貴社の採用活動、「欠員補充」の域を出ていますか?
人的資本を「コスト」ではなく、企業価値創造の源泉となる「資本」として捉える「人的資本経営」。この考え方が浸透する中、採用活動そのものの位置づけも大きく変化しています。
もはや採用は、目先の欠員を埋めるためのオペレーションではありません。事業戦略と連動し、企業の未来に必要な人材ポートフォリオを構築するための、極めて重要な「戦略的投資」なのです。
そして、この「戦略的投資」の成功確率を最大化する上で、その最前線に立つ「面接官」の質が決定的に重要となるのは言うまでもなく、従来から面接官研修は重要な人事施策とされてきました。面接スキルを高め、採用のミスマッチを防いで定着率を高める、候補者体験を向上させて採用ブランドを守るなど、その目的は多岐にわたります。
しかし、人的資本経営という視点に立った時、面接官研修の持つ意味もまた、大きく変わってきます。それは単なる面接スキルの向上に留まらず、企業の未来を創造する担い手としての意識を醸成する、重要な経営活動の一環となります。本コラムでは、人的資本経営の時代における、戦略的採用と面接官研修の新たな役割について考察します。
【事例】未来戦略と採用の断絶:グローバル製造業E社のジレンマ
当社のご支援実績をもとに、グローバル展開を進める製造業E社のケースを例に考えてみましょう。E社は、既存事業の安定した収益を基盤に、DXやカーボンニュートラルといった新規事業領域への進出を計画していました。しかし、その戦略を実現するために必要な人材の獲得に苦戦していました。
- 過去の成功体験への固執
面接官である現場の管理職は、これまでの事業で成功してきた人材、すなわち同質性の高い人材を評価する傾向が強かった。 - 未来のスキルギャップへの無頓着
3年後、5年後に会社が必要とするスキルセット(例:データサイエンス、GX関連技術)を理解しておらず、目先の業務遂行能力ばかりを重視した採用を行っていた。 - ダイバーシティ&インクルージョンへの意識の欠如
海外の優秀な人材や、異業種からのキャリアチェンジ人材を採用しようとしても、面接官が彼らの持つ多様な価値観や経験を正しく評価できず、採用に至らないケースが多発していた。
E社の課題は、経営戦略と採用活動が分断されていたことにありました。経営層が描く未来のビジョンが、採用の最前線である面接官にまで浸透しておらず、結果として「未来を創る人材」ではなく「過去の延長線上にいる人材」ばかりを採用しかけていたのです。この状況を変えるためには、面接官研修を通じて、採用の「ものさし」そのものをアップデートする必要がありました。
企業価値を高める戦略的採用への転換
投資家やステークホルダーは、企業の持続的な成長可能性を判断する上で、その人材戦略、特に未来への投資としての採用活動に注目しています。人的資本情報を開示する上でも、自社がどのような戦略に基づいて人材を獲得しているかを説明する責任は、ますます高まっています。
未来起点での「人材ポートフォリオ」設計
戦略的採用の第一歩は、経営戦略・事業戦略からバックキャストし、将来のあるべき「人材ポートフォリオ」を定義することです。今後注力する事業領域はどこか、そのためにどのようなスキルや経験を持つ人材が、いつまでに、何人必要なのか。この未来像と現状とのギャップこそが、採用によって埋めるべきターゲットとなります。
面接官研修の重要な役割は、この全社的な人材戦略を、全ての面接官に自分ごととして理解させることです。面接官は、目の前の候補者が、自部門の短期的な課題を解決するだけでなく、会社全体の未来のポートフォリオにおいてどのような価値を持つのか、という大局的な視点を持って選考に臨むことが求められます。私たちコトラでは、人材ポートフォリオの構築支援を通じて、経営戦略と人事戦略の連動を強力にサポートします。
スキルベース採用へのシフト
従来の職務経歴書ベースの採用だけでは、変化の激しい時代に必要な潜在能力や新たなスキルを見極めることは困難です。これからの採用では、候補者が現在保有しているスキルや、今後獲得しうる学習能力を客観的に評価する「スキルベース」の視点が重要になります。
