戦略人事を阻む「多忙」の正体
「戦略人事をやりたいが、日々の業務に追われて時間がない」 この悩みを抱える人事担当者のスケジュールを紐解くと、ある共通の「時間泥棒」の存在に気づきます。それは「採用オペレーション」です。
- 候補者との面接日程調整メールの往復
- エージェントへの求人票送付と、紹介者への合否連絡
- スカウトメールの文面作成と送信作業
- ATS(採用管理システム)へのデータ入力
これらは一つひとつを見れば「数分の作業」ですが、採用目標人数が増えれば、その数は膨大なものになります。さらに厄介なのは、これらが「割り込みタスク」であることです。戦略の企画書を書いている最中に、候補者から日程変更のメールが来る。これに対応しているうちに集中力が切れ、気づけば夕方になっている。これが、多くの人事現場のリアルでしょう。
メールの返信くらい、自分たちでできる。 そう軽く考えがちですが、実はこの「単純作業による思考の分断」こそが、人事担当者から「まとまった思考時間」を奪い、戦略業務への移行を阻む最大の要因なのです。
本コラムでは、「RPO(Recruitment Process Outsourcing)」を活用して「作業」を手放し、人事が本来注力すべき「戦略業務」へとリソースをシフトさせるための具体的な手順について解説します。
なぜ、「自分たちでやる」ことに限界があるのか
多くの企業が、「採用実務は社内で回せる」と考えています。しかし、採用競争が激化し、実務の難易度が「質」と「スピード」の両面で跳ね上がっている現在、採用実務のすべてを内製化するという判断が、結果として「採用機会の損失」を招いているケースが増えています。
なぜ内製では限界があるのでしょうか。採用業務の構造を分解していくと、外部の力を借りるべき理由が明確に見えてきます。
業務を「コア」と「ノンコア」に分ける
まず、採用業務を以下の2つに分類します。
- コア業務(人事がやるべき仕事)
- 採用戦略・要件定義の策定
- 候補者の見極め(面接)
- 候補者の惹きつけ
- 社内現場との調整・要件すり合わせ
- ノンコア業務(プロセス)
- 母集団形成(スカウト送信、エージェント対応)
- 書類選考(スクリーニング)
- 日程調整・合否連絡
- 数値管理・レポート作成
戦略人事を目指すなら、人事は「コア業務」に100%の時間を割くべきです。しかし、現実は「ノンコア業務」に多くの時間を奪われています。ここを外部化できるかどうかが勝負の分かれ目です。
「一見できそう」な実務の落とし穴に気づく
ここで、「ノンコア業務くらい、自分たちか派遣スタッフで対応できる」という反論が生まれます。しかし、ここには大きな落とし穴があります。
- 日程調整の「スピード」
優秀な候補者は、複数社の選考を並行しています。日程調整の返信が半日遅れるだけで、他社に先に面接を入れられ、辞退されるリスクがあります。土日や夜間も含めた「即レス」体制を、社内リソースだけで構築するのは困難です。 - スカウトの「専門性」
ダイレクトリクルーティングは、単にテンプレートを送る作業ではありません。候補者のレジュメを読み込み、個別にカスタマイズした文面を送らなければ開封すらされません。これには高い専門性と、膨大な工数が必要です。 - エージェントの「コントロール」
複数のエージェントに対し、定期的に電話やメールで状況を確認し、自社の優先順位を上げてもらう働きかけ(マインドシェアの獲得)は、高度な営業活動であり、片手間でできることではありません。
つまり、これらは「誰でもできる作業」ではなく、「プロが専任で行わなければ成果が出ない高度な実務」なのです。
RPOを「パートナー」として導入する
そこで有効なのが、RPO(採用代行)の活用です。 RPOは単なる事務代行ではなく、採用のプロフェッショナルがチームを組み、貴社の採用実務を丸ごと、あるいは部分的に請け負うサービスです。
RPOを導入することで、以下のような変化が起きます。
- スピードの劇的向上
候補者からの連絡に対し、専任チームが即座に対応するため、選考リードタイムが短縮され、内定承諾率が上がります。 - スカウト返信率の向上
熟練のリクルーターが文面を作成・送信するため、同じデータベースを使っても、母集団形成の数が変わります。 - データの可視化
「どの経路からの応募が、どの選考段階で歩留まりしているか」といったデータが正確に蓄積され、次の戦略立案に活かせます。
「自分たちでもできること」を外部に出すのは、一見するとコストの増加(無駄遣い)に見えるかもしれません。 しかし、内製では「60点(遅い・漏れる)」が限界の業務を、プロに任せて「90点(速い・正確)」に引き上げることは、単なるコストではなく立派な「戦略的投資」と言えるでしょう。
空いた時間で、人事は「クロージング」に特化する
RPOによってオペレーションから解放された人事は、何をするべきか。 それは、社員にしかできない「心の通うコミュニケーション」です。
- 現場マネージャーとの深い対話
「どんなスキルが必要か」だけでなく、「どんな志向性の人がチームに合うか」を深くすり合わせる。 - 候補者へのアトラクト(動機付け)
面接以外の場で候補者とカジュアルに話し、不安を解消し、自社の魅力を熱意を持って伝える。 - 内定者フォロー
内定後も定期的に連絡を取り、入社までのモチベーションを維持する。
これらは、外部のパートナーではなく、会社の当事者である社員が語るからこそ、真の説得力を持つ領域です。そして、最終的な入社の意思決定を左右するのは、条件面だけでなく、こうした「誰に、どのくらいの熱量で必要とされているか」という情緒的な要素であることが少なくありません。
「プロセス」はプロに任せ、人事は「候補者との対話」に集中する。これが、採用難易度が高い現代において、成果を最大化するためのポイントです。
時間を買う決断が、組織を強くする
RPO導入の目的は、単なる「楽をするため」の業務委託ではありません。 限られた人事のリソースを、「誰でもできる作業(日程調整や入力)」から、「社員にしかできないコア業務(候補者との対話や組織課題の解決)」へシフトさせるための経営判断です。
「メールの返信」に追われる日々を終わらせ、「候補者の本音」や「現場の課題」に向き合う時間を確保する。 そうして初めて、人事は管理部門の枠を超え、事業成長に貢献する「戦略パートナー」へと進化できるのです。
株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。より具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。




