中小企業のための現実的リスキリング リソースを強みに変える発想法

中堅・中小企業のための現実的なリスキリング戦略

「リスキリングの重要性は分かるが、当社のような規模では…」
「DX人材の育成と言われても、何から手をつけていいか見当もつかない」
「研修に割く費用も時間も、十分には確保できない」

中堅・中小企業の経営者、人事担当者の皆様から、こうした切実な声をお聞きすることがあります。先進的な大企業の取り組みを目にするたび、自社とのギャップに、ある種の諦めを感じてしまうこともあるかもしれません。

しかし、リスキリングは、持続的成長を目指す全ての企業にとって、実行可能かつ不可欠な戦略です。本コラムでは、リソースが限られる中堅・中小企業が、地に足の着いた成果を出すための、現実的なリスキリングのアプローチについて解説します。

発想の転換:中堅・中小企業だからこそ活かせる「強み」

大企業と同じ土俵で戦う必要はありません。中堅・中小企業には、リスキリングを推進する上で有利に働く、特有の「強み」が存在します。

強み1:経営との近さ

経営者の意思決定が、迅速に現場に伝わりやすいのが大きな強みです。経営トップがリスキリングの重要性を理解し、本気でコミットすれば、全社的な機運を醸成しやすくなります。なぜこのリスキリングが必要なのか、その目的を社長自らの言葉で語ることが、従業員の心を動かす強力なメッセージとなります。

強み2:部門間の連携のしやすさ

組織構造が比較的シンプルなため、部門の壁を越えた連携が容易です。例えば、営業担当者が開発部門の勉強会に参加したり、バックオフィス部門の社員がマーケティングのプロジェクトに部分的に関わったりと、柔軟な人材交流を通じてスキルを越境させることが可能です。

強み3:実践機会の豊富さ

一人の従業員が多様な役割を担うことが多いのも特徴です。これは、新しく学んだスキルをすぐに実践で試す機会が豊富にあることを意味します。座学で学んだ知識を、翌日の業務で早速活かしてみる。この「学習」と「実践」の高速サイクルこそ、スキル定着の最短ルートと言えるでしょう。

地に足の着いたリスキリングの進め方

では、具体的にどのように進めればよいのでしょうか。特別なことをする必要はありません。まずは自社の規模にあった「スモールスタート」から始めることが成功の鍵です。

ステップ1:「解決したい経営課題」から逆算する

DXやAIといった流行りのキーワードに飛びつくのではなく、まずは自社の足元の経営課題を直視することから始めます。

  • 製造業のケース:生産性の課題
    • 課題:「手作業でのデータ入力や集計に時間がかかり、残業が常態化している」
    • リスキリングの方向性:ExcelマクロやRPAの基礎スキルを、担当部署の数名に習得してもらう。
  • サービス業のケース:販路拡大の課題
    • 課題:「既存顧客への依存度が高く、新規顧客の開拓が進んでいない」
    • リスキリングの方向性:Webサイトの更新やSNS運用ができる人材を育成し、デジタルマーケティングの第一歩を踏み出す。

このように、解決したい課題と必要なスキルを直結させることが、投資対効果の高いリスキリングに繋がります。

OJTを戦略的に活用する視点

中堅・中小企業のリスキリングにおいては、日々の業務の中で行われるOJT(On-the-Job Training)を、より戦略的に活用することが有効なアプローチの一つと考えられます。

従来のOJTが「既存業務のやり方を教える」ことに主眼が置かれがちだったのに対し、これを「新しい業務のやり方を、実践の中で共に創り出す」場として捉え直すことができます。

例えば、RPAを導入する際に、外部の研修に参加した従業員が中心となり、他のメンバーと共に実際の業務を自動化するプロジェクトを立ち上げます。このプロセス自体が、効果的なリスキリングの機会となり得ます。既存業務の効率化という直接的なメリットを生みながら、同時に組織全体のスキルアップに貢献する、一石二鳥のアプローチと言えるでしょう。

ステップ2:外部リソースを賢く活用する

全てを自社で賄う必要はありません。公的な支援制度や安価で質の高いオンライン学習サービスを積極的に活用しましょう。

  • 公的支援の活用
    国や地方自治体が提供する、リスキリングに関する補助金や助成金制度は、費用面の負担を大きく軽減してくれます。常に最新の情報をチェックし、活用できるものはないか検討することが重要です。
  • オンライン学習プラットフォーム
    月額数千円から利用できる質の高いサービスが増えています。特定のスキルに特化したコースも多く、必要な知識をピンポイントで学ぶことが可能です。

小さな成功体験の積み重ねが、企業を変える力になる

中堅・中小企業におけるリスキリングは、壮大な計画から始まるものではありません。目の前の課題を解決するための一歩から始まります。一つの業務が効率化され、一人の従業員が新しいスキルで自信を持つ。その小さな成功体験の積み重ねが、やがて「学び続ける組織」という強固な企業文化を育み、企業の持続的な成長を支える原動力となるのです。

リソースの制約を嘆くのではなく、自社の強みを最大限に活かし、現実的な一歩を踏み出すこと。それが、未来を切り拓く最も確実な道であると私たちは考えています。

株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。貴社の実情に合わせた現実的な要員計画の策定から、費用対効果の高い人材開発・研修の企画まで、まずはお気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

kotora

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コトラ(人的資本チーム)

経営戦略に連動した「動的な人材ポートフォリオ」の構築から、「採用」「育成」といった人材マネジメントの実践まで、人的資本経営を一気通貫で支援しています。

コンサルタント紹介

杉江 幸一郎
ディレクター ISO30414リードコンサルタント

東京大学経済学部経営学科卒。大手メーカー、通信事業者、IT企業など上場事業会社にて経営企画、事業戦略、新規事業立ち上げ等の責任者を歴任。上場企業取締役、CISO および ISO事務局等も担当。

コトラでは、ISO30414を始めとした人的資本経営のコンサルティングに従事。ISO30414リードコンサルタント。ESG情報開示研究会、人的資本経営コンソーシアム、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会員。
X(旧Twitter):@Kotora_cnsl


蘇木 亮太
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

同志社大学法学部卒。大手教育系企業でのコンサルタント経験を経て、金融系スタートアップに入社。 組織・人事企画チームに所属し、エンゲージメント向上施策やDE&I推進、研修開発、人事制度運用等を担当。

コトラでは、有価証券報告書・統合報告書における人的資本開示、ISO30414、人事組織コンサル等に従事。ISO30414リードコンサルタント資格/日本ディープラーニング協会G検定保有者。


大西裕也
リサーチャー兼コンサルタント

神戸大学大学院経済学研究科卒。教育経済学を専攻。

コトラでは、ISO30414認証取得支援及び人的資本開示動向のリサーチ、人事データ分析・レポート作成等に従事。
DX推進パスポート(G検定、データサイエンティスト検定、ITパスポート)、一種外務員資格取得者。


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