業績向上とエンゲージメント、二兎を追うパフォーマンスマネジメントの秘訣

「業績か、エンゲージメントか」という誤った問い

「厳しい目標を課して業績を追求すれば、社員は疲弊し、エンゲージメントは低下してしまう」
「エンゲージメント向上のために働きやすさを重視すると、組織の規律が緩み、業績が伸び悩む」

経営者や人事担当者の皆様にとって、業績向上と従業員エンゲージメントは、時にトレードオフの関係にあるように感じられるかもしれません。しかし、この二つを対立概念として捉えること自体が、人的資本経営における一つの落とし穴であると私たちコトラは考えています。

真に生産性の高い組織とは、社員が自らの仕事に誇りとやりがいを感じ、自律的に組織の成功に貢献したいと願う、つまりエンゲージメントが高い組織であるという傾向があります。問題の本質は、業績とエンゲージメントのどちらを優先するかではなく、いかにして両者を同時に高めていくか、という点にあるのです。その鍵を握るのが、パフォーマンスマネジメントの在り方です。

「管理のための管理」から「成長と貢献のための支援」へ

従来のパフォーマンスマネジメントは、しばしば「業績目標の達成度を測り、評価する」という管理的な側面に偏りがちでした。このようなアプローチは、社員に「監視されている」「評価されている」というプレッシャーを与え、自律的な行動や挑戦を抑制してしまう可能性があります。結果として、エンゲージメントは低下し、指示待ちの姿勢が蔓延することで、中長期的な業績停滞を招くことにもなりかねません。

業績とエンゲージメントを両立させるためのパフォーマンスマネジメントの本質は、その目的を「管理」から「支援」へと転換することにあります。すなわち、社員一人ひとりが持つ能力を最大限に引き出し、その成長を支援することで、結果として組織全体のパフォーマンス向上に繋げるというアプローチです。

このアプローチの実現には、個々の社員が何を大切にし、何に動機付けられるのかを深く理解することが不可欠です。社員が「会社は自分の成長を本気で考えてくれている」と感じる時、エンゲージメントとパフォーマンスの好循環が生まれ始めると考えられます。

エンゲージメントを高めるための実践的アプローチ

社員の成長を支援し、エンゲージメントを高めるパフォーマンスマネジメントを実践するため、ここでは3つのアプローチをご紹介します。

アプローチ1:「やらされ感」を生まない、成長支援型の目標設定

目標が「自分ごと」になった時、エンゲージメントは飛躍的に高まります。そのための仕組みづくりが重要です。

  • キャリア対話との接続を義務化する
    期初の目標設定面談の前に、必ずキャリアについて対話する機会を設けることをお勧めします。本人が中長期的に目指す姿(Will)を上司が理解した上で、会社の期待(Must)と接続させることで、目標への納得感は格段に向上します。
  • 日々の業務で「ストレッチ」を意識させる
    目標達成だけでなく、「その業務を通じてどんな新しいスキルを身につけるか」という「学習目標」を加え、それを支援することが上司の役割であることを明確にします。少し背伸びした「ストレッチアサインメント」を意識的に与えることで、日々の業務が成長の機会に変わります。

アプローチ2:強みを活かし、成長を実感できる機会の創出

人は、自身の強みを認識し、それを発揮できる環境で輝きます。その機会を意図的に作り出すことが求められます。

  • 強みを可視化し、共通言語にする
    360度評価等のアセスメントツールを活用し、本人と上司、チームメンバーが互いの強みを理解する場を設けることは有効です。これにより、個々の強みを活かした業務分担や、弱みを補い合うチームビルディングが可能になります。
  • 「承認」の仕組みをゲーム化する
    「サンクスカード」や社内SNSでのピアボーナス(従業員同士が感謝と共に少額のインセンティブを送り合う仕組み)などを導入し、日々の貢献や良い行動が可視化され、称賛される仕組みを作ることで、承認欲求が満たされ、モチベーション向上に繋がります。

アプローチ3:心理的安全性を確保した、質の高い対話

エンゲージメントの土台となる信頼関係は、質の高い対話の積み重ねによって築かれます。

その際、コーチングのフレームワーク、例えば「GROWモデル(Goal:目標、Reality:現状、Options:選択肢、Will:意志)」を意識するだけで、対話の質は変わります。「目標は?(G)」「そのために今できていることは?(R)」「他にどんなやり方がある?(O)」「まず何から始める?(W)」という流れで質問することで、部下の自律的な思考と行動を促すことができます。

業績とエンゲージメントは、成長の両輪

業績向上とエンゲージメントの追求は、どちらか一方を選ぶものではなく、企業の持続的成長における両輪と言えるでしょう。社員の成長と幸福を本気で願うパフォーマンスマネジメントの実践こそが、この両輪を力強く前進させる唯一の方法です。「この会社で成長したい」という社員一人ひとりの想いが、企業の最も強力な競争優位性となることは間違いありません。

株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。エンゲージメントサーベイの結果を活かしたパフォーマンスマネジメントの改善など、より具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

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コトラ(人的資本チーム)

経営戦略に連動した「動的な人材ポートフォリオ」の構築から、「採用」「育成」といった人材マネジメントの実践まで、人的資本経営を一気通貫で支援しています。

コンサルタント紹介

杉江 幸一郎
ディレクター ISO30414リードコンサルタント

東京大学経済学部経営学科卒。大手メーカー、通信事業者、IT企業など上場事業会社にて経営企画、事業戦略、新規事業立ち上げ等の責任者を歴任。上場企業取締役、CISO および ISO事務局等も担当。

コトラでは、ISO30414を始めとした人的資本経営のコンサルティングに従事。ISO30414リードコンサルタント。ESG情報開示研究会、人的資本経営コンソーシアム、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会員。
X(旧Twitter):@Kotora_cnsl


蘇木 亮太
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

同志社大学法学部卒。大手教育系企業でのコンサルタント経験を経て、金融系スタートアップに入社。 組織・人事企画チームに所属し、エンゲージメント向上施策やDE&I推進、研修開発、人事制度運用等を担当。

コトラでは、有価証券報告書・統合報告書における人的資本開示、ISO30414、人事組織コンサル等に従事。ISO30414リードコンサルタント資格/日本ディープラーニング協会G検定保有者。


大西裕也
リサーチャー兼コンサルタント

神戸大学大学院経済学研究科卒。教育経済学を専攻。

コトラでは、ISO30414認証取得支援及び人的資本開示動向のリサーチ、人事データ分析・レポート作成等に従事。
DX推進パスポート(G検定、データサイエンティスト検定、ITパスポート)、一種外務員資格取得者。


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