「効果がない」で終わらせない 次世代リーダーを育てる管理職研修の新常識

多額の投資をした管理職研修、なぜ現場で活かされないのか?

次世代リーダーを育成するために、高額な費用を投じて管理職研修を実施した。しかし、受講者の行動は何も変わらず、現場の課題も解決されないまま…。多くの経営者や人事担当者の方々が、このようなジレンマを抱えているのではないでしょうか。

熱心に設計されたプログラム、著名な講師、そして参加者の意欲。ピースは揃っているはずなのに、なぜ研修は「やりっぱなし」で終わってしまう傾向があるのでしょうか。それは、研修を単発の「イベント」として捉え、その前後にあるべき重要なプロセスが抜け落ちているからかもしれません。

本コラムでは、多くの企業が見過ごしがちな、管理職研修の効果を最大化するための本質的な考え方と、組織の持続的な成長に繋げるための具体的な仕組みづくりについて、人的資本経営の視点から深く掘り下げていきます。効果的な管理職研修とは何か、その答えを探っていきましょう。

研修を「点」でなく「線」で捉える:戦略的人材育成への転換

管理職研修が形骸化する最大の原因は、それが組織全体の戦略と結びついていないことに起因すると考えられます。個々の管理職が断片的なスキルを学んでも、組織が目指す方向や、他の人事施策と連動していなければ、実践の場で活かすことは困難です。

研修の目的を「人材ポートフォリオ戦略」と同期させる

まず問われるべきは、「この管理職研修を通じて、どのような人材を育成し、将来的にどのような組織状態を実現したいのか」という根源的な問いです。これは、貴社の「人材ポートフォリオ戦略」そのものと言えるでしょう。

例えば、新規事業の創出を加速させたいのであれば、管理職には不確実性の高い状況下で意思決定できるスキルや、多様なメンバーをまとめ上げるリーダーシップが求められます。一方で、既存事業の生産性向上が急務であれば、業務プロセスの改善スキルや、部下のエンゲージメントを高めるためのコーチングスキルが重要になるかもしれません。

このように、企業の事業戦略から逆算して、あるべき管理職像と必要なスキルセットを定義することが、効果的な管理職研修の第一歩です。研修は、この戦略を実現するための一つの重要な「戦術」として位置づけられるべきなのです。

組織サーベイで育成の「的」を絞る

ここで重要になるのが、現状の組織課題を客観的に把握することです。組織サーベイの結果を詳細に分析することで、例えば「上司との関係」や「成長機会」といった項目別のエンゲージメントスコアから、管理職のマネジメントにおける具体的な課題や、従業員が感じている組織風土の傾向を読み解くことが可能です。

例えば、サーベイの結果、特定の部門で「上司の支援が不足している」という傾向が見られたとします。その場合、管理職研修のプログラムに、部下の成長を支援するための具体的なコーチングスキルの習得を組み込むことで、研修が単なる知識習得の場に留まらず、現場のエンゲージメント向上という組織課題の解決に直接的に貢献する機会となり得ます。

このように、データに基づいて育成の「的」を絞り込むことで、管理職研修の投資対効果は飛躍的に高まると考えられます。個人のスキルアップに留まらず、組織開発の文脈で管理職研修を捉え直すことが、これからの時代には不可欠です。

行動変容を促すための具体的な「仕掛け」づくり

研修の効果を最大化するには、研修そのものの内容(点)だけでなく、研修の前・中・後を繋ぐ一連のプロセス(線)として設計することが極めて重要です。ここでは、受講者の行動変容を促すための具体的なアクションをご紹介します。

研修「前」:期待をすり合わせ、目的を自分ゴト化する

研修の成果は、受講者が研修に臨む姿勢によって大きく左右されます。やらされ感を払拭し、主体性を引き出すための準備が不可欠です。

  • 経営層からのメッセージ発信
    なぜ今、管理職研修を行うのか。会社として管理職に何を期待しているのか。経営トップ自らの言葉で、その重要性と期待を力強く伝えることが有効です。
  • 上司・本人・人事による三者面談
    受講者の直属の上司を巻き込み、「研修で何を学んできてほしいか」「それを現場でどう活かしてほしいか」を具体的に伝えます。本人も自身の課題と研修内容を結びつけ、目的を「自分ゴト化」する貴重な機会となります。