面接官研修では、候補者の過去の経験の中から、再現性のあるポータブルスキルやコンピテンシーをいかにして引き出し、評価するかを学びます。これにより、異業種からの挑戦者や、まだ実績は少なくとも高いポテンシャルを秘めた若手など、多様な人材の中から未来のリーダーを発掘することが可能になると考えられます。
未来を創造する面接官を育成するために
人的資本経営を実践する上で、採用のあり方を未来志向へと転換させるための具体的なアクションを3つ提案します。
経営トップが「採用へのコミットメント」を表明する
まず不可欠なのは、経営トップ自らが「採用は、未来の企業価値を創るための最重要課題である」という強いメッセージを、社内外に繰り返し発信することです。これにより、面接官を務めることが、単なる人事部の業務協力ではなく、企業の未来を左右する重要な責務であるという認識を組織全体で醸成します。
- 社内への発信
全社集会や社内報などで、中期経営計画と採用戦略を直接結びつけ、「我々が目指す未来には、こういう人材の力が必要だ」と具体的に語りかけます。 - 社外への発信
統合報告書やIR資料、人的資本レポートにおいても、人材戦略の重要性や、未来に向けた人材ポートフォリオの考え方を明確に記載します。これは、投資家や未来の候補者に対する強力なメッセージとなります。
面接官研修を「未来を語る場」へと進化させる
従来の面接官研修の内容に加え、自社の事業戦略や目指す未来像を深く理解させるプログラムを組み込むことが重要です。面接官の視座を「過去・現在」から「未来」へとシフトさせます。
- 事業責任者による戦略共有
人事部だけでなく、採用を必要としている事業部門の責任者が研修に登壇し、自部門のビジョン、今後の事業展開、そしてその実現のために「どのような経験・スキルを持つ人材が、なぜ必要なのか」を生の声で語る場を設けます。 - 「未来のスキルギャップ」の可視化
3〜5年後に必要となる人材ポートフォリオと現状とのギャップを具体的なデータで示し、今回の採用がそのギャップを埋めるための戦略的な一手であることを面接官に理解させます。これにより、目先の欠員補充という視点から脱却を促します。
「採用への貢献」をマネジメントの重要な責務として評価する
多忙な管理職にとって、面接は「通常業務に上乗せされる負担」と認識されがちです。この意識を変革するため、優れた人材の獲得(採用)と育成・定着は、管理職が果たすべき重要な責務であると、人事評価制度上にも明確に位置づけることを推奨します。
- 評価項目の具体化
単に採用人数を評価するのではなく、「戦略的人材の獲得に向けた採用要件定義への貢献度」「候補者の惹きつけ・見極めの質」「選考プロセスの迅速化への協力度」といった、採用活動の質への貢献を評価項目に加えます。 - 成功事例の共有と称賛
優れた採用活動を通じて事業に貢献した管理職を、社内表彰などで称賛し、その成功事例(どのような視点で候補者を見極めたか、どう魅力付けしたか等)を全社に共有します。これにより、採用活動が評価されるべき重要な成果であることを組織全体に示します。
採用は、最も重要な未来への先行投資である
本コラムでは、人的資本経営という大きな潮流の中で、採用活動と面接官研修が担うべき新たな役割について論じました。面接官は、単なる選考担当者ではなく、企業の未来の姿を構想し、その実現に必要な「資本」を社内に取り込むための、極めて重要な戦略的パートナーです。
一人ひとりの面接官の意識と行動が変わること。それが、企業の非財務価値を高め、持続的な成長を実現するための、力強い原動力となることは間違いありません。採用を、未来への最も重要な先行投資と位置づけ、その価値を最大化するための取り組みを、今こそ始めるべき時です。
株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。経営戦略と連動した人材ポートフォリオの設計や、未来志向の面接官研修に関するご相談は、お気軽にお問い合わせください。




