その採用KPI、採用成果に紐づいていますか?
企業の経営者や人事責任者の皆様は、採用活動の成果をどのように測定されているでしょうか。
「今年の採用目標人数を達成した」
「採用コストを目標内に収めた」
これらはもちろん重要な管理指標です。しかし、その達成が、自社の中長期的な経営目標の達成にどう貢献しているのか、明確に説明することは可能でしょうか。
もし、採用は採用、経営は経営として分離してしまっている、あるいは、設定している採用KPIが採用部門内での管理指標に留まっているとしたら、採用活動はコストセンターとしての域を出ず、経営戦略の実行をドライブする戦略的投資とはなっていない可能性があります。
本コラムでは、採用活動を経営戦略と直結させ、事業貢献を可視化するための戦略的採用KPIの設計と思考プロセスについて、人的資本経営の観点から考察します。
なぜ従来の採用KPIでは不十分なのか
多くの企業で用いられてきた従来の採用KPIは、効率性や量に偏重する傾向がありました。
<従来の採用KPIの例>
- 採用人数(目標達成率)
- 採用単価(コスト)
- 内定承諾率
- 応募から内定までのリードタイム
これらの指標は、採用活動のプロセス効率を測る上では有効です。しかし、これらはあくまで採用活動の完遂をゴールとしており、事業への貢献という視点が欠落しているケースが少なくありません。
例えば、採用単価を抑えることを最優先した結果、入社後のミスマッチが多発し、早期離職が増加してしまう。教育コストや再採用コストを考慮すると、企業全体としてはむしろマイナスになっている可能性も否定できません。
人的資本経営における採用KPIの役割
人的資本経営とは、人材をコストではなく資本として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上を目指す経営手法です。
この文脈において、採用活動は、企業の未来を創る資本を獲得するための、極めて重要な投資活動と位置づけられます。
したがって、これからの採用KPIに求められるのは、採用活動がどれだけ効率的に行われたか(Efficiency)だけではなく、その投資(採用)がどれだけの価値(Value)を生み出したか、あるいは生み出す可能性を高めたかを測定することです。
そのためには、採用KPIが経営戦略や事業戦略と明確に連動している必要があります。自社の経営戦略を実現するために、どのような人材が、いつまでに、どれだけ必要なのか。その戦略的な要員計画こそが、全ての採用KPIの出発点となると考えられます。
また、単に採用するだけでなく、獲得した人材が組織に定着し、活躍できる状態(=高いエンゲージメント)までを見据えた指標設計が重要です。採用は人材ポートフォリオを戦略的に構築するプロセスの一部であり、その入り口の質を担保する指標が採用KPIであるべきです。
戦略的「採用KPI」を設計する実践的アプローチ
では、具体的にどのようにして経営戦略と連動した採用KPIを設計すればよいでしょうか。ここでは、その実践的なステップと視点をご紹介します。
ステップ1:経営戦略と必要人材の定義
必要人材の定義が全ての起点です。まずは自社の中長期経営計画や事業戦略を再確認します。「新規事業をグローバル展開する」、「DXを推進し、既存事業の生産性を倍増させる」といった戦略目標に対し、それを実現するために、どのようなスキル、経験、マインドセットを持つ人材が、どの部門に、いつまでに必要なのかを明確にします。
この必要人材の定義が曖昧なままでは、戦略的な採用KPIは設定できません。
ステップ2:量・質・効率のバランスを考慮したKPIの設定
必要人材が定義できたら、それを獲得するための採用KPIを設定します。ここで重要なのは、量、質、効率の3つの側面をバランス良く網羅することです。
- 量に関する採用KPI(戦略的充足)
- 戦略的重要ポジション充足率
経営戦略上、特に重要と定義されたポジション(例:DXリーダー、新規事業責任者)が、計画通りに採用できているか。 - 必要スキル保有者採用数
定義したスキル要件を満たす人材を何名採用できたか。
- 戦略的重要ポジション充足率
- 質に関する採用KPI(活躍・定着)
- 入社後パフォーマンス評価
採用時に期待したパフォーマンスと、入社後(例:1年後)の実際のパフォーマンス評価との相関。 - 入社後1年以内離職率(特に戦略採用枠)
重要なポジションで採用した人材が定着しているか。 - 新入社員エンゲージメントスコア
入社後のオンボーディングが機能し、組織への適応が進んでいるか。
- 入社後パフォーマンス評価
- 効率に関する採用KPI(プロセス最適化)
- チャネル別採用決定率
どの採用チャネルが、定義した質の高い人材獲得に最も貢献しているか。 - 採用プロセス(選考)通過率
採用プロセスにおいて、どこにボトルネックがあるか。
- チャネル別採用決定率
従来の採用KPIが内定応諾率で終わっていたとすれば、戦略的な採用KPIは入社後の活躍までを追跡します。これにより、採用活動の真の成果が可視化されるようになります。
ステップ3:採用プロセスの見直しとデータ測定
戦略的な採用KPIを設定したら、それを達成・測定できる採用プロセスへと見直す必要があります。
例えば、スキル保有者の採用を採用KPIに置くのであれば、面接手法を従来の経験ベースのものから、スキルを客観的に評価できる構造化面接や実技テストに変更する必要があるかもしれません。また、入社後パフォーマンスを採用KPIとして測定するには、人事評価データやエンゲージメントサーベイのデータと、採用時のデータを連携させる仕組みが求められます。
これらの採用KPIをデータとして蓄積し、定期的に分析・評価することで、採用活動は勘と経験から脱却し、データドリブンな戦略的機能へと進化していくと考えられます。
採用KPIの見直しが、企業変革の第一歩となる
本コラムでは、経営戦略と連動した戦略的採用KPIの重要性と、その設計アプローチについて考察しました。
従来の量やコスト中心の採用KPIから、質や事業貢献を測る採用KPIへと移行することは、容易なことではないかもしれません。しかし、この見直しこそが、採用活動を単なる補充業務から、企業の持続的成長を牽引する戦略的投資へと変革する第一歩となります。
自社の採用KPIが、未来の経営目標達成にどれだけ貢献しているか。今一度、見直してみてはいかがでしょうか。
株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。戦略的な採用KPIの設計や、採用プロセスの最適化に関する具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。




