「学び直し」が掛け声倒れになっていませんか?
「最新の学習プラットフォームを導入したのに、なぜか活用されない」
「リスキリングの重要性を説いても、従業員に『やらされ感』が漂っている」
「新しいスキルを学んだ社員がいても、それを活かす風土がない」
リスキリングを推進する上で、多くの人事責任者が直面する根深い課題。それは、施策そのものの設計以上に、「組織文化」という見えない壁に起因することが少なくありません。どんなに優れた制度やツールを用意しても、従業員が自律的に学び、挑戦することを歓迎する文化がなければ、リスキリングは決して組織に根付きません。
本コラムでは、リスキリングを一過性のイベントで終わらせず、持続的な企業成長のエンジンとするための「組織文化の醸成」について、その本質と具体的なアプローチを深掘りします。
スキル習得を支える組織文化の重要性
リスキリングの施策が効果的に機能するためには、その基盤となる組織文化が極めて重要です。従業員が自律的に学び、新たな挑戦を歓迎するような文化がなければ、いかに優れた制度を導入してもスキルは定着しにくいと考えられます。では、リスキリングを支える組織文化とは、具体的に何を指すのでしょうか。
心理的安全性の確保:「失敗」を許容する文化
リスキリングは、未知の領域への挑戦を伴います。新しいスキルを学び、それを実務で試す過程では、当然ながら失敗や間違いはつきものです。もし、一度の失敗で厳しい叱責を受けたり、人事評価でマイナスにされたりするような組織であれば、従業員は萎縮し、挑戦を避けるようになるでしょう。
学習効果の高い組織に共通しているのは、「失敗は学習の機会である」という価値観が浸透している点です。リーダーが自らの失敗談をオープンに語る、挑戦したプロセスそのものを称賛するなど、従業員が安心してリスクを取れる環境、すなわち「心理的安全性」の高い職場であることが、リスキリングを促進する大前提となります。
自律性の尊重:「やらされ感」から「学びたい」へ
リスキリングを成功させるには、従業員一人ひとりの内発的な動機付け、すなわち「学びたい」という意欲を引き出すことが重要です。会社から一方的に「これを学びなさい」と指示するトップダウン型のアプローチだけでは、「やらされ感」が募るばかりです。
企業の方向性を示しつつも、学習内容や方法については従業員に一定の選択肢を与えることが有効です。自身のキャリアプランと向き合い、必要なスキルを主体的に選択できる環境が、学習への当事者意識を高めます。
エンゲージメント向上施策としてのリスキリング
私たちは、リスキリングを単なる人材育成施策としてではなく、「従業員エンゲージメントを高めるための重要な投資」と捉えるべきだと考えています。
従業員が「会社は自分の成長を支援してくれている」と感じることは、組織への帰属意識や貢献意欲を大きく向上させます。リスキリングの機会提供は、まさにその具体的なメッセージとなります。
重要なのは、施策を一方的に提供するだけでなく、定期的な1on1ミーティングなどを通じて、上司が部下のキャリア志向に耳を傾け、その実現に向けた学習を共に考える「対話」の場を設けることです。このような対話を通じて、個人は自らの成長と会社の成長を重ね合わせることができ、エンゲージメントと学習意欲の好循環が生まれます。組織サーベイを用いて従業員の価値観やエンゲージメントの状態を定期的に観測し、対話の質を高めていくアプローチも極めて有効です。
「学び続ける文化」を醸成する具体的な仕組み
文化は、日々の具体的な行動や仕組みの積み重ねによって形作られます。ここでは、自律的な学びを促進・支援するための具体的な仕組みづくりのヒントを3つご紹介します。
仕組み1:学習の成果を「見える化」し、共有する場
学習の成果やプロセスを、組織内で共有する仕組みを作りましょう。
- 社内SNSやポータルでの活動報告
「〇〇の資格を取得しました」「△△の研修で学んだことを業務にこう活かしました」といった小さな成功体験を気軽に発信できる場を設けます。 - 実践報告会の開催
リスキリングを通じて新しいプロジェクトに挑戦したチームや個人が、その経験や学びを発表する機会を定期的に設けます。
他者の挑戦を知ることが、他の従業員への刺激となり、組織全体の学習意欲を底上げする効果が期待できます。
仕組み2:「教える側」へのインセンティブ
従業員が持つ知識やスキルを、他の従業員に共有することを奨励する仕組みも有効です。
例えば「社内講師制度」を策定し、特定のスキルを持つ従業員が講師となり、勉強会を開催することを評価制度に組み込みます。「教える」ことは、自身の知識を体系的に整理し、理解を深める絶好の機会でもあり、講師自身の成長にも繋がります。
仕組み3:経営層からの継続的なメッセージ発信
組織文化の醸成において、経営層の役割は絶大です。全社朝礼や社内報など、あらゆる機会を通じて、経営トップが「なぜ今、学び続けることが重要なのか」「挑戦する人材を全力で支援する」というメッセージを一貫して発信し続けることが、文化変革の強力な駆動力となります。
リスキリングの成否は、組織の「あり方」そのものを問う
リスキリングは、単に新しいスキルを従業員に与える活動ではありません。それは、変化を恐れず、常に学び、成長し続ける組織へと自らを変革していく、ダイナミックなプロセスです。その成否は、テクニックやツール以前に、従業員一人ひとりの挑戦を心から称賛し、支えることができるかという、組織の「あり方」そのものにかかっていると言えるでしょう。
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