」から、「尊敬すべきプロフェッショナル集団の一員」として認識するようになります。
プロフェッショナルな信頼が、自律的で強いリモートチームを創る
本コラムでは、リモートワークにおけるチームビルディングの新たなアプローチとして、社会的な信頼関係の補完に留まらず、「プロフェッショナルな信頼関係」を意図的に構築することの重要性を論じてきました。
リモートワークにおける真の課題は、コミュニケーションの量が減ること以上に、互いの貢献や専門性が見えなくなることにあります。個々の「スキル」を可視化し、それを基点としたコミュニケーションと称賛の文化を意図的に育むこと。この地道な取り組みこそが、物理的な距離を超えた強固な信頼を築き、メンバー一人ひとりが安心して能力を発揮できる、自律的で強いリモートチームを創り上げるでしょう。
株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。スキルベースのチームビルディングや、リモート環境下でのコミュニケーション設計など、より具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。