なぜ管理職は疲弊するのか? エンゲージメントを高める管理職研修の着眼点

チームの停滞感、その原因は「管理職の隠れた疲弊」ではありませんか?

「最近、あのチームのパフォーマンスが伸び悩んでいる」
「期待していた若手社員から、突然の離職の申し出があった」

経営者や人事責任者の皆様にとって、このような事態は頭の痛い問題でしょう。その背景に、現場の要であるはずの管理職が、見えない悲鳴を上げているケースは少なくありません。業績と部下育成という二重のプレッシャー、多様化する価値観への対応、そして自身のプレイング業務…。多くの管理職が、その重責から心身をすり減らしています。

ここで決して見過ごしてはならないのが、この「管理職自身のエンゲージメント」です。管理職の疲弊は、もはや個人の問題ではありません。それは、チーム全体の生産性を蝕み、組織の持続可能性をも揺るがしかねない、重大な経営リスクなのです。

本コラムでは、管理職を「育成する側」から「まず支援されるべき存在」として捉え直し、彼らのエンゲージメントとウェルビーイングを高めるための、新しい管理職研修の視点について提言します。

なぜ管理職の疲弊は「静かな経営リスク」なのか

管理職のエンゲージメント低下が経営リスクである理由は、その影響が本人に留まらず、水面下で組織全体へと静かに、しかし確実に広がっていくからです。具体的には、以下のような連鎖的な機能不全を引き起こすと考えられます。

エンゲージメントの「逆流」現象:チーム全体の活力低下

従業員のエンゲージメントに最も影響を与えるのは、直属の上司である管理職です。その管理職自身が仕事への情熱や誇りを失い、疲弊した姿を見せていると、そのネガティブな空気は瞬く間にチーム全体に伝播します。これは、エンゲージメントが部下から上司へではなく、上司から部下へと「逆流」する現象とも言えます。

結果として、チーム全体の士気が下がり、創造性や挑戦意欲が失われ、パフォーマンスの停滞に直結します。

人材育成の機能不全と、若手・中堅層の離職

疲弊した管理職は、自身の業務で手一杯になり、部下一人ひとりの成長に目を配る精神的な余裕を失います。

そのため、質の高い1on1の実施や、キャリアに関する相談への対応、適切なフィードバックといった、本来果たすべき人材育成の役割が機能不全に陥ります。さらに、若手や中堅社員は、疲弊した上司の姿を見て、「この会社で働き続けても、自分の将来はこうなるのか」とキャリアへの希望を失い、優秀な人材ほど早期の離職を決断する傾向があります。

変革のボトルネック化:経営と現場の断絶

経営層が新たな戦略や方針を打ち出しても、それを現場に浸透させ、実行を牽引するのは管理職の役割です。しかし、心身に余裕のない管理職は、変革に伴う負荷を前向きに受け止めることができません。

経営層からのメッセージを自分の言葉で部下に語るエネルギーはなく、ただ右から左へ通達するだけの「伝言役」に留まるか、ひどい場合には変革への抵抗勢力となってしまうことさえあります。結果として、管理職層が変革のボトルネックとなり、企業全体の成長を阻害するのです。

「与える」研修から「満たす」研修へ:3つの実践的アプローチ

この経営リスクを回避するためには、管理職を「部下に与える側」と見るだけでなく、まず彼ら自身の心身を「満たす」という視点が必要です。管理職研修の中に、以下の3つのアプローチを組み込むことが有効です。

アプローチ1:セルフケアを「必須スキル」として教える

管理職は、まず自分自身の心身の健康を保つ術を知る必要があります。過度なストレスやバーンアウトを未然に防ぐための知識とスキルを、管理職研修の正式なプログラムとして提供します。

  • ストレスマネジメント研修の導入
    自身のストレスの兆候に早期に気づき、科学的根拠に基づいた対処法を学ぶ機会を提供します。例えば、思考の癖を修正する「認知行動療法」の基本を学ぶセッションや、短時間で心身をリフレッシュさせる「5分間マインドフルネス」の実践などが有効です。
  • 休息を促すルール作り
    会社として、深夜や休日には業務連絡を控えるルールを明確化するなど、管理職が休息を取りやすい環境を整備する姿勢を示すことも重要です。

