持続的成長を牽引する次世代の人的資本経営とは
『人材版伊藤レポート2.0』が公表されて以降、多くの企業がその実践的な「対応」に取り組んでこられたことでしょう。
- 経営戦略と人材戦略をいかにして連動させるか
- 現状(As is)とあるべき姿(To be)のギャップをどう把握するか
- 人的資本への投資が企業価値にどう繋がるのか、
このような『人材版伊藤レポート2.0』が求める本質的なテーマについて、自社なりの方針を固め、一通りの道筋が見えてきた企業も多いのではないでしょうか。
しかし、その上で問いたいのは、「果たして、それで十分なのだろうか」ということです。目まぐるしく変化する事業環境、多様化する働き方の価値観の中、5年後、10年後も自社は輝き続けることができるのか。
先進的な経営者や人事責任者の方々は、こうした対応をゴールと捉えず、むしろ、新たなスタートラインとして、その先の未来を見据え始めているのではないでしょうか。本コラムは、そんな問題意識にお応えするものです。『人材版伊藤レポート2.0』で示された論点を基礎としつつ、その先にある「次世代の人的資本経営」の姿を探り、企業の持続的成長を確かなものにするための視点を提言します。
未来を拓く3つの潮流:「個」「組織」「社会」
『人材版伊藤レポート2.0』が人的資本経営の実践フェーズへの移行を促したとすれば、その先に見えてくるのは、経営環境の変化に、よりしなやかに、かつ迅速に対応していくための経営モデルへの進化であると考えられます。私たちは、今後の人的資本経営において、特に以下の3つの潮流が重要性を増していくと考えています。
個のエンパワーメント:「管理」から「支援」へ
画一的なキャリアパスを会社が提示する時代は終わりを告げつつあります。これからは、社員一人ひとりが自らのキャリアを主体的にデザインし、成長し続ける「自律的キャリア形成」を、企業がいかに支援できるかが問われます。
人事の役割は、社員を「管理」することから、彼らの挑戦や成長を「支援(エンパワーメント)」することへと大きくシフトしていくでしょう。
組織の俊敏性(アジリティ):「固定」から「流動」へ
予測不能な市場の変化に迅速に対応するためには、従来型の固定的な階層組織だけでは限界があります。事業戦略やプロジェクトに応じて、最適なスキルを持つ人材が部署の壁を越えて集結し、柔軟にチームを組成・解散する。
こうした「流動的」で「俊敏(アジャイル)」な組織運営が、イノベーション創出の鍵となります。
社会課題解決への貢献:「事業活動」と「社会性」の統合
企業の存在意義は、もはや利益の追求だけでは語れません。自社の事業活動を通じて、いかに社会課題の解決に貢献していくか。多様な才能を惹きつけ、社員のエンゲージメントを高める上で、この視点は不可欠な要素となっています。
3つの潮流を統合する、戦略的な文化醸成
私たちコトラは、これら「個のエンパワーメント」「組織の俊敏性」「社会との接続」という3つの潮流を束ねる共通の鍵が、『人材版伊藤レポート2.0』でも強調されている「企業文化」そのものであると考えています。
結局のところ、社員が自律的に動けるか、組織が柔軟に変化できるか、社会貢献を自分ごとと捉えられるかは、日々の行動や意思決定の拠り所となる文化に大きく左右されます。したがって、未来に向けた変革の第一歩は、目指す姿を実現するための文化を意図的にデザインし、醸成していくことに他なりません。
以降では、その文化醸成に繋がる具体的な実践的視点をご紹介します。
次世代型組織に向けた3つの実践的視点
では、未来を見据えた人的資本経営に向けて、企業は具体的に何に取り組むべきなのでしょうか。ここでは、未来への布石となる3つの実践的な視点をご紹介します。
「心理的安全性」の高い組織文化の醸成
社員が失敗を恐れずに挑戦したり、率直な意見を述べたりできる環境。この「心理的安全性」は、イノベーションや生産性向上の土壌となります。リーダーシップ研修の内容を見直したり、チーム単位での対話の機会を増やしたりするなど、意図的に文化を育んでいく姿勢が求められます。
「スキルベース」での柔軟なチーム編成
所属部署や役職といった「箱」ではなく、個人の持つ「スキル」を基に、プロジェクトごとに最適なチームを編成するアプローチです。これを実現するためには、前段として社員のスキルを可視化し、誰もがそれを検索・参照できる仕組み(スキルデータベース)の整備が有効です。
社員の「ウェルビーイング」向上への戦略的投資
心身ともに健康で、社会的にも満たされた状態である「ウェルビーイング」は、もはや福利厚生の範疇を超え、経営戦略の重要な一角を占めるようになっています。近年、社員のウェルビーイングが高まりがエンゲージメントの向上につながるという調査結果も報告されており、ウェルビーイング向上は個々のパフォーマンスを最大化するための、戦略的な投資と位置づけるべきでしょう。
変化を力に変える、企業のレジリエンス
本コラムでは、『人材版伊藤レポート2.0』のさらに先を見据えた、次世代の人的資本経営のあり方について論じてきました。個を活かし、組織の俊敏性を高め、社会との繋がりを深めていく。こうした取り組みは、一見すると遠回りに見えるかもしれません。
しかし、VUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)の時代において、企業の最も重要な競争力は、変化に対応し、そこから再起する力、すなわち「レジリエンス」であると考えられます。人的資本経営の進化とは、このレジリエンスを組織に実装していくプロセスそのものなのです。未来への一歩を、今ここから踏み出すことが期待されます。
株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。心理的安全性を測定する組織サーベイの実施や、社員のウェルビーイング向上に繋がる施策の企画立案など、より具体的なご相談はお気軽にお問い合わせください。