研修「中」:学びを知識で終わらせない実践的なプログラム

研修中は、一方的なインプットに終始しない工夫が求められます。

  • アクションラーニングの導入
    受講者が実際に直面している現場の課題(例:チームの生産性向上、若手の育成など)をテーマに設定します。グループで議論し、解決策を検討するプロセスを通じて、学んだ理論を実践に結びつける力を養います。
  • リフレクション(内省)の時間を確保
    セッションの合間や一日の終わりに、学んだこと、感じたこと、そして現場でどう活かすかを一人で静かに振り返る時間を設けます。これにより、学びが深く定着し、行動変容への意識が高まります。

研修「後」:現場での実践を支え、定着させる仕組み

最も重要なのが、研修後のフォローアップです。学びを一過性のものにせず、日常業務に根付かせるための仕組みを構築します。

  • 「実践計画書」の作成と上司への共有
    研修の最後に、学んだことを現場でどのように実践するか、具体的なアクションプラン(いつ、誰に、何をするか)を策定させます。それを上司に提出し、定期的な1on1で進捗を確認する体制を整えます。
  • フォローアップセッションの開催
    研修から3ヶ月後、半年後など、定期的に受講者を集め、実践状況や成功体験、悩みを共有する場を設けます。他の受講者の取り組みが刺激となり、モチベーションの維持に繋がります。
  • 評価制度との連動
    研修で推奨された行動(例:部下への適切なフィードバック、1on1の質の向上など)が、人事評価の項目に組み込まれていることも重要です。会社として「どのような行動を価値あるものと見なすか」という明確なメッセージとなり、行動変容を強力に後押しします。

戦略的管理職研修こそが、持続的成長の礎となる

本コラムでは、「効果がない」と揶揄されがちな管理職研修を、いかにして組織の力に変えていくかについて論じてきました。重要なのは、研修を単発のイベントではなく、企業の事業戦略や人材ポートフォリオ戦略と連動した、継続的な人材育成システムの一部として捉えることです。

データに基づき組織課題を特定し、研修の目的を明確化する。そして、研修の前後で受講者の動機づけと実践を促す仕組みを構築する。このような戦略的なアプローチによって初めて、管理職研修はコストから「未来への投資」へと昇華します。

変化の激しい時代において、現場を率いる管理職のリーダーシップは、企業の競争力を左右する最も重要な要素の一つです。戦略的な視点に立った管理職研修への投資は、単に個人の能力を高めるだけでなく、組織全体のエンゲージゲージメントと生産性を向上させ、ひいては企業の持続的な成長を実現するための不可欠な礎となるでしょう。

株式会社コトラでは、貴社の人材ポートフォリオ戦略に基づいた効果的な管理職研修の企画・立案・実行を支援します。より具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

kotora

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コトラ(人的資本チーム)

経営戦略に連動した「動的な人材ポートフォリオ」の構築から、「採用」「育成」といった人材マネジメントの実践まで、人的資本経営を一気通貫で支援しています。

コンサルタント紹介

杉江 幸一郎
ディレクター ISO30414リードコンサルタント

東京大学経済学部経営学科卒。大手メーカー、通信事業者、IT企業など上場事業会社にて経営企画、事業戦略、新規事業立ち上げ等の責任者を歴任。上場企業取締役、CISO および ISO事務局等も担当。

コトラでは、ISO30414を始めとした人的資本経営のコンサルティングに従事。ISO30414リードコンサルタント。ESG情報開示研究会、人的資本経営コンソーシアム、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会員。

X(旧Twitter):@Kotora_cnsl


蘇木 亮太
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

同志社大学法学部卒。大手教育系企業でのコンサルタント経験を経て、金融系スタートアップに入社。 組織・人事企画チームに所属し、エンゲージメント向上施策やDE&I推進、研修開発、人事制度運用等を担当。

コトラでは、有価証券報告書・統合報告書における人的資本開示、ISO30414、人事組織コンサル等に従事。ISO30414リードコンサルタント資格/日本ディープラーニング協会G検定保有者。


大西裕也
リサーチャー兼コンサルタント

コトラでは、ISO30414認証取得支援及び人的資本開示動向のリサーチ、人事データ分析・レポート作成等に従事。

DX推進パスポート(G検定、データサイエンティスト検定、ITパスポート)、一種外務員資格取得者。


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