採用コストの「削減」から「投資対効果の最大化」へ 持続的成長を牽引する戦略的人材獲得とは

その採用コスト、本当に「高い」のでしょうか?

「優秀な人材を獲得したいが、採用コストは年々膨れ上がるばかりだ」
「経営層からはコスト削減を求められるが、質を担保する方法がわからない」

企業の経営者や人事責任者の皆様から、このような切実な悩みを伺う機会が少なくありません。採用市場の競争が激化する中で、採用コストの管理は極めて重要な経営課題です。しかし、その採用コストは本当に「高すぎる」のでしょうか。

短期的な視点でコストの絶対額だけを見てしまうと、事業成長に必要な投資まで削ってしまいかねません。本質的に問うべきは、「投下した採用コストに対して、どれだけのリターンが期待できるか」という投資対効果(ROI)の視点です。本コラムでは、採用コストの最適化を「単純な削減」ではなく「投資対効果の最大化」と捉え直し、企業の持続的成長を牽引する戦略的なアプローチを解説します。

採用ROI最大化の鍵は「経営戦略との連動」

採用コストの最適化を目指す上で最も重要なのは、採用活動を経営戦略や事業戦略と緊密に連動させることです。場当たり的な採用を繰り返していては、いつまで経ってもコストと成果のバランスは安定しません。

コトラでは、まず自社の「あるべき人材ポートフォリオ」の定義から始めることを推奨しています。人材ポートフォリオとは、事業戦略を実現するために、どのようなスキル、経験、役職の人材が、どの部署に、何人必要かを示すものです。これは一度作って終わりの「静的な」ポートフォリオではなく、市場の変化や事業の進捗に合わせて柔軟に見直す「動的な」ポートフォリオであるべきです。

この「あるべき人材ポートフォリオ」と現状の人員構成を比較することで、初めて採用すべき人材の「質」と「量」が明確になります。このプロセスを経ることで、以下のようなメリットが生まれます。

  • 採用の優先順位が明確になる:全社的な視点から、どのポジションの採用が最も投資対効果が高いかを判断できます。
  • ミスマッチの防止:事業貢献度が明確なため、候補者に対して役割や期待値を具体的に伝えることができ、入社後のミスマッチを防ぎます。
  • 経営層への説明責任:なぜこのポジションに、これだけのコストをかけて採用する必要があるのかを、事業戦略と紐づけて論理的に説明できます。

このように、精緻な要員計画に基づいて採用活動を行うことこそ、結果として採用コスト最適化に繋がるのです。闇雲に広告費を投下するのではなく、戦略的に重要なポジションに資源を集中投下することで、採用ROIは飛躍的に高まると考えられます。

採用ROIを高めるための3つの実践的アクション

では、具体的に採用ROIを高めるためには、どのような一歩を踏み出せばよいのでしょうか。ここでは、明日からでも着手できる3つのアクションをご紹介します。

アクション1:採用単価の「内訳」を徹底的に可視化する

まず、現状の採用コストが「何に」「いくら」かかっているのかを正確に把握することから始めます。媒体掲載費や人材紹介手数料といった外部コストだけでなく、面接官の人件費や採用担当者の工数といった内部コストも忘れずに算出することが重要です。チャネル別、職種別にコストを可視化することで、費用対効果の低い領域や、改善のボトルネックが見えてきます。

アクション2:選考プロセスの費用対効果を見直す

例えば、一次面接の通過率が極端に低い場合、書類選考の基準が曖昧であったり、求人情報が候補者に正しく魅力を伝えられていなかったりする可能性があります。構造化面接(あらかじめ評価基準と質問項目を定め、全候補者に同じ質問をする面接手法)を導入するなど、選考プロセスそのものの質を高めることで、面接官の工数削減とミスマッチ防止の両立が期待できます。これもまた、採用コスト最適化の重要な一環です。

アクション3:採用から定着までを「一連の投資」と捉える

採用は、人材が入社したら終わりではありません。入社後のオンボーディングや活躍支援までを含めて、初めて投資が実を結びます。早期離職は、それまでにかかった採用コストを全て無に帰すだけでなく、追加の採用コストや組織への悪影響といった見えざるコストを発生させます。エンゲージメントサーベイなどを活用して入社後の状況を把握し、定着率を高める施策を講じることが、長期的な視点での採用コスト最適化に不可欠です。

戦略的人事が導く、企業の持続的成長

採用コスト最適化とは、単に経費を削減する活動ではありません。それは、企業の未来を創るための「戦略的投資」をいかに効果的に行うか、という経営そのものに近い問いです。経営戦略と連動した精緻な要員計画のもと、データに基づいた客観的な判断を重ねていく。このプロセスこそが、採用のROIを最大化し、企業の持続的な成長を支える人材基盤を構築する唯一の道筋と言えるでしょう。

「採用」という一点だけでなく、人材ポートフォリオの構築から選考プロセスの見直し、そして入社後の定着まで、一気通貫で捉え直すことが、これからの時代に求められる人的資本経営のアプローチです。

株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。採用ROIの考え方や、具体的な要員計画の策定についてご相談は、お気軽にお問い合わせください。

コンサルタント紹介

杉江 幸一郎
ディレクター ISO30414リードコンサルタント

東京大学経済学部経営学科卒。大手メーカー、通信事業者、IT企業など上場事業会社にて経営企画、事業戦略、新規事業立ち上げ等の責任者を歴任。上場企業取締役、CISO および ISO事務局等も担当。

コトラでは、ISO30414を始めとした人的資本経営のコンサルティングに従事。ISO30414リードコンサルタント。ESG情報開示研究会、人的資本経営コンソーシアム、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会員。
X(旧Twitter):@Kotora_cnsl


蘇木 亮太
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

同志社大学法学部卒。大手教育系企業でのコンサルタント経験を経て、金融系スタートアップに入社。 組織・人事企画チームに所属し、エンゲージメント向上施策やDE&I推進、研修開発、人事制度運用等を担当。

コトラでは、有価証券報告書・統合報告書における人的資本開示、ISO30414、人事組織コンサル等に従事。ISO30414リードコンサルタント資格/日本ディープラーニング協会G検定保有者。


大西裕也
リサーチャー兼コンサルタント

神戸大学大学院経済学研究科卒。教育経済学を専攻。

コトラでは、ISO30414認証取得支援及び人的資本開示動向のリサーチ、人事データ分析・レポート作成等に従事。
DX推進パスポート(G検定、データサイエンティスト検定、ITパスポート)、一種外務員資格取得者。


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