アプローチ2:「管理職の孤独」を解消する仕組みを作る

管理職は、経営層にも部下にも相談しにくい悩みを抱え、組織内で「孤独」に陥りがちです。この孤独感を和らげ、悩みを共有できる場を意図的に創出します。

  • 管理職同士のピアサポートの場
    管理職研修の中に、同じ立場の管理職同士が、日々のマネジメントにおけるリアルな悩み(例:パフォーマンスの低い部下への対応、自身のキャリアへの不安など)を、安全な場で共有し、互いにアドバイスし合う時間を十分に確保します。
  • メンター制度の拡充
    新任管理職だけでなく、経験豊富な管理職に対しても、他部署の上位役職者などをメンターとしてマッチングします。定期的なメンタリングを通じて、客観的な視点からの助言を得る機会を提供します。

アプローチ3:会社からの「サポート体制」を明確に示し、利用を促す

管理職が一人で全ての責任を抱え込まないように、会社としてどのようなサポート体制があるのかを明確に伝え、利用しやすい雰囲気を作ることが大切です。

  • 「上司の上司」の役割を定義する
    管理職の上司(部長クラスなど)に対して、「部下である管理職の良き相談相手となり、彼らのウェルビーイングに責任を持つ」という役割を明確に伝えます。管理職が受ける1on1の質を高めることも重要です。
  • 人事部による定期的なヒアリング
    人事部が、全ての管理職と定期的に面談する機会を設けます。「何か困っていることはないか」「会社のサポートで必要なものは何か」を能動的にヒアリングし、組織的な課題解決に繋げます。

管理職のエンゲージメントこそが、最強の組織資本である

本コラムの冒頭で提示した、チームのパフォーマンス停滞や若手の離職といった問題。その根源には、組織の要である管理職の疲弊という、見過ごされがちな経営リスクが横たわっている可能性があります。

管理職は、組織の成長を牽引するエンジンですが、同時に、最もケアが必要な存在でもあります。彼らに過度な負担を強いるのではなく、そのエンゲージメントとウェルビーイングを組織全体で支える文化を醸成すること。管理職研修の目的を、単なるスキル付与から、管理職自身の心身を満たすことへとシフトさせること。

それこそが、管理職の疲弊というリスクを回避し、巡り巡って従業員全体のエンゲージメントを高め、最強の組織を創り上げるための、最も確実で戦略的な「投資」と言えるでしょう。

株式会社コトラでは、組織サーベイを用いた価値観分析を通じて管理職層の課題を可視化し、エンゲージメント向上に繋がる管理職研修の企画・立案をご支援します。より具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

kotora

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コトラ(人的資本チーム)

経営戦略に連動した「動的な人材ポートフォリオ」の構築から、「採用」「育成」といった人材マネジメントの実践まで、人的資本経営を一気通貫で支援しています。

コンサルタント紹介

杉江 幸一郎
ディレクター ISO30414リードコンサルタント

東京大学経済学部経営学科卒。大手メーカー、通信事業者、IT企業など上場事業会社にて経営企画、事業戦略、新規事業立ち上げ等の責任者を歴任。上場企業取締役、CISO および ISO事務局等も担当。

コトラでは、ISO30414を始めとした人的資本経営のコンサルティングに従事。ISO30414リードコンサルタント。ESG情報開示研究会、人的資本経営コンソーシアム、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会員。

X(旧Twitter):@Kotora_cnsl


蘇木 亮太
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

同志社大学法学部卒。大手教育系企業でのコンサルタント経験を経て、金融系スタートアップに入社。 組織・人事企画チームに所属し、エンゲージメント向上施策やDE&I推進、研修開発、人事制度運用等を担当。

コトラでは、有価証券報告書・統合報告書における人的資本開示、ISO30414、人事組織コンサル等に従事。ISO30414リードコンサルタント資格/日本ディープラーニング協会G検定保有者。


大西 裕也
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

神戸大学大学院経済学研究科卒。教育経済学を専攻。

コトラでは、ISO30414認証取得支援及び人的資本開示動向のリサーチ、人事データ分析・レポート作成等に従事。

DX推進パスポート(G検定、データサイエンティスト検定、ITパスポート)、一種外務員資格取得者。


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